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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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翌日。

目覚めた私は、抱き枕とは違う感触に疑問に思った。

意識がはっきりしたところで、私は昨夜の出来事を思い出す。

ルイスにプロポーズされ、それを私は受け入れたのだ。

その後、私たちは――。

(私……、ルイスと愛し合ったのよね)

初めての経験ばかりで細かくは覚えていないけれど、その間は幸福な感情で満たされていた。

夜が明けた後も、私とルイスは一緒のベッドで眠っていた。

私は半裸のルイスに抱きしめられている体勢で目覚めたのだ。

(鼓動の音……、落ち着くなあ)

耳を澄ませば、ルイスの心音が聞こえる。彼の体温は心地よく、眠気を誘う。

今日はトキゴウ村の人の荷馬車に乗せてもらう予定だから、少し寝過ごしても問題ないとルイスは言っていた。

瞼を閉じ、二度寝をしようと思ったところで、ルイスの身体が動いた。

「……起こしたか?」

「ううん、さっき起きたばかりよ」

ルイスが目覚めたのだ。彼は私に優しく語り掛ける。

私を抱きしめていた腕が動き、私の頭を撫でてくれる。

見上げると、ルイスが微笑んでいた。

昨日までは何も感じていなかったけど、今はその表情を見るだけでドキッとしてしまう。

「可愛い」

「なっ、急にそんなこと言われても」

「戸惑ってるロザリーも可愛い」

「からかわないで、恥ずかしいじゃない」

目が合うと、ルイスが唐突に『可愛い』と口にした。

甘い言葉を口にされ、きゅっと胸が締め付けられる。

戸惑っていると、その様子も『可愛い』と言われた。

視線をルイスからそらすと、彼は私の頬に触れ、優しく撫でてくれた。

ごわごわした手の平の感触がくすぐったい。

「……私も、ルイスのことカッコいいと思っているわ」

「そっぽ向いて、ぼそっと本音を呟くところ……、最高に可愛い」

「もうっ! なんでも可愛い、可愛いって言わないでよ」

「じゃあ、好きって言いかえればいいか?」

「っ!」

私の額にルイスの唇の感触がした。

「好き」

瞼、涙袋、頬にキスを落とされる。

「宝石のようにきれいな緑の瞳が好き、ぱっちりとした目元が好き、恥ずかしがると真っ赤になるほっぺたが好き」

ルイスはキスをするたびに、私の『好きなところ』を伝えてきた。

そして、私にキスをした。

プロポーズされてから、私とルイスは何度もキスをした。

回数を重ねるごとに、ルイスの想いが伝わってきて、それに応えたいと感じるようになっていた。

「私も……、ルイスが、好き」

ルイスの身体に腕をまわし、ぎゅっと抱きしめた。

起きたくない。もう少し二人の時間を過ごしたい。

けれど起きて、屋敷に帰らなきゃ。

「ロザリー、もう一泊していかないか? 屋敷に帰したくない」

「それは駄目。屋敷に帰って課題曲の練習をしなきゃ」

この家にもう一泊したい。

ルイスも私と同じ気持ちだったらしく、耳元で囁かれる。彼の低い声が耳元で聞こえ、ビクッと身体が震えた。

誘惑に負けそうになるも、私は屋敷で待っているクラッセル子爵とマリアンヌ、グレンのことを思いだし、ぐっと堪えた。

今の私は毎日手を動かして、課題曲を身体に覚え込まないといけない。

一日休むだけでも、腕が訛る。

家族の期待に応えるためにも、屋敷に帰らなきゃ。

「課題って……、編入試験のやつか?」

「うん」

「合格したら、トゥーンで生活するんだよな」

「そうよ」

短い会話をしながら、私とルイスはベッドから身体を起こした。

はだけた寝間着を整え、乱れた髪を手ですく。

ルイスは床に落ちていたシャツを拾い、それを着ていた。

「ルイスも進級したら、トゥーンに戻るんでしょ?」

「ああ」

