テラーノベル
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朝の校門を、たくさんの生徒たちが通り抜けていく。
「おはよー!」
背後から聞き慣れた声が聞こえた。
振り返ると、そこには幼馴染の彼女がいた。
「おはよう。今日も早いな」
「えへへ、今日はちゃんと目覚まし一回で起きたからね!」
「それ、威張ることか?」
「威張ることです!」
彼女は楽しそうに笑った。
昔から変わらない。
明るくて、活発で、いつも周囲を笑わせている。
そして――俺にとって、何よりも大切な存在だった。
「ほら、早く行こう! 遅刻するよ!」
「分かってるって」
二人並んで校舎へ向かう。
教室に入り、席に座る。
授業を受けて、休み時間にはくだらない話をして、昼休みには一緒に弁当を食べる。
どこにでもある、ごく普通の一日。
少なくとも、この時の俺はそう思っていた。
「ねえ」
「ん?」
「今日、放課後どこか寄っていかない?」
「いいけど、どこに?」
「駅前に新しい店ができたんだって!」
「また食べ物か?」
「いいじゃん!」
彼女は笑った。
俺もつられて笑う。
――この時間が、ずっと続けばいい。
そう思った。
その瞬間だった。
視界が歪んだ。
「……っ」
頭の奥を、鋭い痛みが走る。
「大丈夫?」
「……ああ」
彼女に心配をかけないよう、俺は小さく頷いた。
だが、もう遅かった。
俺の能力――『天眼』が発動していた。
目の前の教室が消える。
代わりに、まるで自分が学校全体を空から見下ろしているような光景が広がった。
廊下。
階段。
体育館。
校庭。
そして――
「……何だ、これ」
時間が進む。
数分後。
廊下を歩く生徒たち。
教師。
友人たち。
いつもと変わらない学校。
だが、その中に一つだけ。
存在してはいけないものがあった。
校舎の三階。
誰もいないはずの廊下に、黒い影が立っている。
俺は息を呑んだ。
「……あれは……?」
さらに未来が進む。
黒い影が動いた。
#サスペンス
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そして――
視界が切り替わった。
「――っ!」
目の前に、彼女がいた。
血のような赤いものが床に広がっている。
「……嘘だろ」
彼女がこちらを見る。
いつもの笑顔はない。
それでも、彼女は俺に向かって手を伸ばした。
『……逃げて』
「……!」
そこで未来が途切れた。
教室に戻る。
周囲では、何事もなかったかのように生徒たちが笑っている。
「ねえ?」
隣から彼女の声がする。
「さっきから、どうしたの?」
「……」
俺は答えられなかった。
手が震えている。
頭の中に、さっき見た光景が焼き付いている。
――彼女が死ぬ。
そんな未来を、俺は見てしまった。
「顔、真っ青だよ?」
「……大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ」
嘘だった。
大丈夫なわけがない。
俺はもう一度、未来を視ようとした。
しかし――
「……見えない」
いつもなら複数の可能性が見える。
なのに、今回は何も見えない。
まるで誰かに未来そのものを隠されているようだった。
その時。
校内放送が鳴り響いた。
『――生徒の皆さんに連絡します』
いつもの放送。
そのはずだった。
『現在、三階への立ち入りを――』
そこで放送が途切れた。
教室が静まり返る。
そして、次の瞬間。
窓の外から――
ドンッ!!
校舎全体を揺らすような音が響いた。
彼女が驚いて立ち上がる。
「な、何……?」
俺は窓の外を見た。
三階。
さっき未来で見た場所。
そこには――
黒い影が立っていた。
「……始まった」
俺は立ち上がる。
未来は、もう動き始めていた。
そして俺は決めた。
何が起きても。
どんな未来が待っていても。
「……絶対に、お前を守る」
彼女は俺の言葉を聞いて、不思議そうに首を傾げた。
「……え?」
俺は答えなかった。
ただ、三階を見つめる。
――俺が未来を変える。
それが、彼女を守るためにできる唯一のことだった。
コメント
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「天眼」で未来を見てしまった直後、校内放送が途切れ、実際に黒い影が現れる――その流れが一気で息を呑みました。未来が“一つしか見えない”という仕掛けも、単なる予知能力ものに留まらない緊張感を生んでいて好きです。あの黒い影が何なのか、彼女を守るために主人公がどう動くのか、続きが気になります。設定の骨格がしっかりしていて、読後感がいい一話でした。