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Side 美緒
「うっ……」
寝返りを打とうとして、体中に激痛が走り目が覚めた。
目の前は、白いカーテン。ピッピッと心拍計の音が聞こえる。
「目が覚めましたか?お名前言えますか?」
看護師さんに声を掛けられた。
「はい、菅生美緒と申します」
「年齢言えますか?」
看護師さんから繰り出される質問に答えながら、私はどうしてベッドに居るのか、ぼんやり考えていた。
病院には祖母のお見舞いに来たんだ。
健治も一緒だったはず……。
そして、ハッとした。
「私、階段で突き落とされたんです。防犯カメラがあったら、映像取って置いてください」
看護師さんの顔色がサッと変わる。
「わかりました。警備の方に伝えて置きます」
「あと、主人が私の事を探しているかもしれないので、連絡を取りたいんですが」
「ご主人お部屋の前でお待ちです。すぐにお呼びしますね」
パタパタと出て行く看護師さんと入れ違いに、健治が病室に入って来た。
「美緒、大丈夫か?」
健治は眉頭を寄せ、心配そうな顔をしている。
「美緒、階段から落ちたって聞いた時にはびっくりした。ごめん、俺が買い物に行けば良かったな」
「……私のケガ、だいぶ酷いの?」
体中が痛くて、どのぐらいの状態なのか自分では判断がつかない。
「今のところ、判明しているのが、左手首の骨折と肋骨のヒビ、それと脳震とう。脳の方は、明後日の月曜日、MRI検査をするって説明だった。とりあえず、1週間の入院で様子見るって」
健治からの説明を聞いて私はつぶやいた。
「そう、入院なんだ……。大丈夫かな……」
「仕事は、仕方ないから休むしかないだろ?」
私はチラリと健治の事を見た。健治は私を慰めるように布団の上をポンポンとする。
「そうじゃなくて、私ね。階段のところで、誰かに突き飛ばされたんだ。また、何かあったらと思うと、入院するのに気が重くなるのも仕方ないよね」
犯人が誰かとは、あえて口に出しては言わないけれど、健治には伝わっているだろう。
健治は大きく目を見開いた。
「美緒……」
健治は何か言いたげに、口を開きかけた。でも、言葉にする事はなく、うつむく。
健治にも、誰が私を押したのか、見当がついているのだろう。
そして、その原因が自分だという事も。
ただ、その人物の名前を言えば、ふたりの関係を認めたことになる。
だから、言えないんだ。
「ケガしちゃたし、検査も残っているから、しょうがないよね」
そう言って私は、細いため息を吐いた。
健治は、ゆっくり顔をあげ、僅かに微笑む。
「なるべく早く退院できるように、病院に言っておくよ」
「うん、どうせ寝ているだけなら、家で寝てたいな」
「そうだな。寝ていても痛くないように、ジェルマット買っておくから、早く帰っておいで」
「うん」
階段から落ちてから、どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
閉じたカーテンの先には、夜の闇が広がっている。
もうすぐ、面会時間も終わる時刻だ。
健治もそれに気づいたのか、左手に嵌めた時計を見て、腰を上げた。
「そろそろ時間だな。また、明日も来るから」
「あっ、帰る前に、私のスマホ枕元に置いておいて」
里美に連絡を入れて、仕事を休む手配をしないといけないのだ。
健治は、私の枕元へスマホを置いてくれた。
緑原総合病院は、検査や手術室の周りはスマホの使用が禁止されているけど、病室では常識の範囲内で使用が認められている。
連絡の手段を手に入れた私は、ホッとする。
「ありがとう」
「どういたしまして。明日、充電器も持ってくるよ」
「基礎化粧品も!」
間髪入れずに、注文を出した私に健治はアハハと笑う。
「了解。お大事に」
パタンとドアが閉まり、病室にひとりになると、途端に不安になって来る。
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こと-koto
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