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#オリジナル
モノクロナツキ
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「じゃあ、お前らの兄ちゃん、俺がもらってええか?」
「……はぁ!?」
俺の美容室のオープンがあと一ヶ月と迫った頃。
空くんから「お料理をご馳走したい」と申し出があって、兄弟たち、新くん、そしてもとちゃんと、やっとのことで休みを揃えられた特別な日のことだった。
「いや、この流れは絶対そうやろ?」
もとちゃんが悪びれもせず言う姿に、俺は呆れてため息をつく。
事の発端は、乾杯した直後に兄弟たちから立て続けに飛び出した「報告」だった。
「秀太にぃ。俺、新くんとお付き合いしてるねん」
「すみません秀太さん、ご報告が遅れてしまいました……!」
突然の洸の告白に、俺は完全にフリーズした。いや、なんとなくな、わかってはいたで? 初めて新くんがこの家に来た日から、明らかに二人ともいい雰囲気やったし、なにより新くんは身体を張って洸を守ってくれた。そんなん、二人がくっつかん訳ないやん。
ほんで。
「あー、俺らも実は付き合ってるねん。な? 空くん」
「うん、秀太さん、これからは俺のことも実の弟やと思ってください」
弦と空くんが少し恥ずかしそうに、はにかみながら言うてくる。
まぁ、ここも空くんの弦への懐き方が半端なかったから、薄々は気づいてたわ。しかも弦は、引きこもり気味やった空くんを外に連れ出せた恩人や。そんなん、二人がくっつかんわけないやん。
そこまでは「まぁ、よかったな」と兄貴らしく祝福モードやった。
問題は今や。なんでその席で、もとちゃんの告白まがいの暴挙を、「じゃあ」とついでみたいに適当に発表されなあかんねん。
「絶対無理、お前となんかありえへんからな!」
そう言い捨てて、俺は乾杯したばかりのワインを掴み、ダイニングテーブルから離れてソファへと避難した。
あからさまな拒絶に、テーブルの方ではみんながどう接すればいいか迷っている空気が漂っている。でもな、今一番戸惑ってんのは俺のほうや。
「……秀太さぁ、ええ加減気づいた方がええで? 秀太めっちゃもとちゃんのこと好きやん」
「俺、もとちゃんやったら、秀太にぃのこと譲ってもええと思ってるよ」
「なぁ、洸くん。そんなこと言わんとってよ」
いつの間にか俺のいるソファに移動してきた弦と洸くんが、何故か両挟みで俺を説得しにかかってくる。当のもとちゃんは何事もなかったかのようにワインを片手に他の二人と楽しそうに話している。なんやねん。お前ら二人とも、あいつに何か弱みでも握られとんか?
弦はまあ、ええよ。でも洸くん?洸くんは小さい頃から俺のこと「めっちゃ好き」って言うてくれてたやん。「秀太にぃと結婚する」ってあんなに言うてくれてたやん?
俺の代わりに甘えられるええ男を見つけたからって、そんな簡単に「譲る」とか言われたら……なんか、それはそれで寂しすぎじゃない?
「ほんまやで、秀太。俺ももとちゃんやったら、秀太にぃと付き合っても異議ないなぁ」
「何が秀太にぃやねん。お前が俺の弟やった記憶、一瞬もないわ」
ふざけて俺の前にわざわざ屈み込み、ニヤニヤ笑いながら追い打ちをかけてくるもとちゃん。こいつはいつもそうや。本気なのか冗談なのか、ほんまに掴めへん。
「まぁ、というのは冗談で。今日は秀太の新店舗の決起会も兼ねてるからな、みんなで楽しもう!」
もとちゃんはニコニコと人当たりのいい笑顔を浮かべると、ワイングラスを掲げてテーブルへと戻っていった。さっそく空くんと新くん特製のローストビーフを口に頬張り、
「うんまっ!」と目を丸くしている。
「親分、こっちもどうぞ!」
あの洸くんの一件があって以来、空くんと新くんが、もとちゃんのことをまるで本当の親分かのように崇める眼差しで見つめるのが、どうにも気に食わん。
「なんや、もとちゃんの冗談か。おもんな」
「えー、俺はほんまに秀太にぃともとちゃんがくっついてくれたら嬉しかったのになぁ」
「いや、ありえへん。あいつ、めっちゃ金髪美人大好きやからな」
「「え!?」」
初耳だったのか、洸くんも弦も目を見開いてびっくりしている。あれ? 俺、今まで言うてなかったっけ?
「駅前のBARあるやろ? あそこ、外国人の金髪のお姉さんがめっちゃくんねん。『金髪天国や』言うて、あいつも楽しそうに通っとるわ」
「え!?めっちゃ意外やった。あんなに硬派な見た目してるのに」
「ほんま、中井貴一みたいやのになぁ」
俺ら兄弟三人でソファに並び、遠くでニコニコと人の良さそうな顔で笑っているあいつを見つめる。
「……じゃあ、洸。野中さんの髪、金髪からアッシュに変えさせて正解やったな」
「ほんまや! 偶然とはいえ、ナイス判断やったわ」
「まぁ、でもあいつ、顔がタイプやったら男でも女でも大体イケるからな」
「それはあかん!!」
珍しく洸くんが本気で焦った声を上げ、テーブルの新くんのそばへと慌てて駆け寄っていく。俺はその背中を、ふっと細めた笑顔で見送った。
「なんか、洸くん、人間らしくなったよな」
「……秀太もおもてた? 俺も、洸が秀太以外にデレデレしたり甘えたりしてんのを見ると安心するわ」
隣に座る弦が、珍しくお兄ちゃんらしい優しい顔をして、しみじみと呟いた。
……正直な。
俺、ずっと洸くんを誰にも取られたくないと思ってた。
だけど、あの事件があって、俺の手だけじゃ洸くんを守りきれへんのやと、嫌というほど実感した。
メンタルの面で洸を支えてたのは弦で。
身体を張って危険から守ったのは新くんで。
あのおっさんからの脅威を断ち切ってくれたのはもとちゃんや。
結局。俺は、大好きな洸くんのために、何ひとつしてやる事ができんかった。