青空が広がる朝。
校門の前には、すち、らん、ひまなつ、いるま、こさめの五人が並んで立っていた。
「いやぁ、ついにこの日が来たか〜!」
期待と胸の高鳴りを感じながら、校門をくぐる。
校庭には色とりどりのテント、白線の引かれたトラック、歓声に満ちた空気。
どこを見ても青春の眩しさがあった。
そして、その中心に――
白いハチマキを締め、爽やかに笑うみことの姿があった。
仲間に囲まれ、誰にでも穏やかに声をかけるその姿は、 以前のどこか儚げだったみことからは想像できないほど、堂々としていた。
「……すげぇな」
らんがぽつりと呟く。
「クラスの中心じゃん、完全に」
「ほんと。表情が柔らかいね」
「成長したなぁ……」
五人の胸には、誇らしさと感動がじんわりと広がっていった。
やがて始まる体育祭。
玉入れやリレー、障害物競走などを観戦しながら、 みことが笑顔で走る姿に、声を張り上げて応援した。
そして――借り物競争のアナウンスが流れる。
「次の種目は、借り物競争〜!」
みことの名前が呼ばれると、観客席からも拍手と歓声が起きた。
走り出したみことは、最初のテーブルでお題を引く。
紙には――**「大切な人」**の文字。
みことは目を丸くし、すぐにスタンドの方へ視線を走らせた。
そしてすぐに見つける。
「すち兄ーーー!」
その叫びと共に、みことは満面の笑みで駆け寄った。
「来て! みんな来て!!」
突然の指名に一瞬きょとんとする五人。
だが、みことの笑顔に押されるように立ち上がった。
「え、俺も?」といるまが戸惑うも、
「全員だって!」とこさめが笑い、
「はいはい、行くぞ!」とらんが背中を押す。
みことはすちといるまの手を両手で掴み、
その手のぬくもりを確かめるようにぎゅっと握る。
すちはその流れでらんの手を、
らんはこさめの手を、
いるまはひまなつの手を掴み――
6人は長い列のようになって、白線の上を駆け抜けた。
観客席が一斉にどよめく。
まるでドラマのワンシーンのような光景。
風が髪を揺らし、笑い声が重なり合う。
「がんばれー!」
「きゃー!」
「かわいい!!」
歓声の中、6人は息を合わせてゴールテープを切った。
司会者がマイクを持ち、笑いながら声をかける。
「すごい!借り物競争に6人でゴールしたのは初めてです! お題は“大切な人”ですが、なんでこの5人なんですか?」
みことは少し息を整えながら、にこっと笑った。
その笑顔は太陽より眩しい。
「……俺の、大切で大好きな家族だから…!」
その一言に、観客席が一瞬静まり――
次の瞬間、割れるような歓声と拍手が沸き起こった。
すちがみことの肩を抱き、
らんとこさめが前からみことに抱きつく。
いるまとひまなつも加わり、
大きな輪のようになって、みことを包み込むように抱きしめた。
「「「「「大好きだよ、みこと!!」」」」」
「うん、俺も大好き!」
みことは 抱きしめられながら、嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
観客たちの黄色い悲鳴とシャッター音が響く。
「みことくん可愛い!」「家族愛尊い!」
SNSにはあっという間に「#体育祭の天使みこと」がトレンド入りしたとか。
6人の絆がまぶしく輝くその瞬間、
すちはみことの頭をそっと撫でて、
小さく囁いた。
「……頑張ったね、みこと」
みことは頬を染めながら、嬉しそうに笑った。
放課後の夕陽が差し込む教室。
体育祭を終えたばかりの興奮と余韻が残る中、机を寄せ合い、カラフルなジュースとお菓子の山が並ぶ。
「打ち上げやろうよ!」
クラスメイトの声に、最初はみことも少し戸惑っていた。
──だって、本当はすち達と帰りたかったから。
その気持ちを察したすちは、やわらかい笑みでみことの髪を撫でながら言った。
「学校の友達も大事にしないとね。俺たちはいつでも一緒にいられるんだから。」
「……うん」
小さくしょんぼりした声に、周囲のクラスメイトが思わず「かわいっ」と漏らす。
そんなみことを見た女子が、笑顔で言った。
