夕方になると、こさめ が「お腹すいた!」と言い出し、らんがすぐにスマホを取り出した。
「じゃあ出前とるかー、お寿司とピザどっちがいい?」
「両方!」
「欲張りかよ…」
いるまは呆れ笑い、結局みんなで寿司とピザを頼むことにした。
ほどなくして届いた出前をリビングのテーブルに広げると、 彩り豊かな寿司と香ばしいチーズの香りが部屋いっぱいに広がる。
「いただきまーす!」
こさめが一番乗りで声を上げ、らんが苦笑しながら皿を取った。
「こさめ、好きなネタばっか取るなよ」
「だってサーモンが呼んでるもん!」
そんな他愛もない会話に、場は一気に和やかになる。
しばらくして、すちがふと尋ねた。
「そういえば、母さん達って今出張中?」
ピザを頬張っていたひまなつが 「あ、そうそう!」と頷く。
「二人とも県外出張。だから俺たちの家、今は自由の国〜!」
ひまなつがどや顔をして両手を広げた。
「は?」
すぐにいるまがツッコミを入れる。
「何が自由の国だ。最初から好き放題してただろ、お前」
「ま、いつでもやりたい放題だもんなぁ?」とひまなつがにやにや笑うと、
「うるせぇ!」と即座に軽く頭を叩かれ、ひまなつは「いてっ」と笑った。
その様子に、すちもらんも呆れながら笑いを漏らす。
「なつにぃといるまくんはほんと夫婦みたいだね!」
「それな」
こさめが笑顔で言うととらんが同意して肩をすくめた。
「こさめも最近はらんの家にいるの?」とすちが尋ねると、
こさめは寿司を頬張りながら「うん!らん兄の家のほうが楽しいから!」と即答。
「お、おい……そういうこと言うなよ」
らんは少し顔を赤くして頭をかく。
「別にいいじゃん〜、らん兄優しいし、ご飯美味しいし!」
「甘やかしすぎなんだよなぁ」
いるまがぼそっと呟くのであった。
「マグロおいしい…」
みことが嬉しそうに頬を膨らませ、もぐもぐと口いっぱいに寿司を頬張っている。
その頬には、ぽつんと白いご飯粒が一粒くっついていた。
いるまがそれに気づき、眉をひくつかせながら身を乗り出す。
「おい、みこと。そこ、ご飯ついてんぞ」
「え?どこ?」
みことが首を傾げると、いるまはためらいもなく顔を近づけ――そのまま舌で、ご飯粒をぺろりと舐め取った。
「……ありがと、いるまくん」
「おう」
そのやりとりを見ていた、らん、ひまなつ、すちは、まるで時間が止まったかのように固まった。
「……今の、見た?」
「見た……」
「おい、いるま!? 普通、手で取るだろ!?」
と、3人同時にツッコミを入れる。
いるまはピザを持ったまま、まったく悪びれた様子もなく「だって今、手ベタベタだし」と言いながら、ピザをもう一口。
「はぁ!? そういう問題じゃねぇだろ!」
「それ浮気レベルだからな!?」
らんが思わず声を上げると、ひまなつも真顔で続けた。
すちも口元を押さえて、「……俺までびっくりした」と小さく呟く。
だが当の本人たちはというと、きょとんとしたままだ。
「え?だって今までやってもらったことあるよ…?」
「うんうん、こさめもよくやってもらう! 」
みことは首を傾げ、こさめも元気よく同調。
いるまは「別に減るもんじゃねぇし」と当然のように答え、3人の間にはまったく危機感がない。
「おまえらの感覚どうなってんだよ!?」とらんが頭を抱え、ひまなつが「兄弟の距離感バグってんじゃん……」と呆れたように言う。
すちはため息をつきながら、「……俺もピザ持ってるけど、舐めたりしないよ?」と小声でぼやく。
だが、みことたちは相変わらずのんびりムード。
「ねぇ、いるまくん、次このエビ食べていい?」
「おう」
何事もなかったかのように会話を再開していた。
結局その場は、 らんの「もう禁止な!」という一言でようやく落ち着くのだった。
食後、テーブルの上には寿司の容器とピザの空き箱が山のように積み上がっていた。
「食いすぎたな……」とらんが腹を押さえて呟くと、こさめが笑って「でも幸せ~!」とごろりと寝転ぶ。
そんな空気の中、みことは眠そうに目を擦りながら、すちの隣にぴたりと体を寄せた。
「……ちょっと眠い」
「食べすぎたの?」
「うん……でもすちの隣だと落ち着く…」
みことはそう言って、すちの腕の中に頭を預けた。
すちは優しく笑って彼の髪を撫でる。
「ほんと甘えんぼだな」
「すち限定…」
「……それは嬉しいな」
すちはそう囁くと、みことの肩を包み込むように抱き寄せた。
みことの頬がほんのり赤くなり、くすぐったそうに目を閉じた。
一方その隣では、ひまなつがいつの間にかいるまの膝を枕にして寝転んでいた。