トルメン大学校に編入すれば、士官学校で通っているルイスと会うことができる。

祝日が合えば、街でデートすることだって。

「私ね、トキゴウ村に来る前はトゥーンで暮らしていたの。だから、新学期になったら――」

「俺も、ロザリーと一緒に行きたい場所が沢山あるんだ」

後ろからぎゅっと抱きしめられる。

ルイスの抱擁は、マリアンヌと同じく私を安心させてくれる。

私の傍にはルイスがいてくれる。

ひとりぼっちになると恐れなくてもいいんだ。

「その試験に受からないと、それも叶わないんだよな」

「ええ。だから、少し待っていて」

「……分かった」

了承してくれたものの、ルイスの声は少し残念そうに聞こえた。

抱擁が解かれ、私は自分のトランクのある部屋へ向かう。

寝間着を脱ぎ、昨日のワンピースに着替える。

化粧品で顔を整え、コームで髪をすく。

三つの束に分け、それを昨日のプレゼントについていたリボンと共に編み込む。

メイドやマリアンヌのようなヘアアレンジにはならなかったけど、お洒落に仕上がったと思う。

外向きの身支度を整えたところで、すべての用具をトランクの中に入れる。

「あと、これも」

最後にルイスから貰った童話の本と包み紙を入れた。

屋敷へ持って帰ったら、形見の本の隣に飾ろう。

包み紙は工作して、本の栞にしたい。

五年間、ルイスが大切に持っていたものだ。全て大事に使いたい。

「ロザリー、支度すんだか?」

「うん。今、行くわ」

ノックの音と共に、ルイスの声が聞こえた。

忘れ物が無いか部屋を確認したのち、トランクを閉じ、それを持って部屋を出た。

ドアを開けると、普段着のルイスが立っていた。

昨日と同じ服装なのに、ルイスを目の前にするとドキドキする。

「昨日、言いそびれたんだが……、そのワンピース似合ってる」

「あ、ありがとう」

「前、会ったときよりも明るく感じるし、スカートの生地がヒラヒラしてて……、好きだな」

「ルイス……、私の服装、そんなに細かく見ていたの?」

「もちろんだ。何着か見てきたけど、今の服装が一番いい」

ルイスは明るい色の服が好きなんだ。

黙ってはいたものの、私の服装を毎回チェックしていたらしい。

口喧嘩ばかりしていたのに、その間、私のことを見ていたなんて。

私がその場に立ち尽くしていると、ルイスは三つ編みに触れた。

「このリボン……」

「本を包んでいたリボンよ」

「昔に買ったやつで、色がくすんでただろ? 街に帰ったら新しいのを――」

「これでいいの」

私のことをずっと見ているのだから、当然リボンのことも気づく。

新しいものを買おうと提案してくれたが、私は首を横に振った。

「本だけじゃなくて、包み紙もリボンも大事にしたいの。だって、あなたから貰ったものだから」

「……そんなこと言われたら、俺、我慢できなくなる」

思ったことを口にしたら、ルイスに抱きしめられた。

このまま身をゆだねたら、昨夜のようになるのだろうか。

私はルイスの背をポンと叩いた。

「私も出来るならそうしたいわ」

「なら――」

「でも、数年後、後悔するかもしれない」

ルイスに甘えたい、愛し合いたいという気持ちを抑え、私は彼に訴えた。

私の理性が勝ったのは、屋敷から出る前にクラッセル子爵の後悔を聞いていたから。

「数年後って、なんだよ」

「えっと、昨夜は勢いでルイスと一緒になったけど……」

それを知らないルイスは、私に問う。

私はすうっと空気を吸った後、答えた。

「でもね、それで私の音楽の道が絶たれることが起こったら……、幸せだったことが、数年後、後悔に変わってしまうと思うの。だから、昨日の夜みたいなことは……、私が学校を卒業するまで待って欲しい」

私は音楽の道を諦めたくはない。

音楽で私の人生は大きく変われたから。

ルイスを愛していても、これだけは譲れなかった。

私は自分の意思をはっきりとルイスに伝えた。彼は、どう返事するのだろうか。

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