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「うわっ……何これ無駄に甘い……」

何の因果か、かつて敵対していた相手と向かい合って座り、ボクは異様に甘い駄菓子みたいなものを飲んでいる。

「癖になンだろ?」

「……微妙。なんか中途半端に口の中にまとわりつくし」

このスマック、というジュース。まずくはないんだけど、炭酸も甘みもなんだか中途半端で何とも言えない。まずくはないんだけど。

メニューを再度確認するとカロリーメイトのドリンクがおいてあったのでそっち頼めば良かった。

「お・ま・た・せ~~~~ッ! 冥ちゃ~~~ん! いつものよォ~~~ッ!」

「サンキューマスター。今日もべっぴんさんだな」

「もう! 褒めてもカフェインしか出ないわよぅ!」

「そりゃあ良い、無限に出してくれ」

可露里冥……もとい、苅谷が頼んだのはモンスターエナジーのモンスターエナジー割りとかいうただのモンスターエナジーだ。正確には別々の味がブレンドされているから味は違うんだろうけど、色が怖くてボクには飲み物にすら見えない。

「ここは海外でしか発売されてない味が飲めるからな。スマックも良いがモンスターも悪くねえぞ」

「あ、うん……その内、ね……」

「スマックなら、酒が飲めりゃハイボールでも割らせるんだがなぁ。乳臭えお前にはまだ――」

「そんなことより! 何でお前がここに来るんだよ! あと乳臭くない、今日も牛乳は飲んでない!」

思わずボクが語気を荒げると、苅谷は少し驚いたような表情を見せる。けど、すぐにモンスターを一口飲んでから小さく息をついてみせた。

「何でって、めんどくせーな。俺が可露里冥だから……それ以上の説明が必要なのか?」

「……それ、偽名だろ」

「苅谷も偽名だけどな。めんどくせえ、とりあえずお前の要件を言えよ。俺は陸奥峠のオッサンに頼まれてここに来たんだ」

どうやら本当に陸奥峠さんが寄越してくれた助っ人はこの男のようだ。陸奥峠さんを信用したい思いと、かつて敵であった苅谷への不信感がボクの中でせめぎ合う。

「……お前、あの事件の後何してたんだよ」

「久々に会った元カノみてーな質問だな。めんどくせえ。元々俺はフリーでね。メディスンとも金だけで繋がってた関係だ」

言いつつ、苅谷はモンスターを飲み干すとマスターを呼びつける。

「おかわりとアレを頼む。二人分で」

「は~~~い!」

マスターは跳ねるような笑顔で答えると、すぐにカウンターの向こうへと戻っていく。

「で、今の雇い主は陸奥峠のオッサンってだけだ。金払いが良いんでな。説明はこれで良いか?」

「……大体、わかった。それはそうと、今二人分頼んだけどボクモンスター飲まないよ」

「めんどくせえな、早とちりすんなよ。そら来るぞ」

そう言って苅谷が顎で指した先には、大きな皿とおかわりのモンスターを持ったマスターの姿がある。

「は~~い! 冥ちゃんのお気に入りフルコース二人分よォ~~ッ! ……一応聞いとくんだけど、その子彼女?」

「心配すんなよマスター。俺にはアンタだけさ」

「きゃーーーーーーー!」

野太いを悲鳴をあげつつ、マスターは皿とモンスターをテーブルに置くと猛スピードでカウンターの向こうへと逃げていく。

「……そうなの?」

「いや嘘だが。それより見ろよ」

しれっと酷いことを言いながら、苅谷は皿を見るようボクを促す。

「……わぁ!」

そこにあったのは皿いっぱいに盛り付けられた大小様々なカロリーメイトだ。見栄えや食べやすさを意識しているのか、一口サイズにカットされたものやそのままのものがきれいに並べられている。

「お気に召したか?」

「……召した」

やや躊躇したものの、お気に召したことには間違いない。ちょっとにやけそうになるのをこらえつつ、ボクは皿の上のカロリーメイトを一つ口にする。

「流石だな。二人前をしっかり一皿に盛り付けてある。写真撮るか?」

「スマホ持ってないから良いよ。ボクもう一つ食べちゃったし」

「そうか。じゃ、そろそろ話してくれ。俺も暇なわけじゃねえんだ」

まだ苅谷を信用出来たわけじゃないけど、このまま警戒していても話は進まない。それに紹介してくれたのは陸奥峠さんだ。彼が信用しているということは、恐らく苅谷は金さえ払えば裏切らない。それがわかっているから、陸奥峠さんはこいつを助っ人に選んだんだと思う。

