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ルイスは私を抱きしめたまま、黙っていた。

少し経って、抱擁が解かれ、ルイスが深いため息をつく。


「……わかった」

「ありがとう」

「ロザリーが卒業するまで、我慢する」


私はルイスに微笑んだ。

学校を卒業するまでの二年、ルイスは待っていてくれる。


「それなら、お義父さまの許しを得られると思うわ」

「ほんとうかあ?」


ルイスは疑いの目を私に向けた。彼の反応に私は苦笑する。

クラッセル子爵は私とマリアンヌに過保護なところがある。

ルイスが屋敷を訪れた時だって、クラッセル子爵と二人で話し込んでいたし。

同じ体験をしたグレン曰く「あれは尋問」と恐れていた。


「その……、私からもお願いするわ。始めはきつい態度をとられると思うけど、そのうち、あなたのことを認めてくれるはず」


目の敵にしていたグレンだって、徐々にクラッセル子爵の信頼を得られている。

ピアノの音色が師であるピストレイと似ていて気に入っているということもあるけど。

ルイスも少しずつ距離を詰めれば、クラッセル子爵と良い関係が築けるはず。


「まあ、それは屋敷に帰ってからまた話すとして――」


ルイスは私の三つ編みに触れる。


「その……、俺に結わえさせてくれないか」

「えっ!? い、いいけど」


ルイスの提案に私は面食らった。

私の髪をルイスが結わえてくれるなんて。


「じゃあ、そこに座って」

「うん」


私は食卓の椅子に座った。

ルイスは私の三つ編みを解き、編み込んだリボンをテーブルの上に置く。

自前のコームで私の髪をすいた。


「ルイスに髪を結わえてもらうなんて、不思議な気分だわ」

「俺の腕前、驚くんじゃねえぞ」


剣を持って戦闘訓練を行っているルイスが私の長い髪を結わえてくれるなんて。

髪をすく他に、髪にツヤを出すためのオイルを塗ってくれているようで、甘い香りが部屋中に漂う。


「昔、子供たちの髪を――、ではないわよね」

「これは使用人時代、ウィクタールさまの髪を結わえていた時に覚えたんだ」

「それって、ルイスの仕事に入るの……?」


髪を結わえながら雑談をしていると、ルイスの昔話が出てきた。

ルイスはペラペラ話しながらも、手を器用に動かし、私の長い髪を束ねてゆく。


「ウィクタールさまは、なんでも俺にやらせようとしてな。だから髪結いもその内の一つだ」

「ふーん」

「でも、俺はずっとロザリーのことしか眼中にないからな」


ルイスの昔話を聞こうとすると、必ずライドエクス侯爵家の子息オリオンと令嬢ウィクタールの名前が出てくる。

昨日までは意識しなかったけど、ルイスの口からウィクタールの名前が出てくると胸がチクリと痛む。

それと同時にルイスの手が止まった。


「ロザリーの髪を結いたいってずっと頭の中で考えてたんだ」

「今日、それが叶ったのね」

「ああ。結わえたい髪型が沢山あるんだ」

「……悩んでいるの?」

「うん。三つくらいで」


ルイスの言葉を聞いて、私は安心した。

私はルイスに愛されている。

ルイスは私のことを第一に考えてくれている。


「私のワンピースと合う髪型にして欲しいわ。ハーフアップだと、背中のリボンが目立たないから、昨日のようにまとめてほしいな」

「じゃあ、そうする」


三つの髪型で悩んでいる。その発言で私よりも髪結いが得意なのだと理解した。

私は一つに絞れるように、自分の気分を述べた。

それでルイスも決めたらしく、再び手が動き出した。



「あのリボンも使いたいんだよな」

「うん」


テーブルにあったリボンを使ってもらう。

少しして、ルイスに背を押された。どうやら終わったようだ。

トランクから手鏡を取り出し、自分の姿を映し出す。


「わあっ!」


髪が昨日のようにまとめられている。

リボンも一緒に結わえられ、先端がちょうちょ結びになっている。

頭を軽く振ってみても、解けることはない。

その出来栄えは、メイドに結わえられた以上のものだった。


「素敵だわ」


私はしばらくルイスが結わえてもらった髪型に満足していた。

髪型もそうだが、ルイスが持っていたオイルの香りがいい。

でも、男性が使うにしては、甘ったるい気がする。

クラッセル子爵はさっぱりとしたスパイスのような香水を好むし、グレンは付けない。


「似合ってる」


後ろから抱きしめられる。首筋にルイスの吐息がかかる。


「ルイス!」

「約束は守る。けど、ロザリーをギュっとするのはあり、だろ?」

「それ、屁理屈よ……」


私は首を横に向ける。

ルイスは自身の顔を動かし、私と見つめ合う。

そして、唇を重ね合わせた。

互いを求めあうように、私たちは何度もキスをした。


「あらまあっ」

「あっ、お、おはようございます!!」

「いいとこだったのに……、邪魔すんなよ」


二人の時間に入っていたせいで若夫婦が家に入ってきたことに気づかなかった。

声をかけられ、私はすぐにルイスから離れた。

ルイスとキスをしていたところをみられたなんて、恥ずかしいっ。

スカートの部分を強く握りしめ、この場から逃げ出したい気持ちを抑えた。

対して、ルイスは堂々としており、若夫婦に文句を言っている。


「昨夜からずいぶん仲良くなったねえ」

「ま、まあな」

「なら、昨日ロザリーちゃんに渡したアレ、使ったんだろう?」

「っ!?」


女性に渡されたドロッとした桃色の液体。

その使い方を私は昨日知った。

女性の質問を肯定するということは、昨夜の出来事を知られることになる。


「えっと……」


私は女性の手に銀貨を五枚置いた。

女性にしか聞こえない小さな声で「はい」と肯定する。


「銀貨五枚!? 貰っていいのかい?」

「夕食をご馳走してもらいましたし、その……、宿泊費です。クラッセル領の宿屋では銀貨五枚が相場ですので」


私は理由を述べ、頭をペコッと下げた後、自分の荷物を持って足早に家を出た。

そうしなければ、昨夜の出来事について聞かれるのではないかと思ったからだ。

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