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44 - 夏の約束  橙桃

♥

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2022年08月18日

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橙桃です。本人様とは関係ありません。

地雷だよって方、通報される方は見ないようにしてください。



桃side


夏真っ盛りのお盆の季節。

俺は毎年のように両親と共に祖母の家にやって来る。

扇風機をつけ、縁側に座りながら祖母と親たちの話をぼーっと聞きながら遠くを見つめる。高校生の俺が聞いたってちっとも面白くないと思うし。

祖母の家からちょっとしたところに神社が見える。そこでは毎年夏祭りが開催されていた。

俺もよく行ったなぁと考えていると祖母たちの笑い声が聞こえた。


祖母「あの時はびっくりしたねぇ」

母「ほんと、どこ探しても見つからなくて」

父「いやぁ焦ったなぁw」

桃「なんの話?」

母「あらさとみ覚えてないの?貴方昔夏祭りに行ったとき急に居なくなったのよ?」

桃「え、そうだっけ」

父「そうだぞ〜、迷子だ!って探し回ったんだからな。確か…7歳くらいだったかなぁ」

桃「へー、」


そんな昔のことは記憶に無い。

他の昔のことは覚えているのに7歳頃の記憶が全く無かった。



祖母「もう今の時間なら少しの屋台は出てそうだね」

母「確かに。さとみはどうする?お母さんたちと周る?」

桃「…1人で周る」


地元から離れたこの田舎町には友達も居ないし、だからといってずっと家に居るのも暇だから1人で周ることにする。





屋台を周るも新しいゲーム機を買う為に貯めている金を使いたくなくて、結局何も買わなかった。



少し休む所を探していると林の中に妙に隙間がある所を見つけた。

行っていいとは思えないが、怖いもの見たさの様な感覚で足を進めてしまった。

少し歩くと急に視界が明るくなった。

眼の前には異様な光景。

一見先程までいた屋台と似ている気がするが、黒い影のようなものがうじゃうじゃいて人間の世界ではないことは確か。

きっと俺は死者の世界に来てしまったのだとすぐに悟る。

息が詰まりそうで苦しくなってきた。

帰ろうと振り返ると歩いてきた道は無くなっていて、ただ暗闇だけが広がっていた。


桃「ぇ…、どうしよ…」


ふと顔を上げた時黒い影の様なものがこちらに向かってきた。紅い目をぼんやりと開けて。


桃「ヒッ…ぇ…あ、」


流石に怖いものが得意な俺でもその恐怖に耐えきれず、腰が抜けてしまう。

俺が地面に座り込もうとしたその時


?「ごめん、これ俺の連れやから触らんといて〜」


誰かに抱き締められた。

黒い影は一瞬こちらをジロリと睨んで去って行った。


?「あっぶなー、君あの世に連れて行かれるところだったで〜気ぃつけてな?」

桃「ぁ、はい」

?「にしても、やっぱり一瞬でも離れちゃあかんでったな…これは俺が悪いな」

桃「え、えと貴方は…?」


眼の前には俺よりも1、2歳ぐらい年上の男性。きっとこの人が助けてくれたのだろう。

しかし、この人も人間ではないオーラを出している。夕日のような橙色の髪の毛からは狐の耳が生え、着物に身を包んでいる。


橙「あぁ俺はジェル。うーんと、簡単に言うと神様の遣い?みたいな?」

桃「へぇ…」

橙「反応薄ない?普通の人間だったらめちゃくちゃ驚かれる筈なんやけど」

桃「まぁさっきのような奴見た後だと衝撃が少ない」

橙「うわぁ的確」


ジェル曰く、毎年この時期になると死者の世界と人間の世界が同時に夏祭りを始めるらしく、俺が来た道が毎回その2つの世界の狭間になっているらしい。

ジェルはそこの見張りをしているらしいが、つい目を離したすきに俺が入り込んでしまったらしい。


橙「いやぁそれにしても、人間がこっちに来るのは10年ぶりやなぁ」

桃「10年前にも目離したのかよ」

橙「いやぁ…あはは…」

桃「……ていうか、そんな事より下ろしてくれない?」

橙「へ?」


何故か俺はこのジェルという奴に横抱きにされている。


橙「だって今腰抜かしとるやろ?」

桃「だからって…」

橙「死者の世界の地面に座るとあの世に引きずり込まれるで?」

桃「まじかよ……」


そんな恐ろしいところに来たのか俺。