「ちょ、重いっ!」
「いいじゃん〜」
「そこで寝んな!」
「いるまのせいで眠いわ~」
「人のせいにすんなや…!」
突っ込むいるまの腕を、ひまなつは嬉しそうに掴んで頬に寄せる。
「だって、いるまがいないと落ち着かないし?」
「……ッ…そういうこと言うな…」
そう言いながらも、いるまの口元は緩んでいた。
そして、ソファの向こうではこさめがらんの膝の上に座り、スマホで写真を撮ろうとしている。
「らんにぃ! 一緒に撮ろ!」
「お前またそれかよ……」
「いいでしょ〜? “食後のらんにぃ”シリーズ!」
「そんなシリーズ作んな!」
そう言いつつ、結局ピースサインをして写り込むらん。
こさめは満足げに「やっぱらんにぃが一番かっこいい!」と笑い、らんは「お前ほんと調子いいな」と苦笑しながらも、耳が赤くなっていた。
温かな笑い声と、寄り添う体温。
誰もが穏やかに、心地よい夜の時間を過ごしていた。
食事を終え、片づけも一段落したリビングは、どこかゆるやかな空気に包まれていた。
らんとこさめはテレビを見ながら笑い合い、ひまなつといるまは言い合いをしながらも仲良くソファを陣取っている。
そんな中、すちは食器を片付け終えると、ぼんやりとテーブルの向こうにいるみことを見つめた。
みことはこさめやいるまと談笑しており、さっきまでの“ご飯粒事件”のことをまったく気にしていないようだった。
──けれど、すちの胸の奥は、どうにも落ち着かない。
(……他の人に、あんな顔近づけられるの、なんか嫌だな)
自分でも驚くほど、静かな嫉妬心がくすぶっているのを感じた。
普段は穏やかで余裕があるはずなのに、みことが誰かと親しくしているだけで、心が波立ってしまう。
「みこと、こっちおいで」
すちは深く息をついて、優しく声をかける。
「うん?」
呼ばれるまま、みことがとことこ歩み寄ると、すちは椅子に腰を下ろし、隣に座らせる。
そして、何も言わずそのまま腕を伸ばし、みことの体を抱き寄せた。
「す、すち?」
みことが驚いて顔を上げるが、すちはその頭を胸元に押し当て、静かに囁いた。
「……なんか、拗ねてる」
「え?」
「さっきの。いるまちゃんに、顔近づけられてたやつ」
「えっ、あれ?ご飯粒のこと?」
「うん。わかってるよ、何でもないって。でも……嫌だった」
みことは目を瞬かせたあと、くすっと笑って「すち、かわいい」と小さく呟いた。
「かわいくない」
「ううん、かわいい」
そう言ってみことは、すちの胸の中から顔を上げ、優しく頬に手を添える。
「俺、すちがいるなら何されても平気だよ」
「……そう言われると、もっと抱きしめたくなる」
すちはみことをさらに強く抱き寄せた。
みことの体温が腕の中で柔らかく馴染んで、さっきまでの小さな嫉妬が溶けていった。
すちとみことが寄り添っていると、リビングの空気が一気に甘くなる。
みことはすちの胸に顔を埋めたまま、ぴたりと離れない。
すちは優しく頭を撫でながら、嬉しそうに目を細めている。
「……甘い」
ぽつりとつぶやいたのは、ひまなつだった。
その言葉に、いるまがちらりと二人を見やり、口の端を上げる。
「おいおい、人の前でイチャつくなよ」
「そ、そうだぞ……!」
らんも思わず同調。
こさめは「みことくん可愛い〜!」と拍手をしていた。
すちは動じることなく、腕の中のみことをぎゅっと抱きしめたまま。
「……別にいいでしょ。俺の恋人なんだから」
そう穏やかな声でさらりと言ってのけた。
その一言に、場の空気が一瞬止まる。
「そういうのは二人きりでやれっつーの!」
いるまがそう言うと、 ひまなつは頬杖をつきながら、「でも、ああいうの、いいよねぇ」とにやにや。
「お前も見せつける側だろ」
いるまが突っ込むも、ひまなつは余裕の笑みを返した。
すちはそんな兄弟たちの反応に苦笑しつつ、
「はいはい、今度はみんなの前では控えます」
と形だけ反省してみせる。
しかし、腕の中のみことはすちのシャツを小さくつまみ、
「……俺は別に、すちと一緒なら見られてもいいけど」
と、ぽつり。
その言葉に、すちはふっと笑って
「そういうとこ、ずるい」
と囁き、 みことの頬に軽く口づけを落とした。
「わあああ!またやってるー!!」
「ほんとに反省してねぇ!」
「すち兄最高〜!」
リビングは再び騒がしい笑い声に包まれ、
その中心では、幸せそうに抱き合うすちとみことがいた。
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なついるは夫婦よ…