「じゃあ、お兄さんたちも一緒に来てください!みことくんの大切な人たちなんですよね?」
すちたちは返事をする間もなく、教室へと連行されていった。
「それじゃあ──体育祭、おつかれー!」
「かんぱーい!」
紙コップが軽くぶつかり合い、教室に明るい笑い声が広がる。
ポテトチップスの袋が開かれ、ジュースが回り、机の上はまるでお祭りのよう。
みことは当然のようにすちの隣に座り、にこにこと笑っている。
「すち兄と一緒、嬉しい」
そう言って、無邪気に腕を絡ませるその姿に、クラスの女子たちが一斉に悶絶した。
「か、かわいい……!弟力高すぎない!?」
「いつもの奏くんからは想像つかない!」
普段はクラスの中心で無意識にみんなをまとめているみことが、今は完全に“すちの弟”モード。
照れたように笑うすちは、「ほら、みことも皆と話してきなよ」と促す。
「えぇ……すち兄と一緒がいい…」
少し眉を下げ、寂しそうにすちを見上げるみこと。
「一緒の家に帰るんだから、今日くらい友達と話そう?」
困ったように笑いながら頭を撫でるすち。
その仕草も優しすぎて、クラスの女子たちは再び崩れ落ちた。
「なにこの兄弟……尊すぎる……」
「保護欲すご……」
一方その頃、教室の端では別のドラマが。
いるまは慣れない環境にやや緊張した面持ちで、ひまなつの隣から離れようとしない。
「…離れんなよ」
「離れねーよ。ほら、こっち来い」
ひまなつが笑いながらポテチを差し出し、いるまはぼそっと「しょっぱ……でもうめぇな」と呟く。
その自然なやり取りにも周囲の男子が「仲良すぎだろ」と笑っていた。
こさめはというと、すでにクラスに溶け込んでいて、誰よりも明るく笑っていた。
「ほんとにみことくんって人気者なんだ〜!」
その隣でらんも巻き込まれながら、軽く談笑。
「お前、初対面でそのテンション出せるのすげぇよ」
「え〜?らんにぃがいるからだよ!」
「はいはい……」
らんが苦笑しながらも、こさめの頭をぽんと撫でた。
みことが少しずつ他の子とも話し始めたものの、目線の先には常にすちがいた。
クラスメイトが話しかけるたび、「すち兄も聞いて」と笑うみこと。
その素直すぎる言葉に、すちは少し照れながらも嬉しそうに頷いた。
そして心の中で思う。
──本当に、どこに行っても可愛いな。
──でも、やっぱり誰かに取られるのは嫌だな。
その胸の奥で、ほんの少しだけやきもちの火が灯ったのだった。
──教室のざわめきから少し離れた、夕焼け色の廊下。
ガラス窓から差し込む光がオレンジ色に反射し、床をやわらかく照らしている。
すちは静かに立ち上がり、誰にも気づかれないように教室を出た。
背後で響く笑い声が遠ざかっていく。
胸の奥で、ほんの少しだけ疼くような感情──あれはきっと、嫉妬だ。
(みことが笑ってるの、嬉しいのに……)
(……でも、やっぱり、俺の前だけで笑ってほしいな)
そんな独り言のような思いを抱えながら、廊下の壁にもたれかかる。
「……すち?」
ふと、背後から柔らかな声。
振り返ると、みことが教室の扉のところに立っていた。
首を少しかしげながら、心配そうな顔をしている。
「疲れちゃった?」
その問いかけに、すちは一瞬だけ目を細めた。
そして、周囲を見渡し──誰もいないのを確かめてから、
何も言わずに一歩近づいた。
次の瞬間、みことの体をぎゅっと抱きしめる。
「……っ!」
驚いたみことは一瞬だけ息を詰めたが、
すちの腕の温かさに気づくと、ゆっくりと力を抜いた。
胸の中で、みことの鼓動がすちの胸板に伝わる。
そのリズムがどんどん揃っていくように、穏やかに、確かに。
「すち……?」
「……ごめん。なんか、ちょっと……」
「ううん。おれ、嬉しい」
そう言って、みことが笑う。
その笑顔があまりに優しくて、すちは思わず腕に力をこめた。
そして、そっと囁くように名前を呼ぶ。
「……みこと」
みことが顔を上げたその瞬間、すちはためらいなく唇を重ねた。
触れるだけの浅いキス。
けれど一度離れても、またすぐに引き寄せられてしまう。
角度を変えながら、頬や唇の端を確かめ合うように、何度も。
