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この世界には人間とサキュバス、インキュバスがいる。
殆どは人間だが全体の一割ほどがサキュバスやインキュバスだ。
サキュバス、インキュバスとは淫魔のことであり、サキュバスが男を堕落させる女。インキュバスが女を堕落させる男のことだ。
見分ける方法は下腹部の淫紋、それだけだ。サキュバスは子宮を象った形を、インキュバスは男性器を象った形をしている。
だから街を歩いていて気づくことはそんなに無い。たまに男を引き連れて歩いている女やその逆を見かけてああ多分あの人きっとそうなんだな、と思うくらいだ。
原則として、男を惑わすのは女でありサキュバスと呼ばれ女を惑わすのは男でありインキュバスと呼ばれる。
しかしここに、少年であったが下腹部にサキュバスの淫紋を持つ子供がいた。
名を、六平千鉱という。今年小学一年生になったばかりの子供だ。
まだ幼いために周りの男性からちやほやされる程度で済んでいるが、第二次性徴期にははっきりとしたフェロモンを出し始めるという。
けれど相性が良かったりフェロモンに弱い人は敏感にそれを感じ取り、引き寄せられるとも医者には言われている。
千鉱はそんな自分の体が大嫌いだった。
その日、千鉱は小学校から帰宅するとランドセルを置いて公園へ出かけた。
その公園には最近野良猫が住み着いていて、その子に会いに行ったのだ。
茶トラのその猫は今日もてんとう虫の形をした遊具の中で眠っていて、千鉱もそこに入り込んで猫を脅かさないようじっと見ていた。
動物は人間よりフェロモンに敏感だ。この猫は雄なのだろう。千鉱が近くにいることで気持ちよさそうに腹を出して寝ている。秘密基地のようなここが千鉱は好きだった。
「!」
その猫が突然飛び上がって去っていった。千鉱が猫が出ていった方とは反対側の出入り口を見ると、見知らぬ男が覗き込んでいた。
「変わった匂いがすると思ったら、珍しいものがいるな」
顔にいくつか大きなほくろのようなピアスのある、怖気がするような整った顔立ちの男だった。
千鉱が猫が出ていった方の出口から出ようとすると足首を掴まれて引き止められる。
「おっと、逃げるなよ。少し遊ぼうじゃあないか」
男がぬろりと遊具の中に入ってくる。狭いな、なんて言いながらも軟体動物のように体を狭い空間に入れ込んでいく。
「お前、サキュバスだな」
「!」
どうして、と思った。これを知っているのは限られた人たちだけなのに。
驚いた顔を見て男は意外そうな顔をした。
「知らないのか。インキュバスはサキュバスの、サキュバスはインキュバスのフェロモンを探知できるんだ。本来このふたつの性は互いに番うために産まれてくるんだ」
「どうして……?」
「じゃなきゃ人間が滅ぶだろう?サキュバスもインキュバスもその気になれば国を傾けることも可能なんだ。ただサキュバス、インキュバス同士で番ってしまうだけで」
だがお前は違う、と男は言った。
「お前はまさしく傾国だ。なにせこの国を治めている殆どの人間は男だからな。お前が覚醒しその気になればこの国も手に入るだろう」
「俺、そんなことしない……」
「ふ、お前を使うのも良いかも知れないな」
男の手が千鉱のシャツを捲し上げ、ズボンを下ろした。
「や……!」
千鉱が抵抗するが子どもの抵抗など男には雛鳥が鳴いた程度のものだ。構わず下腹部の子宮を模したハート型の淫紋に手を触れるとそこを愛おしげに撫でた。
「まだ熟していないがそろそろ良いだろう」
ぽう、とそこが温かく感じて千鉱は目を見開いた。
「ああ……良い香りだ。まだ青い澄み切った香り……」
男は千鉱の下腹部に顔を寄せると淫紋をべろりと舐めた。
「ひっ」
千鉱が身を竦ませるとその舌は更に下へと降りていき、千鉱の小さなペニスを咥え込んだ。
「ひゃうっ」
そして千鉱のペニスをちゅるちゅると吸いながら男の手が千鉱の蟻の戸渡りに触れる。
