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コンテスト当日。
私は、劇場の最前列で、指が白くなるほど膝の上のバッグを握りしめていた。
今日の私は、10センチのヒールを履いていない。
光が「お姉さんの本当の歩幅は、そっちだろ」と笑って選んでくれた、フラットなシューズ。
客席が暗転し、出囃子が鳴り響く。
数組の芸人がステージに上がり、会場が爆笑に包まれる。
けれど、私の頭にあるのは、数日前のあの熱に浮かされた光の顔と、彼を守るために会社で「嘘をつく自分」を捨てた瞬間の震えだけだった。
ついに、センターマイクの前に、光と相方が現れた。
光は、少しサイズの合っていない、でも精一杯整えられたスーツを着ていた。
マイクの前に立った瞬間、彼は客席を一度も見ずに、真っ直ぐに私と目を合わせた。