みことは頬を染めながら、ただ幸せそうに笑っていた。
目を細め、唇の余韻を残したまま、すちの胸にそっと額を寄せる。
「……すち、あったかいね」
「みことがいるからだよ」
すちはみことの髪を撫で、少しだけ照れくさそうに微笑む。
「……少しだけ、独り占めしたくなっちゃった」
その言葉に、みことの胸がじんわりと熱を帯びた。
「…じゃあ、もうちょっとだけ」
嬉しそうに呟き、 みことは自分からすちの胸に顔をうずめた。
──夕陽がゆっくりと沈む廊下に、
ふたりの影がひとつに溶けていくようだった。
──しばらくして、すちとみことはようやく教室へ戻った。
廊下を歩く足音はどちらも軽く、けれど互いに手が触れそうな距離で、どこか名残惜しそうでもあった。
教室のドアを開けると、まだ打ち上げの賑やかな声が響いていた。
お菓子の袋の音、笑い声、ジュースの栓を開ける音──
そのすべてが夕方の教室に溶け込んでいる。
「おかえり〜! どこ行ってたの?」
クラスメイトのひとりが声をかけると、みことは少し照れたように笑って、
「ちょっと外の空気すってた」と返した。
──その瞬間。
「奏くん、それ……」
「え?」
すちの隣にいた女子が、みことの顔をまじまじと見つめた。
みことが首を傾げると、彼女は指先でみことの口元を指しながら言った。
「なんか……唇、赤くない?」
「──っ!」
みことが目を瞬かせるのと同時に、すちは小さく肩を震わせた。
(……やっぱり気づかれたか)と、心の中で小さく呟く。
周りのクラスメイトたちも気づき始め、
「確かに」「いつもよりつやつやしてる〜!」
と、興味津々に声が飛ぶ。
「え、えっと……」
どう誤魔化そうかと言葉を探すみことの横で、 すちはさりげなく口元を隠すようにハンカチを差し出した。
「色つきの飴食べたときについたんじゃない?」
落ち着いた声でそう言うすちの顔は、微かに笑っていた。
だが、その頬もどこか赤い。
まるでさっきの廊下の夕陽の名残が、まだそこに灯っているように。
みことはその笑みを見て、こっそりすちの袖をつまんだ。
誰にも見えないように、指先だけで。
──その仕草に気づいたすちは、
ほんの少しだけ、みことの手を握り返した。
「……もうバレそうだから、次は気をつけようね」
「うん……」
小さく頷くみことの耳は真っ赤になっており、 すちはその様子を見て、苦笑をこぼした。
そしてクラスメイトたちはというと──
「いやあ、みことくんほんと可愛い!」
「その顔で照れるとか反則でしょ!」
そう騒ぎながら、勝手にスマホで写真を撮ろうとする始末。
当の本人は口元を隠しながら小さく笑っていた。
──その笑顔は、
すちの胸の中で見せたものと同じ、
幸せに満ちた柔らかな笑みだった。
──すちとみことが廊下に出ている頃。
打ち上げの熱気と笑い声に包まれたその空間の端、窓際の一角だけは少しだけ落ち着いた空気が流れていた。
そこには、ひまなつといるまが並んで座り、静かにポテチやクッキーをつまんでいる。
「……こさめすげぇな。もう馴染んでる」
ひまなつがカップジュースを傾けながら、楽しそうに笑う。
「だな。初対面であの馴染み方は、もはや才能だろ」
いるまは半ば呆れ気味に言いながらも、どこか誇らしげな顔をしていた。
周囲ではこさめが「これ食べてみて!」とクラスメイトたちにお菓子を配り、
らんがその横で軽くツッコミを入れつつも結局笑ってしまっている。
その光景にひまなつは目を細める。
「……いるまは話さんで良いの?」
その隣でいるまは、腕を組みながら窓の外に視線を向けていた。
「……俺、あんま話すの得意じゃねぇし。みことの友達に迷惑かけたくねぇから」
ぼそっと漏らす声は、ひまなつにしか聞こえないほど小さい。
普段の強気な彼とは違う、どこか守るような優しさが滲んでいた。
そんないるまの言葉に、ひまなつは柔らかく微笑む。
そして、ふいに顔を近づけて囁いた。
「じゃあさ──俺とイチャイチャする?」
「……っ!?」
いるまの肩が跳ねる。
「おまっ、ここで何言って──」