じゅぐ、とそこは湿った音を立てて男の指先を含んだ。
「あうっ」
無遠慮に突き立てられたそれにビクリと震えるとああすまない、と男は指を抜いた。
「男サキュバスには産道があるというのは本当のことだったんだな。良いことだ」
「産道……?」
「ここに男の精を受け入れるとお前はたまごを産む」
「たまごを?俺はニワトリなの?」
「あんなものとは比べ物にならない金の卵だ。月に一度食べれば食べ続けている間は不老を得られると言われている」
「ふろう……年を取らないってこと?」
「賢いな。そうだ、年を取らない」
「ひとは年を取らないのが嬉しいの?」
「そういう人間は多いな」
「父さんにあげたら喜ぶ?」
「さて、お前の父親はどうだろうな」
「精を受けるってどうやるの」
「産道の中に男のペニスを受け入れて精子を出してもらうんだ」
「……」
千鉱は胡散臭げに男を見上げた。大人のそれを父親らのものを見たことがあるがあんなものがこんなところに入るとは思えなかったのだ。
千鉱の視線を受けて男はおやと笑った。
「信じていないようだな」
「だって、あんな大きなものが入るなんて信じられない」
「なら、いま証明してやろうか」
男が千鉱を押さえている方とは反対側の手をベルトに持っていったその時、少し離れたところで笑い声が聞こえた。公園に他の子供が入ってきたのだ。
男の手が腹から外されて千鉱は慌てて服を整える。
「時間切れだな。俺の名は幽。お前とはまた会うだろう」
「っ」
千鉱は男が体をずらして空けてくれた隙間から抜け出しててんとう虫の遊具の中から飛び出した。
柴チヒ落ちチヒ総受け(汝、密花なりて2)
千鉱の家から歩いて十分程行ったところに仙沓寺という寺がある。
そこには千鉱の父親の国重と知り合いの座村と漆羽という人物がいた。
座村は仙沓寺の後継ぎだったが本人が剃髪はしない経は読まない生臭はすると継ぐ気が全く無く、漆羽という仙沓寺の隣りにある剣術道場の弟子を自分専用の料理番に取り込んで好き勝手やっていた。
そんな仙沓寺に、千鉱はよく泊まりに来ていた。
父親はサラリーマンだったが短期出張の多い人で、そのたびに預けられていたのだ。
千鉱に好意的な国重の友人は他にもいたが、柴という人はバーテンダーをやっており夜の仕事なので千鉱を預かれなかったし薊という人は舞台監督をしていて一年の殆どを全国まわりをしていて預かれない。そうすると千鉱を預かってくれるのは座村だった。
そしてそんな千鉱に料理を教えたのは漆羽だった。千鉱が五歳のときから包丁を握らせて、丁寧に安全に料理を教えた。
それまで千鉱は父親から与えられる菓子パンや出汁の効いていない味噌汁とちょっとべちゃべちゃしたご飯を食べて育ったので仙沓寺で初めて食事をした日は感動したものだった。
決して父親の作るご飯が嫌いな訳では無い。不器用なりに頑張って作ってくれていることを千鉱は知っていたから。
だから自分が父親に作ってあげようと思った。漆羽の料理はこんなに美味しいのだからそれを自分がマスターしたら父親は喜ぶだろうと。
結果、父親は泣いて喜んだ。ありがとうな、美味しいですぅ、そんなことを言いながら食べていた。
それが千鉱の自尊心をくすぐった。もっと上手になりたい。美味しいものを父親に食べさせてあげたい。そう思った。
料理は楽しい。嫌なことを忘れさせてくれる。料理に集中している間はそのことだけ考えていれば良い。
けれど、終わってしまえばまた思い出す。
夕方の、男のこと。
幽と名乗っていた。本名なのかどうかも怪しい。
同時に、彼が言っていたことも本当かどうかわからない。
「父さん」
一緒に風呂に入ったときに千鉱は国重に聞いた。
「んー?なんだ?」
「男のサキュバスはたまごが産めるって本当?」
途端に父親の表情が真面目なものになる。
「誰から聞いたんだ?」
真剣な様子に千鉱はああ本当なんだな、と感じた。
「今日公園であった男の人。自分のことインキュバスだって言ってた。だから俺のことが分かったんだって」
