テラーノベル
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夜中の1時。時計の秒針がカチ、カチ、と時間を刻む。大学浪人生、泉新一は眠れずにいた。
おととい、ずっと一緒だった友達…いや、相棒と呼べば良いのか…。その相棒が長い眠りにつくと言い出したのだ。それに加え、新一とは別々の道を歩むとも言っていた。その翌日…今から遡るならば昨日。自分の彼女が殺人鬼の人質とされ、今までの様にパラサイトに出会うこととは無関係ではあるものの、新一にとっての別の一大事となった。彼女を助けようと駆け出したが間に合わず…ダメかと目を見開けば握るのに間に合わなかった筈の彼女の手が新一の手と繋がれていた。助けてくれたのか…ミギー。安堵と嬉しさで胸がいっぱいでその時はなんとも思わなかった。
だが、今こうして研ぎ澄まされた頭で思考してみると気になることがいくつもある。聞きたいことがいくつもある。言いたいことがいくつもある。
「…なぁ、気付いてるんだろ?俺の右手。」
静寂が新一の心を蝕む。当然だ。昨日の朝からその右手とはもう話せなくなってしまったのだから。
『大体、自分の右手と会話する方がおかしいんだぜ。』
相棒の声が、右手の声が、ミギーの声が脳内に再生される。それでも俺はお前に会いたいよ。なぁ、ミギー…。いつかまた2人で話せることを。その姿が見られることを。声が聞けることを信じて、自分の右手を左手で愛おしそうに撫でた。
寂しい。無茶苦茶な日々から普通の日常に戻ったというのに。あの時と同じ様に胸に穴が空いている感じがする。この感覚はなんだろう。ミギーは元気にしてるかな。次はいつ会えるかな。今度は沢山話せるかな。
『会いたいよ…。』
ぎゅっと強く右手を左手で握る。こんなの、あんまりだ。一方的すぎる。目尻が熱くなり、視界がぼやける。ぼろぼろと大粒の涙を流せば一人寂しく寝室に嗚咽を響かせた。
カーテンの隙間から差し込む光で目が覚める。頭が痛い…昨夜、散々泣いたりしたからだ。今日は特に予定もない。少し外に出て散歩でもしようかな…と家の玄関を出て、コンクリートの上を歩き出した。少し遠い公園に行ってみたり、普段は見ない脇に咲いている花を眺めたりと有意義な時間を過ごした。
「…結局、やっちゃったなぁ。」
ぽりぽりと頭を掻いて目の前に重ねられた数冊の本を眺める。どれも生き物や人間についてのものばかり。読みもしないのに図書館で借りてきてしまった。
時刻は夜の11時。そろそろ寝ようかな、と布団に足を潜り込ませる。冷たい布団の感触がどこか心地良い。布団を被って身体をベッドに預ける。図書館で借りた本は机の上に積みっぱなしだ。でも、ああやって置いていると…またいつかあそこでミギーが本を読むんじゃないかって。また会えるんじゃないかって。淡い期待をしてしまう。そろそろ潮時だ、俺もいい加減受け入れなきゃいけない。
「できるもんか……。」
机に背を向ける様にして寝返りをうって、一人弱々しく呟いた。女々しいかな?これでも頑張って受け入れようとしたんだよ、ミギー。
愛しい君の居場所はない。
「…」
新一がようやく眠りについた後、右手の姿が変わる。一つの目が形成されれば、それは真っ先に新一を捉えた。ゆらりと新一の顔に近づき、規則正しい寝息を確かめる様にして新一を優しい眼差しで見ている。後に唇も形成され、新一にとっての見慣れたミギーが姿を現した。だが、新一はすやすやと寝息をたてて眠っている。ミギーが新一の唇に自分の唇を重ねた。それはとても優しく、温かいもので新一にとって心地の良いキスだった。
『ありがとう、シンイチ。』
そう静かに告げればミギーはただの右手へと戻ってしまった。
もう交わることはない。
ただ、いつも君の側にいるよ。シンイチ。
コメント
1件
あー、読んだ読んだ。『寄生獣』の二次創作か…ミギーとの別れをちゃんと描いてくれてて、グッときたわ。 新一が右手を撫でながら「会いたいよ」って泣くシーン、あそこめっちゃ刺さった。普段は強気な新一が、ひとりきりの夜にぽろっと本音こぼす感じ、人間らしくて好き。最後のミギーのキスも良かった。「ありがとう、シンイチ」って…泣ける。 また書いてほしいな。続き、気になる🔥