ひまなつはその言葉を遮るように、そっとカーテンを片手で引いた。
薄い布がひらりと揺れ、二人を半ば隠すように覆う。
夕陽がカーテン越しに透け、柔らかな橙色の影が二人の輪郭を包み込む。
「誰も見てねぇよ」
ひまなつは小さく笑い、いるまの顎に指を添えた。
そのままゆっくりと顔を近づけ──唇を重ねる。
「んっ……」
驚いたように目を見開いたいるまだったが、 ひまなつの舌が優しく触れ、絡むように深まると、抵抗する力が抜けていった。
指先が服の裾をぎゅっと掴み、
ただ、受け止めることしかできない。
(……こんなとこで……ばか……)
心の中でそう呟いても、
舌を絡める度に頭の中が白くなっていく。
息が詰まるほどの甘さと、
ひまなつの匂い。
「……っ、なつ……」
かすれた声で名前を呼んだ瞬間、ひまなつが唇を離した。
「声、出すとバレるよ?」
囁く声が耳に触れ、くすぐったい。
いるまは荒い呼吸を整えながら、
頬を真っ赤に染めてひまなつの胸に額を押しつけた。
「ばか……」
「うん、俺バカだね」
ひまなつは笑いながら、いるまの髪を撫でた。
窓の外では、グラウンドに沈む夕陽が赤く伸びている。
カーテンの向こうからは、クラスメイトたちの楽しげな笑い声が微かに聞こえる。
だが、その一角だけは──まるで時間が止まったように、
二人だけの静かな世界が広がっていた。
ひまなつは静かに、でも確信を持って耳元で囁く。
「今日、襲ってもいい?」
いるまはその言葉に一瞬目を見開くが、すぐに小さく呟く。
「拒否権なんかないくせに……」
その瞬間、ためらいなく唇を重ねるいるま。柔らかく、少し押しつけるように絡む唇。ひまなつは目を細め、いるまの舌をゆっくりと絡める。唾液が混ざり合うたびに、いるまはわずかに息を整え、零れないよう必死に飲み込む。
「んっ…ふ…んン…」
唇の熱さ、舌の動き、指先で触れられた感触……いるまの体は次第に反応し、心臓が早鐘のように打ち始める。
ひまなつはその様子を見逃さず、指を少し大胆に動かす。服越しに胸の突起を摘み、軽く引っ張る。刺激を受けたいるまは大きくびくっと震え、体の反応に声が漏れそうになる。
「ん……っ、ゃぁ……ッ」
ひまなつはその声に微笑み、さらに手の動きを調整しながら軽くこねる。いるまの体はビクッと身体を震わせ、腰が抜けるようにしてひまなつに寄りかかった。息も荒く、熱を帯びた体の柔らかさを預けている。
ひまなつは唇を離し、優しい声で尋ねる。
「……いっちゃった?」
いるまはぽやんとした表情で、涙目になりながら恥ずかしそうに答える。
「…ちょっと出た……責任取れよ……ッ」
ひまなつは小さく息を飲み込み、そっといるまを抱きかかえる。腕に収まるその体の温もりを感じながら、背中を優しく撫で、安心させるように囁く。
「大丈夫だよ、任せて」
その瞬間、教室の奥からすちとみことの声が聞こえ、2人が戻ってくることを察する。すちに電車の時間的に帰ると一言伝える。
「先に帰ろうな」
ひまなつが優しく声をかけると、いるまはうん、と小さく頷き、心地よい余韻を胸に抱きながらも、ひまなつの腕にしがみつき、二人はそっと教室を後にする。
カーテン越しに差し込む光が二人の影を廊下に優しく伸ばし、空気には甘く、熱の残る静かな余韻が漂っていた。教室に残った余韻は、二人の密やかな時間の記憶としてしばらく温かく残るのであった。
打ち上げが終わると、それぞれの家へ帰っていく。
夕暮れの道に、笑い声と「またね!」という声が小さく残る。
「次はこさめ達の体育祭で!」
すちとみこと、らんとこさめは別れ際に手を振り合い、 約束を交わしてそれぞれの方向へ歩き出した。
家に着くころには、空はすっかり群青色。
玄関を閉める音がやけに静かに響く。
その静けさの中で、すちはみことの手を取って、
何も言わずにそのまま部屋へと連れていった。
ベッドの縁に腰かけたみことが顔を上げると、 すちはそのままそっと押し倒し、優しく唇を重ねた。
音もなく始まったキスは、やがて小さくリップ音を立てる。
角度を変えながら、何度も、何度も。
離れては触れ、触れては離れ、息が混ざり合うたびに胸が熱くなった。
