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舞台は、日本の名門医科大学である「聖仁会(せいじんかい)医科大学付属病院」。ここは日本でも指折りの技術力を誇る病院であり、新しい医療機器や手術法の開発の中心地でもある。そんな病院に勤務する天才外科医・「槙原 健司」(まきはら・けんじ)は、冷静で的確な判断力と卓越した技術を持ち、医師や患者から絶大な信頼を得ている人物だが、その反面、患者に対して冷たく、感情をあまり表に出さない性格でもある。
彼が日々携えているのは、大学時代に研究用として開発され、いまだ市販化されていない特殊な手術器具「オクタヴァン・クリップ」。このクリップは従来の手術用ペアン(止血用鉗子)とは異なり、非常に精密な構造を持ち、狭く入り組んだ血管や複雑な組織にも対応できるのが特徴だ。開発には多くの時間と費用がかかったが、その威力は絶大で、槙原はこの器具を駆使することで、通常なら助からない重篤な患者を次々に救ってきた。
ある日、聖仁会病院に新しく赴任してきた若手の外科医・「藤本 美咲」(ふじもと・みさき)は、槙原の手術に初めて立ち会う。美咲は槙原の技術に心底感銘を受けつつも、彼が手にしている「オクタヴァン・クリップ」の存在に違和感を抱く。どうして他の医師はあの器具を使わないのだろう? 疑問を抱いた美咲は、手術後、槙原に直接尋ねることにした。
槙原は少し困った顔をしながら、オクタヴァン・クリップが「臨床試験段階にあり、正式にはまだ許可が下りていない」という事実を告げる。そしてさらに、「このクリップにはひとつだけ大きなリスクがある」とも言った。彼によると、この器具は血管を極限まで押さえ込むことができる一方、器具を外す際に微小な出血が起きやすく、それが術後合併症のリスクを高めてしまうという。しかし、そのリスクは彼の技術によって抑えられており、助かる見込みの低い患者には使わざるを得ない場面があるのだ、と。
槙原の言葉に悩む美咲は、その後、彼とともに何度か手術に立ち会ううちに、オクタヴァン・クリップの精巧さと同時に、微妙に残るリスクを目の当たりにする。ある患者が、術後に原因不明の出血で危機に陥ったのだ。その瞬間、彼女は槙原が医師としての命をかけて器具に頼らざるを得ない理由を知ると同時に、病院側がリスクを知りながら見過ごしていることに不安を覚える。
物語は、槙原と美咲がオクタヴァン・クリップのリスクと向き合いながら、「技術革新」と「医師の倫理観」の間で揺れる葛藤を描く。新しい技術を追い求める一方で、医療とは何か、人命を預かる責任とは何か。医療現場の現実と向き合うことで二人が成長し、やがて医師としての新たな一歩を踏み出す物語。