どちらも息が上がる瞬間を迎え忘失したようにベッドで身を横たえていたが、ウーヴェが左足を庇いつつリオンの傍へと身を寄せると、リオンがウーヴェの腕を掴んで痩躯を抱き寄せて己の身体に乗り上げさせる。
「……思い出さずに済んだか?」
互いの背中を抱いている時に脳味噌のどこかに引っかかっていた問いを小さな声で投げかけるとウーヴェも同じ思いだったのか、リオンの胸に頬を宛がいながら小さな声で思い出したと返す。
事件の影を忘れるにはこれから長い年月が必要だとは思っているが仕方が無いと思うには少し辛く、それを忘れるようにウーヴェの背中を撫でたリオンは、思い出したが違うと分かったから大丈夫だと思うと自信の無い声で囁かれて蒼い目を瞠る。
己をレイプしていた男達やルクレツィオはその時にいわゆる玩具や道具を使うことはあっても、今のように身体のことを思ってローションを使ったりスキンを使う事が無かった。
そのことからもお前との違いは分かると囁き、顔を上げて驚愕に瞠られる蒼い目に目を細めたウーヴェは、そうだろうと問い返して小首を傾げ、返事の代わりに頭に手を添えられて目を閉じる。
「だから……思い出すけど、大丈夫」
「そっか」
「うん。────お前がいる、リーオ。お前だから……大丈夫」
もう本当に大丈夫、事件を乗り越えられたと言うにはまだまだ時間が必要だし、過去のあの時のように十何年もかかるかも知れないが、それでもお前がいてくれるから大丈夫とも告げて口角を自然と持ち上げたウーヴェは、蒼い目に真っ直ぐに見つめられている事に気付き、胸に手をついて頭を持ち上げると、伸び上がるように己からリオンの薄く開く唇にそっとキスをする。
「……俺とキスをして良いのはお前だけだ、リーオ」
お前があの時言ってくれたように手を繋いでキスをし抱き合いたいと思うのはお前だけだと繰り返すとリオンの目が一度きつく閉じられ、次いで頬を挟まれて今度はリオンからキスをされるが、息が上がると言うよりは互いにここにいる事を確かめ合うようなそれを何度も繰り返し、心が満足した頃に掛け声を上げて寝返りを打つと、今度はウーヴェに覆い被さるようにリオンが手をついて身体を支える。
「な、オーヴェ、腰の傷は痛くねぇか?」
「ああ、もうマシになった」
「じゃあさ、お前のリザードが壊されちまったから次はお前の傷を守ってくれるようにリッシーに頼もうか」
「どういう、ことだ?」
リオンが嬉しそうに語る言葉の意味が分からずに首を傾げたウーヴェに、リッシーがタトゥースタジオもやっていることは知っているだろうが彼女に頼んで腰の傷を新たなリザードに守ってもらおうと笑ったリオンは、目を瞠るウーヴェの頬を撫でて額を重ねる。
「傷跡をタトゥーで隠すのは知ってるか?」
「あ、あ。見たことは無いが、聞いたことはある」
「リッシーに頼んでさ、俺と同じリザードをお前の腰の傷の上から彫ってもらおう」
そうすればその傷は目立たなくなるし、新たなリザードもどこにも行かないだろうと笑うとウーヴェが唇を噛み締める。
「タトゥーに良い印象ないだろうけどさ、だめか?」
「……良い」
傷跡が目立たなくなるのも嬉しいが、何よりも嬉しいのはあの時壊されてしまったリザードが形を変えて戻って来てくれることだと笑い、その拍子に涙が一粒だけ目尻を伝って髪に吸い込まれていく。
「リッシーに頼もう。あ、結婚指輪もベラに頼まないとなぁ」
事件を思い出すが捨ててしまうことが出来ないリングを暖炉上のお宝コーナーに置いたが、結婚式の時に交換する指輪も作らないといけないと見下ろしてくるリオンに頷くウーヴェだったが、シンプルな指輪が良いと答えてリオンの背中に腕を回す。
「そーだな。近いうちに店に行って探そうぜ」
「うん」
8月に予定している結婚式、その時に交換する指輪も買いたいし今話をしたタトゥーのデザインも相談したいと笑うとウーヴェも素直に頷いてくれたため、自分たちが思うようなデザインがあれば良いのにと笑いながらウーヴェの汗ばむ首筋に顔を押し当てる。
「……ある、だろう……っ……ン」
くすぐったいのかそれとも他の思いからかウーヴェの鼻から抜けるような吐息が零れ、それがついさっき熱を出したはずのリオンに火を付けてしまう。
「オーヴェ、悪ぃ。────もう一回、イイか?」
「────!!」
リオンがひっそりと了承を求めてくる声に息を飲み、疲れたから嫌だと断りたい反面、望まれるのならばいくらでも応えたいとの思いもあったため、リオンの首の上で手を交差させて顎を上げる。
「……明日の朝、最高に美味しいコーヒーを飲ませてくれるか?」
「もちろん。明日も明後日もその先もずっと飲ませてやる」
だからもう一度、いや、体力が続く限り抱き合おうと囁かれて身体を一つ震わせたウーヴェは、言葉で了承を与えるのではなく先程のように足を絡めるように持ち上げてまたリオンにキスをする。
それを合図にリオンがウーヴェの手首をシーツに押しつけてキスをし、心臓の上にキスマークを残すと、へその周囲、薄い色の茂みのすぐ上、内股にも印を残していく。
その度に小さく息を吐いたり飲んだりしていたウーヴェは、程なくしてローションの滑りを借りて突き入れられる熱と質量に震える吐息と熱の籠もった嬌声をシーツに零し、再び訪れる白熱の瞬間目がけてリオンと二人昇り詰めるのだった。
失神したように眠るウーヴェを抱きしめ、自身も心地好い疲労の中にいたリオンは、抱き合っている間もルクレツィオ達にされた事を思い出してはリオンの顔や声を思い出して掻き消している様子に気付き、二人でもそうだが一人でも事件を乗り越えようとしているウーヴェに感嘆の思いと同時に尊敬の念も抱いてしまう。
己を信じて短期間の内に事件を乗り越えようと頑張るウーヴェがただ愛おしくて、その思いから何度も抱いてしまった結果の失神だったが、ウーヴェを抱きしめながらそっと閉じた瞼にキスをし、事件を思い出してしまう事を恐れるよりは、思い出してなお乗り越えられるように頑張ろうとの思いがしっかり伝わっていた事にも気付いていて頬にもキスをする。
どんなに酷い目に遭ったとしても生きようとしてくれるウーヴェの魂の強さに頭が下がる思いだが、そんなウーヴェを支えて一緒に生きていくとの誓いを改めてすると、明日は朝からリッシーやベラの店に行こうと決め、不意に訪れた睡魔に身を委ねるように目を閉じる。
事件から三ヶ月が経過したが、一日でも早く乗り越えて己の中の納めるべき場所に納められるようにと祈りつつ小さな欠伸をして眠りに就くのだった。
窓の外では、初夏の月が安心したような光を放って夜空に白く輝いているのだった。
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