みことはその温もりに包まれながら、 幸福感で胸の奥がいっぱいになる。
ただ、もっとすちを感じたくて、 無意識に目を潤ませ、上目づかいで見つめた。
その仕草に、すちは思わず微笑む。
「……かわいすぎる」
小さく呟き、もう一度そっと額に口づけを落とす。
二人の間に流れる空気はやさしくて、静かで、 今日という一日の終わりを甘く締めくくっていた。
朝の光が差し込み、柔らかく二人の部屋を照らしていた。
すちはまだ眠そうに伸びをしながら、台所へ向かおうとする。
その裾を、そっと指先が掴んだ。
「……みこと?」
振り向くと、そこにいたみことは小さく俯いていた。
その指先はかすかに震えていて、
顔を上げた瞬間、潤んだ瞳がすちの胸を射抜く。
「……おれって、魅力ない?」
震える声だった。
「なんで……手、出してくれないの……?」
言葉の最後が消えると同時に、
すちは息を呑んで、急いでみことを抱きしめた。
その体は思っていたよりも細く、
抱きしめる腕に力を込めると、
小さな鼓動が自分の胸に重なるのがわかった。
「ごめん……違うんだ」
すちはみことの髪を撫でながら、
低く落ち着いた声で続けた。
「お前が魅力ないわけ、ないよ。むしろ……」
言葉を探すように間を置き、
少し照れたように息を吐く。
「……手加減、できそうにないから。怖かったんだ」
その言葉に、みことはぱちぱちと瞬きをして、 やがて小さく笑った。
「すち……バカだなぁ」
そう呟いて、みことはすちの胸に顔を埋めた。
「……ごめん。でも、ちゃんと大事にしたい」
すちはその頭を抱き寄せ、優しく囁いた。
二人の間に流れる沈黙は、どこかあたたかくて、 カーテン越しの朝の光が、 まるでその想いを包み込むように広がっていた。
朝食を作るために台所へ立ちながらも、すちはさっきのやり取りを思い返していた。
『……手加減できそうにないから』
自分で言ったくせに、胸の奥がまだざわついている。
みことの「魅力ないの?」という言葉が、何度も脳裏で響く。
――あんな顔、させたくなかったのに。
ダイニングの椅子に座って、みことはいつものように無邪気にトーストをかじっている。
その頬にパンくずがついているのを見て、思わず笑みがこぼれた。
(……可愛い)
ほんの少し首を傾げる仕草。
パンを口に咥えたまま、むぐむぐと笑う表情。
それを見ているだけで、胸の奥が熱くなっていく。
(可愛い可愛い可愛い……)
心の中で何度もその言葉が反響する。
まるで呪文みたいに。
触れたい。抱きしめたい。
でも、壊してしまいそうで怖い。
あの透き通るような笑顔が、自分の手の中で泣き顔に変わるなんて――想像するだけで息が詰まった。
「……すち?」
みことが首を傾げて呼ぶ。
その声が、まるで子犬みたいで。
すちは慌てて視線を逸らし、コーヒーを啜るふりをした。
「なんでもないよ」
そう言いながら、心の中ではまだ呟き続けている。
(可愛い、可愛い、ほんとに可愛い……)
息を吐くたびに、抑えていた気持ちが溢れそうになる。
でも、すちは深呼吸して笑った。
「早く食べて、学校遅れるよ」
「うん…!」
元気よく返事をしてトーストをかじるみこと。
パンくずを口の端につけたまま笑うその姿が、また愛しくて、どうしようもなかった。
(……ほんと、罪なやつだな)
小さく苦笑しながら、 すちは心の中でそっと呟いた。
コメント
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一気読みしましたー 長くて疲れました🤭 全部最高すぎます😭 感動するところや 嬉しくなるところがたくさん あって嬉しいです😃 🍵👑と🍍🧸と🌸🦈全部 尊いです!個人的には 🌸🦈が好きです!!! 🦈くん積極的に素直な ところとか最高です😍 長いのに続けられててすごいです 続き楽しみにしてます😊 頑張ってください🔥💪
なついる…最高かよ…てか借り物競争で家族選ぶの尊すぎんだろ…流石みこちゃん…

みこちゃんが可愛すぎで悶絶してます。すちみこありがとうございます😭