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これはある日の記憶。
こっちにこいと俺を呼ぶ父の元に、何だろうと思いながら向かうと真剣な話だと言う。ならばと正座をして向き合うそんな息子に少し笑いかけながら一呼吸置いて言葉を吐く。
「チヒロいいか、今から言うことは絶対に誰にも話すな」
「誰にも?」
「ああ、よく来る柴や薊にもだ。千鉱にとって大切なこと…身を守る為のことだからな」
「うん」
「良い返事だ。じゃあ言うぞ、実はな千鉱…気づいてると思うけど。実は千鉱のお腹の中に妖刀が眠ってるんだ」
正確には六振りココに入っていると、父は千鉱のお腹の中心辺りを指さして言う。千鉱はその指の先を見ながらじっと意識してみるが特に普段と変わらないから父はまた不思議なことをと見つめ返す。
「うーん、信じてないだろ」
「そりゃ急に言われても実感ないし」
「そりゃ特別な方法で封印しているからな。簡単にはだせないし感知も出来ない。だから千鉱が分からないのも可笑しくない。それにここに眠る妖刀は誰の手にも渡っちゃいけない、だからあいつらには妖刀は箱に入れて封印しているって話になってる。これは俺と千鉱の内緒だ」
約束できるかと左手の小指を差し出して問う。自分の中に刀が眠っているのに驚きはしたが、父の不安そうな顔を前に父を不安にしてはダメだと父の小指に自分の小指を絡ませる。
「うん、約束ね」
指切りげんまん~と約束の呪文を唱え、父の方へと目を向ける。
「ごめんな」
そういって雑に頭を撫でるがさつな手に、嬉しそうに笑いながら自分の手を重ねる。
このとき何故父が俺に謝ったのか分からなかったが、それが後々になって知ることになるとは思いもしなかった。
今日は、外で洗濯物を干すにはうってつけなくらい暖かい日だった。
「チヒロ!!今日は布団を干すにはいい天気ですね」
「そうだね、お父さんが手伝ってくれるならできるけど」
外で洗濯物を干している時に、遠くの方からドタドタッと大きな足音が聞こえた。この家の中で、二人しか住んでない家だから誰の音かなんて明白だ。元気よく現れた父さんを視界に入れるとにこーっとしては布団を干すぞと言う。だけど、俺一人で干すのはしんどい。じとっと目で訴えながら父さんの方を見るとそれもそうかという顔をしている。
なんだその顔。
「じゃあ干すスペース作っとくから、布団持ってきてよ」
「おう!任せろ」
「転けないようにね。じゃあ、よろしく」
そういうと、二階にある俺たちの部屋へと向かう父さんの後ろ姿を見ながら続きの洗濯物を次々と干していく。男二人の家から出るものなんてそう多くない。布団を何処に干そうかと考えながら、竿にかかった洗濯物の隙間を調節してスペースを布団一個分くらい空ける。それじゃあ父さんの手伝いをしようと自分も家の中へと足を進め、サンダルを脱いで中へと入り階段のある方へと進む。
「父さん大丈夫?」
階段下から声をかけると、上からは大丈夫だと元気な父の声が返ってくる。
それに続きながら自分も二階に上がって廊下の窓を開け家の中に風を通す。ついでにと、そこに掛け布団を干せるようにして父さんがいる寝室へと向かったのだった。
「父さん、掛け布団は二階の窓に干そうよ」
スペース作ったからさと言うと、父はひょっこり顔をだしてきた。
「ナイス、じゃあ俺は敷き布団を一階に下ろすわ」
二枚分の布団を持って降りていく姿に、足踏み外さないでねと念を押すとおうよと言いながら降りていった。
パチパチと近くで音がする。
可笑しい寝る前に火元は全て確認したはずだ。よく考えると普段鍛刀場で聞く火の音だと気がついて慌てて目を開く。
そこに飛び込んできたのは、火の光に照らされて頭から血を流し険しい顔をした父の顔だった。
真っ直ぐ睨みつけるように見る父の目線の先へと。目を向けるとそこには知らない人達が立っていてそのまま周りを見渡すと、さっきまでいたはずの家がごうごうと燃えていた。
鍛刀場だってぐっしゃりと潰れて見る影もなくなってしまっている。
「っ…」
「チヒロ、大丈夫だから安心しろ」
千鉱を抱きしめる父の手にぎゅっと力が籠もったのが伝わってきた。。そして父さんは俺を安心させるように声をかけつつ、目線は変わらず正面を見据えていて俺も目を向けると先頭に立っている男と目が合う。
「お目覚めかな、我らが姫よ」
「誰がお前達の姫だッ」
うっとりと見つめてくる男の目に怖くなり背けるように父さんを見ると、男を威嚇するように父さんは怒鳴る。その父さんの姿をよく見ると、そこかしこから血を流しているのに不安な心配な気持ちになっていく。慌てて父さんと呼ぼうとしたが、俺が何をしようと思ったのか分かったのか大丈夫だと笑いかける父に心配な気持ちから泣きそうになる。
「チヒロ、大丈夫だ」
「でもッ」
そう言葉を紡ごうとした時だ、父の頬を一筋の血が流れ落ちる。ぽたりと千鉱の頬濡らした。
肩で息をする父が震える声で大丈夫だという。たった一人の家族を失う恐怖で頭がいっぱいになる。
