深夜1時。
前回の“おでん戦争”からまだ1週間も経っていないのに、俺とユウトの夜勤は容赦なく続いていた。
カウンターの奥で、ポップコーンの香りと電子レンジの“チンッ”という音が混ざる中、俺は何気なくからあげ棒の陳列棚を眺めていた。
「なぁ、ユウト。見ろよ、からあげ棒が一列だけ減ってる」
「え? 誰も買ってない時間だろ?」
「いや、でも昨日も一列だけ減ってたんだよ」
「……まさか、裏メニュー説?」
俺たちは顔を見合わせ、眉をひそめた。
裏メニューだと? そんな都市伝説、夜勤バイトには日常茶飯事だが、ここまでくると完全に怪しい。
すると、入口のドアが「ウィーン」と音を立て、常連の女子高生が現れた。
彼女は周囲をキョロキョロと見渡し、俺たちに小声で囁いた。
「……からあげ棒、裏メニューにしませんか?」
ユウトが小声でつぶやく。
「おい、普通に売れよ、裏メニューとか作るな」
俺はため息をつき、棚に並ぶからあげ棒を見つめた。
——裏メニューの存在、絶対トラブルの予感しかない。
案の定、事件は秒で起きた。
電子レンジでからあげ棒を温めていると、隣の棚から突如“爆音”が鳴り響く。
見ると、フライドポテトの袋が破裂し、油が床に飛び散ったのだ。
「うわっ、滑る!」
俺は慌てて床を踏ん張るが、ユウトは既に油に足を取られ転倒。
「ギャーーーーッ!」
「ああっ、ポップコーンまで巻き込むな!」
そんな中、常連のジジイが現れた。
「あれか、またからあげ棒か?」
「……いや、まだトラブル中なんだけど」
ジジイはにやりと笑い、袋から自前の“からあげ棒専用スパイス”を取り出した。
「これで裏メニューの味を再現できるぞ」
俺とユウトは顔を見合わせ、無言で頭を抱えた。
さらに悲劇は続く。
背後から突如、野良猫が侵入。
フライドポテトとからあげ棒を目がけて突進してきたのだ。
「ちょ、止めろ!」
「キャー!」
俺とユウト、常連女子高生、そしてジジイ、全員が店内でフライドポテトとからあげ棒の奪い合いを繰り広げる。
床は油と食べ物まみれ。電子レンジもポップコーンも無残に散らかっている。
結局、店長が深夜の騒動を聞きつけ駆けつけた。
「おい、何やってんだ!この店、戦場か!」
俺とユウトは情けない顔で立ち尽くす。
ジジイは満足そうに、スパイスの瓶を棚に戻していた。
女子高生は笑いながら、こっそりからあげ棒を1本持ち帰った。
夜勤の終わり、俺は疲れ切った体でカウンターに座り、ユウトと目を合わせた。
「……次は何が起きるんだよ」
「多分、明日はカップラーメンが暴走するぞ」
俺は心底うなだれた。
——夜勤、マジで休まる暇なし。
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