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不敵な笑みを浮かべたパブロフは、シスターを数回振ってみる。少々持ちにくいが、まあいい。手応えを感じたパブロフがつぶやく。
右腕に力を込めると、グールの頭部めがけて『聖剣シスター』を全力で振りおろした。
顔の前で腕をクロスさせ、パブロフの体重を掛けた重い攻撃をグールが受け止める。
だが、聖剣シスターはグニョリと曲がり、グールの頭頂部にヒットする。
3メートルほど後方に吹き飛ばされたグールは、スネを強打した自由の女神っぽい顔をしている。
「おい! ニートボール。アンデッドに物理攻撃は効かねえって。どーでもいいけどさ、修道女でモンスターをぶっ叩く勇者なんて初めてみたし」
パブロフの頭上からシスターのアドバイスが降ってくる。
聖剣シスターで殴られたことにグールは驚いているようだ。
スケベ椅子のように中央が陥没した頭頂部をさすり、涙目で虚空を見上げる。
武器として使われたシスターは無傷だ。
グールの変な汁のおかげか。シスターの艶めく白い肌が、一層輝きを増している。
今度はシスターをヤリに見立て、パブロフが構える。
「聖槍シスタリック・ふぉーす!」
パブロフは内股で300メートルほど助走をすると、3メートル先に佇むグールめがけてシスターをブン投げた。
水の溜まった右ヒザが痛むのか、もう一方のヒザをつく。
「オメエの走り方、内股で気持ち悪ぃな、おい!」
胸元で手を組んだシスターが、グールに向かって飛んで行く。が、グールの30センチ手前にボトリと落ちた。
「助走の距離長すぎじゃね? それはいいんだけどさ、アッシをブン投げてもアンデッドには効かねえって。言っとくけど、修道女は聖職者じゃねぇから!」
地面で体を強打したシスターが、腰をトントンしながらパブロフに詰め寄った。
「物理攻撃がダメなら、聖水的なものは有効なのか?」
「アンデッドには効くんじゃね?」
パブロフに返答したシスターは、「どすこいしょ」とつぶやくと、地面に安座する。
「オマエから絞り出した聖水をペットボトルに詰めてこい」
パブロフは水の入ったペットボトルをシスターに渡すと、公園内のトイレを指さした。
「は? アッシの“聖水”を股から出してこい? そんなことしねえでも、アッシがペットボトルに指突っ込んだら、たぶん聖水か汚水になっから。効果は保証しねえけど」
指洗ってねえけど、大丈夫だろし。ポツリとつぶやき、シスターがペットボトル内の水を人差し指で掻きまわす。
毒々しい紫色に変化した水を検める。納得した様子で地面から立ち上がった。
「なあ、元店主。聖水飲むか?」
シスターは気だるそうに腰をボリボリ掻きながら、グールに近づいていく。
「この俺にインスタント聖水が効くと思うてか?」
手軽に出来る味噌汁っぽいことを言いながら、自信たっぷりの笑みを浮かべたグールが水を口に含んだ。
直後、グールが急に苦しみ出す。
指を頭上にあげ「ポゥッ!」と雄叫びをあげた。
「ポゥッってなんだよ。なんとか・J・フォックスのモノマネか? ぜんぜん似てねえし!」
シスターが涙を流して呵い転げる。
「それは違うマイケルだ。トミオカのほうだと俺は思うが」
パブロフはシスターにツッコミを入れると、自信がなさそうな表情で魔術師に助けを求める。
「ふたりとも違うってば。マイケルと言えば、宇宙航空研究開発機構でしょ?」
「パンシロンで、パン・パン・パ~ン!」
言葉をハモらせたパブロフとシスターは、魔術師に腹パンを三発お見舞いする。
4発目の腹パンを諦めたパブロフは、変化が起こりつつあるグールに目をやった。
グールの鼻と肛門から大量の蒸気が噴出する。
“ポゥッ!”と叫ぶたびに蒸気を吹き出させる。
蒸気機関車もびっくりなほどだ。
30ポゥッくらいした頃だ。グールの中身が全て蒸発する。
「デブった勇者に、ひとつ教えてやる。お前に残された命はわずかだ。死因は生活習慣病みたいな呪いのせいだ。ざまぁ! ばーか、頭ばーか!」
皮だけになったはずのグールから忠告がとんでくる。
「オマエはヤブ医者か! 余命宣告をカマすなら具体的な日数を言え!」
「そうだったな。お前の余命は……ガッ」
シスターが、パブロフの余命を言おうとしたグールのトドメを差した。
グールの皮がヘタリと地面に落ちる。
「死んじまったな。ズハハハ!」
ウェットスーツのごとくペラペラになったグールを一瞥したシスターが、高笑いを決め込んだ。
「俺の余命が不明じゃねぇか! 人生設計に支障をきたすだろうが……」
嫌いな野菜を目にしたときの小学生のような表情で、パブロフはシスターを見ていた。
「ヒール!」
したり顔のシスターが息絶えたグールめがけて回復魔法を繰り出した。
魔法陣ならぬ、直径5メートルの魔法瓶が顕現する。
傾いた魔法瓶から緑色の液体がグールの皮めがけて放たれた。
皮だけになったグールの体力が回復するわけがない。
無残な皮から、さらに異臭が立ち込める。
「オマエは何がしたいんだ? グールの皮をエコバッグにする気か?」
パブロフはグールの皮をつまみ上げ、魔術師から奪ったレジ袋に放り込む。
さて、グールをどうするか。
多少だが良識を持ち合わせているパブロフ。
魔術師にゴミを頭狂23区外に捨ててくるように命じた。
しかし、八王子市在住の魔術師から苦情がとんでくる。
はぐれ東京都に恨みでもあるのかい? と。
ピョコハマ・ドリームランドに埋めようと、パブロフが提案するも、「戸塚区に恨みでもあんのか! 区民全員に謝れ! 毛根しね! 港北区にある全部のバス停を2センチずらす!」とシスターから怨嗟の声があがった。
「“グール卓球便”に出すという手もあるがな。鮮度を保ったまま送ることができるが――」
クール卓球便だったか。ひとこと付け加えると、パブロフはシスターと魔術師を交互に見やる。
パブロフの予想に反せず、四つの瞳から冷たい光線が飛んできていた。
分かったから、2人とも冷ややかな目でみるな。
クールだけに……。
「港北区にある俺の家に持ち帰る」
そうは言ったが、やはり公園に埋めて帰ろうか。
などと考えながらパブロフは、もう一人メンバーを釣ろうと別のエリアへと歩みを進めた。