「……わかった」

そうしてボクは、スマックをちびちび飲みつつ、カロリーメイトを口にしながら事情を苅谷に話した。

飲んでる内に段々スマックが癖になってきておかわりをしてしまったのはここだけの話。


***


「……めんどくせえ」

「言うと思った」

話し終わってすぐに、苅谷は口癖のめんどくせえを吐き出した。

「だが既にオッサンから金をもらってるんでな。適当なことは出来ねえのがまためんどくせえ。あのオッサンあえて内容黙ってやがったな」

苅谷は気怠そうに舌打ちをしつつ、皿に残った最後のカロリーメイトを口にする。

「あっ!」

「あ、じゃねえよ。奢りなんだから最後の一個くらい寄越せ。六割くらい食いやがって」

それにしても、思った通りこのカフェは誰一人寄り付かない。苅谷は趣味だけでこのカフェを選んだのかと思ったけど、多分こういう話をするのに丁度良いという理由もあったのだろう。ボクもなんだかこのカフェ気に入ってきたし、場所を覚えておこう。

「あんまりちまちま調査するのもめんどくせえ。中に潜っちまう方がはええな」

「え、でもどうやってそんなこと……」

「適当に一人ボコって鍵でもなんでも盗みゃ良い。そんなに難しいことでもねえよ」

シンプルだ。苅谷程の能力者なら、まどろっこしい作戦よりもその方が早い。

家綱との相性が悪かっただけで、苅谷の超能力はシンプルだからこそ強力だ。ボクの口だけを狙って念動力で動きを止めるような緻密なコントロールから繰り出される苅谷の超能力は、恐らく家綱のような天敵が相手でない限りは簡単には負けない。

「俺は今すぐでも良いが」

「今すぐって……今すぐ?」

「他に何があンだよめんどくせえな。どうなんだ?」

時間はまだ昼過ぎ。確かに今からでも調査は出来るけど、心の準備の方がイマイチだ。

だけど……それ以上に居ても立ってもいられない。まだわからないけど、もしそこに家綱がいるかも知れないのなら今すぐにでも会いに行きたい。

そして何やってんだよって、引っ叩いてやるんだ。

「……今すぐ行こう。苅谷こそ準備は良いの?」

「出来てるよ。いつでもな」

そう応えて立ち上がると、苅谷はマスターの元へ会計を済ませる。

「店の前にバイクを停めてある。後ろに乗っけてやるから研究所まで案内しろ」

「……うん」

研究所までの道筋は既に陸奥峠さんから聞いてメモしてある。しっかり確認してから、ボクは苅谷のバイクに乗せられて研究所へと向かった。


***


研究所付近の駐車場にバイクを停め、ボクと苅谷はそこから徒歩で研究所へ向かう。ほとんど整備されていない道を、苅谷はお気に入りのバイクで走りたくないらしい。

そのまま木に囲まれた凸凹道を進むこと十数分、ボクらはついに研究所を見つけ出した。

「……まるで廃墟だな」

火事の後があまり修繕されないまま所々残っているせいで、本当に廃墟に見える。だけど全ての窓にカーテンがかかっているから、明かりや人気のなさは人為的なものだ。

「よし、アイツらにするか」

木の陰から様子を伺っていると、中から二人の研究者が白衣のまま出てくる。苅谷がすぐに手をかざすと、二人の口は縫い合わせてしまったかのように開かなくなる。

「よっと」

そして次の瞬間には、二人は一気に引き寄せられてボクらの足元に倒れ伏していた。

「色々借りるぜ」

申し訳程度に断りを入れつつ、苅谷は二人に手刀を叩き込み、その場に昏倒させる。そして白衣を脱がせてポケットから財布とカードケースを奪い取った。

「どうやらIDカードで管理しているようだな。ほれ」

苅谷に白衣を渡されて、少し躊躇いながら着込む。ボクのサイズだとちょっと無理があるのか、かなりぶかぶかになってしまう。

「いるのはカードだけだろ? 何で財布まで取るのさ」

「いや、金はいるだろ? なんだ山分けにしたいのか? 先に言えよ」

「そうじゃなくて!」

「こんな時に良い子ちゃんごっこはやめろよ共犯者。俺と仕事する以上はやり方に口出しするんじゃねえよめんどくせえ」

でも……と言いかけた口を閉じる。確かにカードを盗んで中に入るのも立派な犯罪だ。いくらボクに理由があるとしても、やり方が間違っていることに変わりはない。そんな中で、他人の犯罪にだけ口を出すのは筋が通らない。

