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#オリジナル
モノクロナツキ
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「でもさ、あの可愛い洸を作り上げたのは秀太やからな」
「……ん?」
俺の心を完全に読んだかのように、隣の弦がぽつりと呟いた。
「秀太、ありがとうね。もし、洸の兄貴が俺だけやったら、洸が大好きな仕事に巡り合うことも、大好きな人の元でスタイリストデビューする夢も叶えてあげられんかった。ほんま俺、秀太と洸と兄弟で良かったわ」
「……なんやねん、改めてそんなこと言うなんて弦らしくないな。ちょっと気持ち悪いんやけど」
ぶっきらぼうに言葉を返しながらも、嬉しくて、どうしても口元がにやけてしまう。照れ隠しに弦の頭をわしゃわしゃと激しく撫で回すと、弦はちょっと目に涙を浮かべながら、照れくさそうに笑っていた。
みんな同じ気持ちなんや。俺ら兄弟、一人も欠けたらあかん。全員が幸せじゃないとあかん。
目の前にいる大切な人たちが、ただ生きて笑っていること。それが当たり前じゃないってことは、あの事件で嫌というほど思い知らされたから。
「秀太さん、お魚好きですか? 出来立てのアクアパッツァです!」
空くんが本当に嬉しそうな満面の笑みで、ソファの前のテーブルに取り分けた料理を運んできてくれた。
「え! 俺の分は?」
それを見た弦がすかさず口を挟む。
「弦のは今、洸くんが取り分けてくれてるよ」
「!」
空くんのその返事を聞いた瞬間、弦は目に見えて嬉しそうな顔になり、「そうか」と上機嫌でダイニングテーブルの方へと戻っていった。ほんま分かりやすい奴やな。
「これ、バゲットをつけると最高なんで! あと、ワインのおかわりです」
空くんの後ろから、今度は新くんがニコニコしながら俺のグラスにワインを注いでくれる。
この子らは……なんてええ子なんやろう。
「……ちょっと待って。二人とも、一瞬ハグさせて」
さっきはもとちゃんの突然の暴挙に気が取られて、二人に対して気の利いた祝福の言葉すら、まともに掛けてあげられへんかった。
驚く二人に返事を聞く間もなく、俺はグイッと距離を詰めて、二人まとめて両腕で力一杯抱きしめた。
「……二人とも、ありがとうな。俺の大事な弟のこと、頼むな」
ほんまはもっと伝えたい言葉がたくさんあった。やけど、そんなんもう、言わんでも二人には絶対伝わってるやん。
「任せてください。洸くんのことは、僕の命に代えても守りますから」
「俺もです。弦に守られるだけじゃなくて、俺も弦みたいに強い人になりますから」
男三人でぎゅっと抱き合っていると、「なにしてんのぉ」と離れた場所から洸くんがこっちを覗き込んでケラケラ笑っている。ちなみに弦ともとちゃんはアクアパッツァに夢中で、俺たちの感動のハグなんて一ミリも気にしてへん。
「あ、そうや、俺、考えててんけど……洸くんのスタイリストデビューの日、新くんがお客さん第一号で来てくれへん?」
「え!? そんな大役、僕がですか!?」
三人で頭を突き合わせて、こそこそとサプライズの相談を始める。
「洸くんがまだ見習いの時はな、『秀太にぃのことを一番最初にカットする』って言うてくれてたんやけど、やっぱり好きな人ができたなら、その人が一番の方がええやん?」
「え……もしかして、洸くんって、新くんが初めての恋人ってことですか?」
空くんが目を丸くしてびっくりしている。そうやんな、あんな可愛い子やもん。今まで恋人がいなかった方が奇跡みたいなもんやわな。
「洸くんって、一回何かにのめり込んだらそれしか考えられへんようになるからな。物心ついた頃から、俺の真似してハサミしか触ってへんかったし……多分、そうちゃうかな?」
……え? もしかして新くん、それ知らんかったん?
新くんの顔を見れば、これ以上ないってくらい、めちゃくちゃ嬉しそうに顔をニヤつかせている。
「あ、もちろん空くんは、俺の新店舗での初めてのお客さんな? あの、騒がしい弟の相手を日頃してもろてるお礼を込めて、な」
「うわ、嬉しい! 秀太お兄ちゃん大好き!!」
まるで大型犬みたいに、ふわふわの髪を揺らした空くんが、嬉しそうに俺に飛びついてきた。今までは体の小さい洸くんが甘えてくるばかりやったから、俺よりデカい弟に全力で包まれるのも、これはこれで新鮮で可愛くてええもんやな。
「ちょっとぉ? そこの男子たち、さっきからイチャイチャしすぎちゃう?」
てっきり彼らの恋人である弟たちがヤキモチを焼きにくるのかと思いきや、少し酔っ払ったもとちゃんが、ワイングラスを片手にニヤニヤしながら話しかけてきた。
そうや、こいつがおったんやったわ。完全に忘れかけてた。
「あ、アクアパッツァ食べよ。あったかい方が美味しいねんな」
「それ、めっちゃ美味いで? 俺が食べさせたろか?」
「なんでやねん。一人で食べられるわ。それより、もうワインなくなりそうやし、もとちゃん一回自分の家帰って取ってきてよ」
「はぁ!? 今日俺、電車で来たのに! 往復で何分かかると思ってんねん!」
「秀太は俺にだけ優しくない!」と、少しお酒の回ったもとちゃんがブーブーと不満を垂れ流している。俺たちがそんな不毛なやり取りをしている間に、気配を察した空くんと新くんは、いつの間にかサッとテーブルの方へ逃げていた。
「……なぁ、秀太。俺の髪は? いつになったら切ってくれるん?」
空いた俺の隣のスペースにちょこんと腰掛けたもとちゃんが、少し拗ねたような、寂しそうな顔をして聞いてくる。
そんなことを今更聞いてきても、俺がスタイリストデビューする日のファーストカットの誘いを、真っ向から断りやがったのはお前やんけ。
「バーバー田中を裏切ったら、次はパンチパーマにされるんやろ?」
親父さんの代からの元宮家行きつけ、昔から地元にある渋い美容室『バーバー田中』。
「あそこのおっちゃんを裏切れへん」と、俺が当時、勇気を出して頼んだファーストカットの申し出を断られた心の傷は、実はまだ完全には癒えてへん。
やけど、そんな不器用なまでに義理堅い幼馴染のことを、「やっぱりええ奴やな」と内心で見直したのも確かやった。
「いや、もうさ……たまにちょっとカット間違ったら、俺ほんまにチンピラみたいになってることあるからな? 田中のおっちゃんには申し訳ないけど、俺もええ加減、オシャレなカットにしたいねん」
「でも、あの金髪のお姉さんらにはその方がウケええんやろ? 『ジャパニーズヤクザ』でええやんけ」
「まぁ……それは、そうやねんけど」
そう言った瞬間、もとちゃんが急に思い出したようにニヤニヤし出した。
……ほんま、こいつ。今頃頭の中、その金髪BARに行くことしか考えてへんのちゃうか?