どうしたら父さん助けれるのか。そんなとき体の内から熱を感じ、一つの約束を思い出した。
『いいかここに妖刀が入ってるのは内緒だぞ』
真剣に俺に言い聞かせる父の姿が思いだし、本当はだめなことだろうけど今打開策としたらこれしかないと決断する。
そうだ。
「淵天」
妖刀の力を借りよう。
「チヒロ…ダメだ!」
父の元から抜けだし、父を庇うように前に立ち自分のお腹に手を当てる。ぐにょりとお腹に波打たせながら自分の手を中に入れていく。そしてこれだと、刀の柄を握り外へと引っ張り出す。すると、淵天は答えるかのように現れ千鉱の玄力が流れたことで金魚たちが自由に空に泳ぐ。
「みんなしんじゃえ」
頭が冴えただただ目の前の脅威を殺すことしか考えられなくなる。すでに冷静さを失った千鉱は、先頭に立つ男もろとも淵天で切ろうと振りかざす。自分の身には大きすぎる刀に振り回されるところもあるが、それよりも父を守るためと必死になって暴れる。 そんな強力な妖刀の力と予測できない動きに、男の後ろに控えていた人達は“何故か”攻撃せず交わすことに必死になっていた。
「ほぅ、綺麗だ」
そしてそんな中、一人先頭に立つ男は一連の姿を品定めするように千鉱を見ていた。にんまりと笑っては欲しいものを見つけたとそしてここだと千鉱が振りかざした刃を掴み本人に笑いかける。
「六平千鉱、俺と取引をしよう」
男の手からはドクドクと赤い血が流れ淵天の刃に伝い地面を濡らす。
「統領っ」
仲間の男が叫ぶが目の前の男は気にもとめず正気を失った状態の千鉱にしか目を向けない。千鉱は力を入れようとすると、その倍の力で握り絞められ刃が肉へと深く入っていく。刀が肉を切る感触から正気に戻り、自分がやったことなのかと刀と男の手と見比べ震え始めた。男は千鉱と同じ目線に屈み刃から手を離し流れ伝う血を舐める。
「おれ…」
「ああ、これくらい大丈夫だ。たいした怪我ではない」
「でも…」
目からは怯えからかぐるぐると廻り手を震わせる。さっきまでの威勢は何処へいったのかと男は笑いながら千鉱の姿を見る。
「それでどうする取引するのか」
「チヒロ、耳を貸すな!!」
不安定な状態の千鉱の顔を渦巻く瞳が覗き込み、顎を掴みながら告げる統領と呼ばれる男のやることに目を見開いて驚く。そして取引って何をと千鉱は聞き返す。父は、息子を守るため体を無理に動かそうとするが痛みが走り国重の唸り声がもれる。その声を聞いて、統領の手を払い落としてその場から離れ庇うように父の前に立つ。
「俺は今、簡単に君の父親…国重を殺すことができる」
まるで演説をするかのように話す男の姿に奥歯を噛みしめた。
「だが、千鉱お前自身が俺の元に来てくれるのなら…六平国重の命は保証しよう」
どうだ悪い条件じゃあるまいと問いかける男の目は、嘘を言っているようには思えない。それ以前に、承諾以外の選択肢は最初からないようなものだ。父を助けようとするなら、ここで男の案に乗るのが一番いいだろう。
それは幼い千鉱でも分かることだ。
だけど、父の命は保証されているだけでそれは一時のものかもしれない。だけど俺にそれほど価値はなく、多分男に価値があるのはここに眠る刀…妖刀が重要なだけだろう。ならばと、グッと拳を握っては男を真っ直ぐに見据え口を開く。
「条件がある」
まっすぐと睨み付けるように男を見返し、更に要求を求める。
「父さんには手を二度と出さないって誓って」
それに妖刀は簡単には渡さない。
構えていた淵天の刃についた血を払って、鞘に収めていると後ろからチヒロと辛そうな父の声が聞こえる。ここで振り返ってしまったら父を見てしまったら後悔してしまうかもしれない。
だから敢えてここでは振り向かない。父の思いとは違うとは思うけど、父を守るためなら自分から離れた方が良いんだ。
そう言って、鞘に収めた淵天を強く握りながら一歩一歩と足を男の元へと進ませる。男の前までたどり着くとじっと睨み付ける。
「承知した、我が姫に誓って約束しよう」
男は笑いながら、千鉱の右手を掴みそっと甲にキスをする。まるで姫を守る騎士のように。
そして用は終わったと、後ろで多少怪我を負って控えていた部下達を見て男は声をかける。
「さて、撤収だ。もうここには用はない」
ではな、六平国重。
隣に立つ千鉱の肩に手を置いてから印を結ぶ。千鉱はああ、これが最後なんだと察し国重に残す言葉を考える。
「ばいばい、父さん」
このときは父を見つめ手を小さく振る。もしかしたら父を見るのは最後になるかもしれない。
そう思うと、目から涙があふれてくるけど最後くらい笑顔でいなきゃと袖で涙を拭う。
「チヒロ!!!!!」
最後に見た父の姿は、満身創痍でくしゃくしゃに涙を流す姿だった。
「ごめんなさい」
今度は俺が謝ることになってしまった。
約束を破ったこと後悔とともに、楽しかった日々の記憶をそっと胸に封印するのだった。
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