「さて、行くぞ。お前はすぐバレそうだからなるべく俺の後ろに隠れてろ」

そう言って、苅谷は持っていた二つの財布を放り投げる。

「……え?」

「いらねーよあんなはした金。クレカもねえし。めんどくせえな、もっと入れとけっての」

ぶっきらぼうにそう言い捨てて、苅谷は研究所の入り口へ向かっていく。投げ捨てられた財布から飛び出しているクレジットカードは見なかったことにして、ボクは少しだけ笑みをこぼしながら苅谷のあとをついていった。



カードキーを通して中へ入ると、外観とはうってかわって白くて清潔なロビーがあった。全員別の部屋にいるのか、ロビーには今誰もいないようだ。

「どうする? 適当に臭そうなところから調べるか?」

「じゃ、まずはトイレかな」

「なるほど。じゃあ女子トイレは頼んだ」

そんな軽口を叩きつつ、ボクらはひとまずロビーを歩き回る。自販機やソファに観葉植物。掃除が行き届いているし、炭酸飲料やエナジードリンクの並ぶ自販機のラインナップに目を閉じれば病院のロビーにも見えた。

「向こうにエレベーターがある。地下に行くぞ」

「何で地下があるってわかるんだよ」

「建物の高さ的に二階がねえのにエレベーターがあるからな。それに、こういう研究所に地下室はつきものだろ」

苅谷はいたずらっぽくそう笑うと、ボクを連れてエレベーターへと入っていく。苅谷の言う通り、エレベーターのボタンにはB1Fが存在した。

緊張するボクだけど、エレベーターは容赦なく降りる。軽口を叩いていた苅谷も、真剣な表情でドアを見つめていた。

そしてドアが開くやいなや、細身の中年男性と目が合う。

「だ、誰だ貴様ら――――」

しかし彼が声を上げるよりも、苅谷の能力で口を塞がれる方が早い。そして苅谷は容赦なく念動力で彼の身体をそっと壁にはりつけにする。

「ちょっと失礼」

苅谷は彼のポケットの中を漁り、財布とカードケースを取り出すとすぐに彼の身体を開放する。そしてそれと同時に、首筋に手刀を叩き込んでその場に気絶させた。

「……こいつも大したことねえな」

「もういいよ、そういうの。ありがとう」

「かわいくねえな。黙って気ィつかわれてろっての」

苅谷は面白くなさそうにそう言って財布を投げ捨てる。

「カードは何で取ったの?」

「嫌がらせ」

「……何の恨みがあるのさ……」

「元を正せばこいつらがめんどくせえ研究してンのが悪いからな。言ってしまえば俺がメディスンの元を離れて、陸奥峠に会うまで稼ぎ口に困ってたのはこいつらのせいと言っても過言じゃねえよ」

「過言だよ!」

そもそも悪さして稼いでるのが悪い。だけど今はそんな口論をしている場合じゃない。ボクらはすぐに奥の部屋へと向かう。

「……ロックかかってるな」

地下一階には一部屋しかない。だけど、その部屋は入り口と同じようにカードリーダー式のロックがかかっていた。ボクと苅谷の持っているカードには権限がないのか、ロックは解除されない。

「どうする? 引き返す……?」

「いや、こっちを使う」

そう言って苅谷が取り出したのは、さっき嫌がらせと称して盗んだカードケースだった。

「あ、そうか!」

この部屋から出てきたであろう彼のカードなら、ここのロックを解除する権限があるハズだ。もしかすると苅谷はここまで考えていたのかも知れない。

「……良いか? 中に入ってすぐに俺は全員の動きを止める。その間にアイツをお前が捜せ。だがめんどくせえことにあんまり長くはもたねえぞ」

「……わかった。お願い」

ボクがそう言って頷くと、苅谷はカードを通して部屋のロックを解除する。ドアが開くと同時に、中にいた全員の視線がボク達に集中した。

「一、二、三、四……めんどくせえ! 試したのは三人までだっつーの!」

悪態をつきつつ、苅谷が両手を伸ばす。すると、中にいた四人は一斉にその場でもがき始める。苅谷の念動力が、彼らの動きを抑制しているのだ。

前に出会った時より明らかに出力が上がっている。もしかしたら、苅谷は今までの間トレーニングをしていたのかも知れない。

「早くしろ!」

すぐに頷いて、ボクは部屋一帯を見回す。

「こ、これって……!」

部屋の中には正体不明の機材がいくつも並んでいる。しかしそれよりも目を引くのはいくつか設置された巨大なカプセルだ。その中には、顔のない人間が一人ずつ閉じ込められたまま眠っている。

「人造……人間……」

ボクは家綱の話を信じているつもりでいたけど、まだ半信半疑だったのかも知れない。だけど今はっきりと確信した。この研究所では、人造人間がつくられている。倫理を無視した悍ましい研究が……この場所で、この町で。