「変なことされなかったか?大丈夫だったか?」
「っ」
視線をそらして彷徨わせると、ぐっと肩を掴まれて何された、と顔を覗き込まれた。
「へんなこと、された……」
「何された?」
「お腹のしるし舐められて、おちんちんも舐められた。あと、産道?ってところにゆび、ちょっとだけ入れられた」
顔を赤くしてそう打ち明けると、国重はどんなやつだった、と聞いてきた。
「この辺のやつか」
「知らない人。見たこと無い。変な黒いほくろみたいなの顔につけてた」
「そうか。怖かったな」
国重はぎゅっと千鉱を抱きしめた。お湯の中で素肌と素肌がくっつく感触が千鉱は好きだったのでホッとした。
「ごめんな、助けてあげられなくて」
「ううん。もうあの公園には行かないから大丈夫」
「学校から帰ったらもう遊びに行ったらダメだぞ」
「うん、わかった」
「じゃあ消毒しような」
「うん」
千鉱と国重はそれが当然のように唇を合わせ、何度か啄んだあと国重の肉厚の舌が千鉱の口内に入り込んできた。
「ん、ふ……」
舌を絡め取られて擦るように動いたあとちゅぽんっと舌が出ていき口付けが終わる。
「キスはされてないよ」
「そうだったか?」
「でも父さんとのキスはすきだからうれしい」
「チヒロ……!いい子に育ったなあ……!」
またぎゅっと抱きしめられて、体を離すと立てるか、と言われた。
「うん」
「次は淫紋を舐められたんだったっけか?」
「うん、べろんって」
「こうか?」
国重がべろんっと淫紋の下から上までを舐め上げる。千鉱はくすくすと笑った。
「うふふ、くすぐったい」
「大事な消毒だぞぉ」
「ごめんなさい」
「次はおちんちん舐められたんだな?」
「うん」
「ちゃんと足踏ん張ってるんだぞ」
「うん」
国重がなんの躊躇いもなく千鉱のペニスを口に含んで転がした。
「ああ……!」
ぢうっと吸われて膝が震える。それでも頑張って足を踏ん張っていると舌でころころと転がされて千鉱の喉が鳴った。
「んあっ……!」
千鉱が射精もなく達すると国重の指がつつっと蟻の戸渡りに伸びる。その指がすりすりとそこを撫でているとくちりと音がして指の腹が粘膜にあたったのが分かった。
「と、さん……!」
「大丈夫だ、痛くはしない」
ほころんでいくそこを父親はゆっくりと撫で、こねくり回して入口を柔らかくした。
「力を抜いていろ」
「ん……あ、ああ……!」
父のごつごつとした指がゆっくりと産道の中へと入ってくる。あの幽という男が挿れた場所よりももっと奥深く、奥深くと入り込んできて千鉱は父親の頭に捕まっていないと立っていられなかった。
「どうだ、変な男の感触は忘れたか?」
「忘れた、忘れたからぁ……!」
もう抜いて、と訴えるとそれはすぐに叶えられた。
ゆっくりと引き抜かれたその指を国重はじっと見ていたがおもむろにぱくりと口に含んで千鉱をぎょっとさせた。
「父さん?!」
「うん。甘酸っぱい。産道の中はこんな味がするんだな」
「確かめなくていいよ!」
「チヒロのことは全部知っておきたいんだよぉ」
抱きしめられるとそれだけでもう仕方ないなあという気分になってしまうからずるい。
「ほらチヒロ、お湯に浸かりなさい。体が冷えちゃうだろ」
「うん」
とぷんともう一度湯船に使って、今度は後ろから国重に抱きかかえられながら千鉱はあの不気味な男の顔を忘れかかっていることに安堵した。
柴チヒ落ちチヒ総受け(汝、密花なりて3)
今日は仙沓寺でお泊まりだ。千鉱は慣れた様子でリュックにお泊り道具を詰め込むとそれを背負って仙沓寺に向かった。
「おう千鉱。よく来たな」
御堂の縁側でいつものようにくつろいでいた座村が声をかけてきた。
座村は盲目だ。二十歳くらいのときに事故で両目を怪我してそれ以来、光を見ない。
けれど座村はそれ以外の五感が人の何倍も発達していて、こうして千鉱がやってくると足音の加減や常人ではわからぬほどの微かな体臭で人を判別するのだ。
「こんにちは、座村さん」
「まあこっち座れ」
