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「んじゃ、クラス戻るね!」
体験入部を終えたわたしは小町と礼紗にそう告げると、ロッカーで体操着から素早く着替えて、自分のクラスへ戻った。
教室にはわたしの他にもう一人、男子生徒がいるだけだ。
きゃははは……。
(ん?なんか、騒がしいな……)
窓から声のする中庭の方を見下ろしてみると、七、八人の女子生徒達が集まって、楽しそうにはしゃいでいる。
全員、髪の毛を綺麗に染め、メイクをばっちりときめて、キラキラ輝いて見える。
「あ……。あの子……」わたしの目はその中の一人の女子にくぎ付けになった。
そう、それは忘れもしない、入学式の時に一瞬にして憧れてしまった彼女の姿だった。
ゆるふわっと巻いた腰くらいまでの長さの茶色いつやつやな髪。光沢のある可愛らしい笑顔。高めのキーの澄んだ声。
(やっぱり……。綺麗な子……。何組なんだろう?部活には入ってるのかなあ?)
そんなことを考えていると、教室に残っていた男子生徒がそばに近づいて来た。
「あの……。中西さん?」
「ん?何?あれ、七瀬君……。だったよね?」
その男子と一度も話したことがなかったわたしは、頭の中をフル回転させて、なんとか彼の名前を思い出した。
「うん。そう。話、したことなかったもんね」
「うん……」
……七瀬流賀君は黒髪で長めの前髪が印象的な男子。身長は175センチくらいの細身で、犬みたいにつぶらな瞳の優しい表情をしたなかなかのイケメン。
外で活動をほとんどしていないからなのか、肌の色は白い。
笑うと小さな八重歯とえくぼが出て、思わずきゅんとしてしまう女子もいるのではないかと思わせた。
実際に、彼はクラスの女子の間で結構な人気があるらしい。それはわたしも前に風の噂で聞いたことがある。
話す口調も極めて穏やかで、怒ったりするところなんて、想像できない。声のキーも低すぎず高すぎずな聞き心地の良い、いわゆる“イケボ”だった。
「何、見てんの?」七瀬君は不思議そうにわたしを見た後に、中庭の方を見下ろした。
「うん……。あの子たち。キラキラしてて、いいなって」
「そう?中西さんだって、いいじゃん」
「えっ!わ、わたし!?」思いがけない言葉にわたしの声は裏返った。
「うん。素朴な感じで」
(そ、そぼく……?これ、喜んでいいのかな?でも……。もしかして、地味ってこと?)
そんなことが頭に浮かんだが、聞かなかった。聞いてしまったら、返事に困ってしまうかもしれないと考えたからだ。もしくは、「そうそう」なんて言われてしまったら、自分が傷つくということが想像できたから。
「中西さんは、何か趣味あるの?」
「あ~。しいて言えば、歌とダンス、かな」
「お!俺はギターと歌が好き!」
「えっ!七瀬君も、音楽好きなんだね!」
「そうだよー」
「意外な、共通点だね!!」わたしはビックリしたとともに、なんだか少し心がウキウキしてしまった。思わず、口元が緩み、笑顔になる。