「おい! 見つかったのか!」

「そ、そうだ……家綱! 家綱ぁ!」

思わず気を取られていたけど、苅谷の声で正気に戻る。だけど、どれだけ呼んでも家綱の返事はない。苅谷の苦しそうな様子から察するに、部屋を一周見て回る余裕もない。

「クソ! 限界だッ!」

苅谷がそう叫ぶと同時に、部屋中に警報が鳴り響く。さっきの男性か、或いは外で倒れている二人か。そのどちらかが仲間に連絡したのだろう。

「逃げるぞ! 走れッ!」

まだここを調べたい気持ちはあったけど、これ以上ここにはいられない。せめているのなら返事を……。そう祈りながら、ボクは家綱の名前を何度も叫びながら走り出した。


***


地下からの脱出は、ボクの想定よりも遥かにスムーズだった。苅谷の能力を、能力なしでどうにかするのは無理な話で、結局追いかけてきた全員を念動力でぶっ飛ばしながら苅谷はボクを連れて研究所を脱出した。

後は行きしなと同じくバイクの後ろに乗り、七重探偵事務所へと走る。事務所に戻る頃には、既に日が暮れていた。

「……ったく、お前にもあの探偵にも二度と関わらねえぞ俺は」

ソファにどっかりと座り込み、紅茶を雑に飲み干しながら苅谷は悪態をつく。

「ごめん……でも助かったよ、ありがとう」

「ごめんでも助かったよでもありがとうでもねえんだよクソ。俺じゃなきゃ終わってたぞ。いなかったから良かったものの、能力者の用心棒でもいたらどうなってたかわかんねえぞ」

苅谷の言う通りだ。今回の無茶な作戦、無傷で潜入も脱出も出来たのは苅谷の力があってこそだ。

「……それにしても、相当な設備だったな」

「そうだね……。セキュリティも設備も普通じゃなかった」

あの研究所の責任者は、家綱や陸奥峠さんの話から考えると鯖島勝男だ。だけど鯖島は、既に学会から追放されている。そうでなかったとしても、個人の力であんな施設を持つには相当な資産が必要なハズだ。

「ちょっとやそっとのパトロンじゃあそこまでの投資はあり得ねえな……。ま、この先は俺の管轄外だ」

吐き捨てるようにそう言って、苅谷は立ち上がる。

「じゃあな。二度と連絡すんなよ」

「……待って」

立ち去ろうと背を向けた苅谷に声をかけ、こちらを向いたのを確認してからボクはあるものを投げ渡す。苅谷はそれを受け取ってから確認すると、薄く笑みをこぼした。

「メープルか。よく覚えてたな」

「お金はその内。今はとりあえずそれがお礼だよ」

「いらねーよ。もうもらったからな」

苅谷はそう言って受け取ったカロリーメイトを開封し、一本咥えると満足そうに目元だけで笑って見せた。

「ま、気が向いたらまたマザイ・カフェでな」

「……うん」

ボクが答えてたのを確認してから、苅谷は背を向ける。その背中にしばらく手を振ってから、ボクは緊張を吐き出すように大きく息をついた。


***


苅谷が事務所をあとにしてから、しばらくボクはデスクについて今日のことを整理していた。陸奥峠さんのこと、苅谷のこと、そしてあの研究所のこと。ボク一人で整理するにはあまりにも色々あり過ぎたけど、今事務所にはボクしかいない。

「それにしても……あの研究所、一体どうやって研究を続けてるんだろう」

一度火事であの研究所は停止したみたいだけど、また研究をしているということは設備をもう一度整えたということだ。鯖島勝男にそれだけの財力があるとはあまり考えられないから、一度鯖島勝男についてきちんと調べてみる必要がある。

「鯖島に手を貸しそうなパトロン……か」

苅谷の言う通り、ちょっとやそっとのパトロンじゃあそこまでの投資はあり得ない。余程の大金持ちでない限りは……

「余程の……大金持ち……」

ボクがついそう呟くのと同時に、事務所の電話が鳴り響く。驚きながらも受話器を取ると、電話に出たのは湯杉さんだった。

「あれ? 湯杉さん? どうしたの?」

『お嬢様。急ぎお伝えしたいことが……』

「う、うん……どうしたの?」

すると、湯杉さんは緊張した声音で要件を告げる。それを聞いた途端、ボクは血相を変えた。

「お父さんの……遺言……?」


繋がってほしくない点と点が、何となく繋がりそうな気がした。


七重探偵事務所の事件簿

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