「はい」
ぽんぽんと自らの膝を叩く座村に千鉱は靴を脱いでリュックを下ろすとどこからともなく現れた女性にそれを渡した。
「ありがとうございます、炭さん」
炭と呼ばれた女性はいえ、と微笑んで頭を下げると静かに去っていった。
「郎さんもありがとうございます」
千鉱が脱いだ靴をいつも正面玄関の方へ持っていってくれるサングラスを掛けた子供、に見えるがもう二十歳を半ば過ぎているそうだ、は郎と呼ばれておりまかせておけ、と笑って靴を持っていった。
千鉱が当たり前のように座村のあぐらをかいた上にちょこんと座ると今度は大柄な男がお茶を運んできた。
「杢さんもありがとうございます」
杢と呼ばれた男もにこっと笑うとどういたしまして、と頭を下げて去っていった。
「千鉱、なんか甘えもん食ったか?」
「?食べてないですよ?」
「そうか……ならいい」
「?」
座村は千鉱が甘味を好まないことを知っているはずなのになぜそんなことを聞いたのだろう。
どうしてですか、と問おうとしたらぎゅうっと背後から抱きすくめられた。
「甘え……頭がおかしくなりそうな匂いさせてやがる……」
「?臭いってことですか?」
なら、と離れようとしたが座村がぎゅうぎゅうに抱きしめていて離れられない。
座村はちげえよと言いながら千鉱の首筋に鼻先を突っ込んでいる。
「甘い……熟れた桃みてえな匂いがする」
「そうですか?」
すんすんと己の腕の匂いを嗅いでみるが全くわからない。
するとあー!と大きな声が上がって二人はびくりと顔を上げた。
「座村さん、またチヒロに手ぇ出してる!」
夕食に呼びに来た漆羽だった。でけえ声だすんじゃねえよ、と座村は文句を言って千鉱を抱き上げそのまま立ち上がると目も見えないのにすたすたと漆羽の方へと歩いた。
「チヒロ、嫌ならいやっていわねえと座村さんは調子づくからな」
「嫌じゃないです」
「ほれ、良いだろ」
「チヒロォ、もっと座村さんに厳しく当たらねえとダメだぞ」
「でも座村さんいい人ですよ」
「それは俺も知ってる」
「もういいじゃねえか。メシ、出来てんだろ。冷めちまう」
「はっ!そうだった!行くぞ!チヒロ!」
「はいっ」
とは言うものの千鉱は座村に抱かれているので行くのは座村である。
三人が食事に使う部屋に着くと、郎炭杢の三人、まとめて巻墨と呼ばれている、が膳を運んできた。
食事はいつも座村と漆羽と千鉱の三人で摂る。はじめの頃は漆羽は下がっていたが千鉱が漆羽も一緒がいいとお願いして今の形になった。
ちなみに巻墨の三人は給仕があるので、と断られた。残念である。
炭が千鉱の口元までがんもどきの含め煮を持っていく。ぱくっと食べると炭がふっと嬉しそうに顔をほころばせた。
杢が千鉱の口元を拭く。されるがままになっているとおい巻墨、と座村が割って入った。
「そんなんじゃ千鉱が自立できねえだろうが」
「大丈夫です、ここでしかこんなことさせないので」
千鉱がさらっと返すと座村がむうっと黙った。座村は座村で千鉱に甘いのだ。
すると今度は郎が千鉱の湯呑みに茶を注ぐ。巻墨の千紘甘やかしっぷりも堂に行ったものである。
巻墨は目の見えない座村の補助をするのが本来の役目だ。だが千鉱が来ると彼らは千紘につきっきりになる。
千紘は男サキュバスのため、男にちやほやされるのは分かるが炭は女であるのに千鉱に惹かれている。
これはもう千鉱の持って生まれた才だと座村は思っている。
食事が終わると千紘は漆羽に向かって三つ指をついて頭を下げた。
「今日も美味しいご飯をありがとうございます」
「おう!朝飯も期待してくれな!」
「はい!」
そうして千鉱にあてがわれている部屋に向かい、宿題を終わらせて風呂に入り、眠りについた。
うつらうつらとしていたら甘い香りがしてきた。
なんだろう、と目を覚まそうとしたのに体の自由が効かない。
人の気配がする。複数だ。いち、に、さん。
敵意は感じられない。むしろ馴染んだ気配だ。
「……千鉱様」
女の声がした。炭だ。では他の二人は郎と杢だろう。