桃「…俺って帰れるの?」

橙「うん、まぁ一応。ただ条件はある」

桃「条件?」

橙「俺と手を繋ぐこと」

桃「…………なにそれ」

橙「俺と手を繋ぐことによって術にかかるんよ。そしたら君の存在は見えなくなる。但し絶対に離したらあかんで?術がとけて居場所がバレるからな」

桃「バレたら…?」

橙「生きては帰れない」

桃「ッ……」


帰ることができない…もう二度と。

俺はその条件に従うしかなかった。


橙「そういえば、君の名前聞いてへん!」

桃「…さとみ」

橙「………そっか、いい名前やな」






ジェルと手を繋いで数分、そろそろ足が疲れてきた。


桃「ジェル…何処まで歩くの」

橙「あと少しやから頑張りぃ」

桃「ぅう…」


橙「あ、ほら見えて来た」

桃「…?」


ジェルが指差した先には紅い大きな鳥居。


橙「あそこを潜ればあとは一直線や」

桃「そっか」


足を進める。決して手を離さないように。


鳥居の前まで来るとジェルは俺から手を離して、にこっと微笑んだ。

何故かその笑顔が懐かしく思える。


橙「普通はここに来たことを忘れさせる為に記憶を消すんやけど…」

桃「だけど…?」

橙「………取り敢えず1回やってみるか」


ジェルがそっと俺の頭に手を乗せる。

その瞬間ふわっと柑橘系の香りがした。




…………?

ここ、どこ…?

おれ、何してたんだっけ……


ふと顔を上げると耳を生やした男の人が立っていた。


あれ…この人何処かで………




桃「…じぇる?」

橙「………やっぱりか」

桃「え、あれ、どういうこと…?俺は、なんでここに?」

橙「…さとみがまた死者の世界に来たんやで」

桃「…え?」

橙「今、ここに来たんや。覚えとる?」

桃「ぼん、やりと…」

橙「そっか。今な今日の記憶を消したんよ。だけどその代わり、前に消した記憶が戻って来てしもうた」

桃「……俺また来ちゃったんだ…」

橙「うん…だから今日の記憶も消さなくてもええかなって。どう?さとみは消したい?」

桃「…消さなくていい。ジェルとの時間、忘れたくない」

橙「そっか…じゃあ戻すな」





桃「んぅ……」

橙「さとみ、?」

桃「……!ジェル!」


ぎゅっとジェルに抱きつく。

全てを思い出した。そうだ、俺は昔一度ジェルに会っていたんだ。10年前に俺が迷子になってここに来たときもジェルが助けてくれたんだ。


橙「ふふ、大きくなったなぁさとみ〜」

桃「えへへ、会えて嬉しい!」

橙「もう…俺さとみのこと忘れようとしてたのにぃ会いに来られたら諦められへん〜」


そう、そして10年前に会った時に俺はジェルに一目惚れだった。そしてジェルも。


桃「うわ〜10年無駄にした気分〜」

橙「しゃあないやろ、普通は記憶消さなきゃあかん決まりやから…」

桃「知ってるw……でもずっとここにいちゃ駄目なんだよね…」

橙「うん…そろそろ人間界の祭りは終わるからな…」

桃「………また、来年も会えるかな」

橙「…うん、きっと」

桃「絶対だよ、約束」

橙「もちろん、約束」


そっと接吻を交わし、抱き締め合う。

そして俺は立ち上がって階段を降り始める。


橙「絶対に振り向いたらあかんで〜」

桃「うん、!ジェル、俺と1年間会えないからって泣くなよ〜」

橙「それはさとみの方やろ!」


まぁ確かに泣きそうだな。

でも、また会えるって信じているから。


俺は前を向いて1段ずつゆっくりと降りる。

ジェルと共にいれる時間を惜しんで。





階段を降りると見慣れた景色が広がっていた。


母「あら、どこに居たの?見かけなかったけれど」

父「まぁまぁ楽しめたそうだしいいじゃないか!」

祖母「何かいいことでもあったのかい?」

桃「…まぁね」


1年に1度だけ会える俺らの関係

まるで織姫と彦星のようだ。

もう二度と忘れない

早く来年になりますように

そう願って神社に向かって微笑んだ

この作品はいかがでしたか?

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コメント

31

ユーザー

ふつーにみんの遅くなったすまん まじで神なんだが?やべぇ好き(

ユーザー

これが駄作だったら天と地が逆さまになります!(?) 本当に尊いんですっ…てんさんの信者になろうかな…((

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