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「……ちょっと、待ち分なさい。輝夜」
永琳がスッと立ち上がり、俺の目の前まで歩み寄ってきた。月の賢者としての威圧感に、俺は思わず息を呑む。
「な、なんだよ。俺、まだ何もしてないぞ……!」
「動かないで。……その頬の傷、紅魔館のメイド……咲夜の手によるものね。そしてその上に、無理やり何かを塗りたくっているわね」
永琳の細い指先が、俺の頬に触れた。そこは、さっきフランから逃げるために「白だし」を直接ぶっかけた場所だ。
「……あ、ああ。消毒のつもりで白だしを……。いや、ただパニくってて……」
「白だしで傷を塞ごうとするなんて、地上人の発想は時として理解に苦しむわ。……でも、おかげで化膿はしていないようね。その『だし』に含まれる塩分とアミノ酸が、一時的に止血を助けたのかしら」
永琳はどこからともなく、不思議な光を放つ小さな薬瓶を取り出した。
「治療してあげる。月の民の薬は、地上のそれとは理(ことわり)が違う。痛みも傷跡も、瞬時に消えるわ」
彼女が指先に透明な薬液をとり、俺の頬に塗り込む。 瞬間、ひんやりとした感覚と共に、傷口が熱を帯び、細胞が急激に再生していくのが分かった。ものの数秒で、咲夜に切り裂かれた痛みも、フランに舐められた時のヒリつきも、跡形もなく消え去った。
「……すげえ。消えた……。ありがとうございます、永琳さん」
「礼には及ばないわ。……ただ、代償として」
永琳は、俺の顔に鼻を近づけ、クン、と一回だけ空気を吸い込んだ。
「あなたの肌に染み付いた、その『白だしの成分』。これを私の薬学と融合させたら、どれほどの治癒効果が生まれるか……興味があるの。輝夜の料理を作る前に、まずは私の**『薬膳だしの試作』**に協力してもらうわよ」
「えぇっ!? また実験台かよ!」
俺が叫ぶ間もなく、永琳は俺の腕を掴み、永遠亭の奥にある「調合室」へと引きずり込んでいった。
「(ダメだ……紅魔館の奴らは『食欲』で動いてたけど、ここの連中は『知識欲』で動いてやがる……! 逃げ場がないぞ!)」