安堵しているとお許しください、と炭が小さく呟いた。
「千鉱様のお体に許可なく触れること、お許しください」
「千鉱様、失礼します」
杢の声がして布団が剥がれた。何をするんだろうと思っているとズボンを下着ごと脱がされて脚を立たせられる。
「千鉱様、悪いな」
郎の声がして今度はパジャマをたくし上げられた。 そうして胸の尖りを舐められるのが分かった。
「ぅ……ん……」
尖りをこねくり回されて、舐られて。それだけで十分に千鉱には強い刺激だった。なのに今度はペニスが温かいものに包まれた。
「んぁ……」
ちゅぷちゅぷと吸い上げられて口淫をされているのだと気づく。
そうして仕上げとばかりに尻たぶを割られ、太い何かが入ってきた。
「んぅ……」
中で蠢く感触にそれが指であることが分かった。そんなところに指を入れるなんて、と思ったが次の瞬間にはそんなのも吹っ飛んだ。
「ぁう、ぁ……」
指の腹が内側の内壁を擦った途端、びくんと体が震えた。
声もろくに出ない、身動きも取れない状態ではただただ快楽を甘受するしかない。
「ぁ、ぅ、ん……!」
射精を伴わない絶頂にびくびくと震えるとずるりと指が引き抜かれて温かいタオルでそれぞれの場所を拭かれた。
「千鉱様、失礼致しました。香の効果はあと十分程で切れますのでご安心ください」
パジャマの乱れを直され、布団を被せられて三人がそれぞれ千鉱の額にキスを落として部屋を去っていった。
なんだったんだろう。巻墨のみんなはどうしてあんなことをしたんだろう。千鉱は考える。
けれどすぐに眠気がやってきてすとんと眠りについてしまった。
柴チヒ落ちチヒ総受け(汝、密花なりて4)
朝、目が覚めてあれは夢だったのではないかと思いながら洗面を済ませて着替えをする。
おかしいな、と思ったのはこのくらいの時間になれば巻墨の誰かしらが顔を出してくれるのにそれがない。
やはりあれは夢ではなかったのだろうかと思いながら食事の部屋に向かうと巻墨の三人が座村に頭を下げていた。
「おはようございます……どう、したんですか?」
「おう、おはよう、千鉱。確かに蘭奢待モドキの匂いがするな」
「らん、じゃたい?」
「蘭奢待っていうのは香木の名前だ。蘭奢待モドキってのはそれに似せて作った香でそれを嗅ぐと量によるが動けなくなる。昨夜、使われただろ」
「えっと……はい」
「いまその報告を受けていたところだ。全く、突然とんでもねえことしやがって」
「申し訳ございません」
炭が深々と頭を下げたまま言う。
「言い訳は致しません。ただひとつ、言わせていただけるのなら」
「言え」
「私たちはずっとあの肌に触れたかった。その想いが溢れたのが昨夜だった、それだけです」
「……ハーァ」
座村が深い溜め息をついて千鉱、と手招きをした。
「はい」
「怖かったろ、すまなかったな」
すると巻墨の三人が申し訳ありませんでした!と声を張った。
「いえ、巻墨の方々だというのは分かっていたので、だったら俺の不利益になるようなことはしないと思ったので問題はなかったです」
「お前ェ、小学一年生で不利益なんて言葉知ってんのか。頭いいなあ」
すいっと腕を引かれて当たり前のように千鉱を己の膝の上に乗せる座村。
「だけどよ、同意のない行為はイヤだろ?」
「そうですね。だから次からは許可を取ってください」
「えっ」
思わず顔を上げた巻墨とおいおいと呆れた声を上げる座村。
「そこはもう二度としないでくださいって言うところだろ?」
「でも別にイヤじゃなかったので……あ、でもお香で自由を奪われるのはイヤです」
「そこかよ。んじゃなにか、お前の許可さえ貰えれば俺でもお前にえっちいことしても良いってことか?」
ん?とヒゲを擦り付けてくる座村にくすくすと笑いながら千鉱は構いませんよ、と言った。
「俺相手にその気になるんですか?」
「おーおー、枯れたはずのモンが復活するくら痛っ」
すぱーんと頭をひっぱたかれて座村は何しやがる漆羽!と声を上げた。そこには調理を終えていつの間にかやってきていた漆羽がいた。
「何じゃねえよ!馬鹿なこと言ってねえでメシの時間だ!巻墨!そんなところで頭下げてる暇あったら膳運べ!」
巻墨が戸惑った視線を座村に向けると座村はくいっと顎で漆羽の方を指した。
「……失礼します」
三人が厨房へ向かって去っていき、その場には座村と千鉱と漆羽が残される。
「チヒロ、今夜は俺と一緒に寝るぞ」
「漆羽さんと?」
「巻墨がポカして座村さんもお前に骨抜きだ。お前のことは俺が守る。いいよな、座村さん」
「あーはいはい、そうしてくれ。まあ、お前なら大丈夫だろ」
すると巻墨の三人が膳を運んでくる。千鉱は座村の膝を降りて自分の座布団に座った。
「いただきます」
このときになっても、千鉱はまだ何も変わらない日々が続くのだと思っていた。
千鉱を学校まで送っていった漆羽が戻ってくると、座村さん、と神妙な顔で座村の前に座った。
「最近のチヒロ、どっかおかしいぜ」
「……」
「前まであんなふうに男を誘うような言動はしなかった。普通のこどもだった。それがあんな……言葉が悪いことを承知で言っていいか」
「許す」
「あんな熟練の娼婦みたいな目で俺を見たりしなかった……」
その喩えを座村は笑わなかった。
「千鉱は男サキュバスだ。成長につれて何か影響されているのかもしれんな」
「それにしたって早いだろ。早くたってサキュバスインキュバスがフェロモンを出し始めるのは十二歳くらいからだって俺らは習ったよな?」
「なにせ男サキュバス、女インキュバスの例が少ないからなあ」
「座村さん、俺、チヒロが可哀想でならねえよ。腹に普通と逆の印持って産まれたってだけでやれ傾国だのなんだの言われて。チヒロ、今だって毎月の通院で毎回血ィ取られて頭の先から爪先まで検査されて思想教育までされて……こんなの、いつまで続くんだよ……」
「千鉱が番を見つけるまでだな。番を見つければ千鉱のフェロモンは抑えられるって話だ」
「……あんたならなんとかならないのかよ。あんた、インキュバスだろ」
「……」
そう、座村はインキュバスだった。だから千鉱の桃のような香りをした成熟香をそれと知らずとも嗅ぎ取れた。
「チヒロだってあんたに懐いてる。あんたがチヒロの番になればチヒロだってこれ以上苦しまずに済むんだ……!」
「おいおい待て待て、番が見つかれば男サキュバスのフェロモンが落ち着くってのは本当かどうかもわからねえし千鉱はまだ小学一年生だぞ。俺みてぇなおっさんには勿体ないってもんだ」
「……だってさあ、俺、座村さん以上にいい男、知らねえよ。人間も出来てるしさ」
ははっと座村は天井を向いて笑った。
「どうした突然。褒めても何もでねえぞ。それにお前さっき自分が千鉱を守るって言ったじゃねえか」
「だって……座村さんだって、もう幸せになったっていいだろ……」
座村は事故のときに妻と幼い娘を失っている。座村は苦笑してそうだな、と応えた。
柴チヒ落ちチヒ総受け(汝、密花なりて5)
今回の国重の出張は二泊三日だったので千鉱はそのまま家には帰らず仙沓寺に向かった。
「おかえりなさいませ」
炭が迎えてくれる。ただいま帰りました、と微笑みかけると炭はホッとしたような顔を見せた。
炭にランドセルを預けて座村の部屋に向かう。
「千鉱です」
「おう、入れ」
郎がすっと襖を開けてくれた。それにありがとうございます、と微笑みかけて座村の膝の上に座る。
「おう、千鉱は相変わらずいい匂いがするなあ」
「そうですか?みなさんと同じシャンプーですよ?」
「んー千鉱は格別に甘い匂いがする」
「なんでだろ……」
むう、と嗅がれるがままになっていると杢がお茶を運んできてくれる。
「杢さん、ありがとうございます」
「あの、俺たちが言うことじゃないんだけどいいの?」
「?何がですか?」
「昨夜のこと、本当に怒ってないの?」
「怒ってないですよ。気にしてないです」
「気にしてないってのも傷つくんだけどなあ」
「あ、ごめんなさい」
「おい、千鉱。そいつは加害者だ。気を遣う必要はねえぞ」
「でも……」
「調子に乗せるなよ。こいつら虎視眈々と機会を狙ってるんだからな」
「そうなんですか?」
杢に問うと杢はまあそうかな、と笑った。
「じゃあ、そのときはこっそりと教えますね」
にこっと笑って言うと杢もにこっと笑って了解です、と部屋を出ていった。
「おい千鉱~。調子こかせるなっつってんだろーが」
「本当のことしか言ってません。その時が来るとも来ないとも俺は言ってませんから」
「いつからそんな悪女のような駆け引きができるようになったんだお前は……」
千鉱は座る向きを変えて座村と向き合うようにして座るとするりと座村の首に腕を回して引き寄せた。
「こんな俺はイヤ?」
ちゅ、と小鳩が突いたようなキスを捧げられると、座村は全身がぞわりとしたのを感じた。寒気ではない。強い快感からだった。
千鉱は父親から度の過ぎた愛情を受けて育っている。それがどういったものか千鉱自身から聞いている。
だからこれくらいの接触は千鉱にとって日常茶飯事なのだろう。
それにしたって初めて与えられたそれは甘美に過ぎた。
「千鉱……!」
「んう……」
千鉱の後頭部を掴んで口付ける。舌をねじ込んで無理やり歯列をこじ開けて舌を絡め取る。千鉱の口内はあの桃のような香りで満ちていて、唾液も甘かった。
じゅるじゅると唾液を吸い上げて、もっともっとと思う。この子どもを喰らいたい。喰らいつくしたい。
「ぁ……はふ……」
とろけた表情を見せる千鉱に、いやダメだ、と自制する。この子にはあの男がいる。
これだけ身持ちが軽くてもそれは周りの教育が悪かっただけでこの子のせいではない。
この子にはすでに想う男がいる。それを忘れてはならない。
「巻墨ィ!」
叫ぶとすっと襖が開いて巻墨の三人が現れた。
「郎!俺を引っ叩け!」
「ウス」
郎が目にも止まらぬ速さで背中からハリセンを取り出すとスパァンッと座村の頭を叩いて去っていった。
「……ふう」
「だ、大丈夫ですか?」
あまりの出来事に声も出ずにいた千鉱がようやく座村に声を掛けると正気に返ったぜ、と座村がフーとため息を付いた。
「いいか、千鉱。柴と会えない寂しさを俺たちで埋めようとするな」
「っ」
思いがけない名に千鉱がびくりと震えた。
柴とは国重の親友のひとりで普段はバーテンダーをやっている男だ。座村との面識もある。
「お前さんが本当に欲しいのは柴だろ」
「そんなこと……」
「違うってぇのか」
「……そんな贅沢なこと、言えません」
「なんでだ。お前のためなら柴はいつだって飛んでくるだろ」
「だって柴さんは夜のお仕事なんです。昼間はお休みしないと……」
それでも土日の夕方には出勤の前の僅かな時間を割いて顔を見に来てくれる。オフの日なんて疲れているだろうに国重と飲むという名目で千鉱にたくさんのお土産を買ってきてくれる。
優しい、ひとなのだ。
「ふっ……ぅ」
ぽろぽろと千鉱が泣き出したので座村はぎょっとして抱き寄せた。
「あーあー悪かった、悪かったな、千鉱。すみません。言い過ぎました」
「うぅ……」
座村が泣く千鉱をゆらゆらと揺らしながらおろおろとしているとスパーンと襖が開いて漆羽が現れた。
「なんだ座村さん!チヒロ泣かせたのか!」
「いや、まあ、ちょっとな……」
「チヒロ!メシ出来たぞ!美味いから元気出るぞー?チヒロの好きな杏仁豆腐もあるぞ!」
「あんにん、どうふ」
千鉱の涙が止まり悲しげな色がキラキラしたものへと変わる。
「ほら、行くぞ」
漆羽が手を差し伸べると千鉱は涙でべしょべしょの顔を袖口で拭って座村の膝から降りると漆羽の手を取って座村を振り返り、手を差し伸べた。
「座村さんも」
「許してくれるか?」
「許すもなにもないです。俺が勝手に泣いちゃっただけです」
それはそれで寂しいな、と座村は思ったがそうかい、と呟いて千鉱の手を取ると立ち上がった。
座村の鼻をあの桃のような香りがくすぐった。わたしを食べなくていいの?と囁いているようだった。