んんっ。なんだ、どうした?
瞼を開くと目の前には青々とした草木が生い茂っている。
その隙間からは日の光が差し込んできており青空がほんの少し覗いていた。
どうも森で寝ていたようだ。爽やかな風が頬を撫でていく。
少し肌寒い感じだ。
……俺はどこに居るんだ。何故こんな所で寝ていたんだ?
そのように考えを巡らしていると、こちらを見ている視線があるあことに気がついた。
その視線の先に目を向けると、そこには一匹の白い犬が居て、お座りしてこちらを見つめていた。
えっ、犬? 白い毛色に中型犬ほどの大きさかな。
俺と視線が合い、認識されたのが嬉しかったのか尻尾をブンブン振っている。――とても可愛い。
俺はその場で身を起こすと、座ったままでその犬と向かいあった。 そして気付いたのだ、
「おまえって……、もしかして ”シロ” なのか?」
「ワン!」
白犬は『そうだよ♪』と言うように一吠えして答えてくれた。
尻尾もブンブンちぎれんばかりだ。
俺は嬉しくなって、たまらず呼んでしまった。
「シロ。おいでっ!」
するとシロはトトトトッと俺の膝元まで寄って来てくれた。
そして伏せの|状態になってくれたシロに、
「そうかシロなんだな。そうか……」
声を掛けながら両手でモフりまくっていた。
近くで見てみるとやっぱりシロだ。
赤い首輪こそしていないが真っ白な毛並み、黒いけど先のほうが少しピンクがかった鼻、片方だけが垂れている耳、極めつけは鼻の少し上にある傷だな。
この傷は散歩中に誤って道路に飛び出してしまい、走ってきたオートバイに撥ねられたときのやつだよなぁ。
あの時はグッタリしていてもうダメかと思ったけど、
「シロがんばれ! シロがんばれ!」
ずっと抱きかかえて声を掛けていたら復活してくれたんだよなぁ……。
13年も飼っていたのだ。
その当時のことをいろいろと思い出して少しホロっとなってしまった。
「さてさて、これからどうしたものかな」
シロをやさしくもふりながら呟いてみる。
ここに至るまでの経緯を少しずつ思い出していた。
俺の名前は高月 玄 (たかつき げん) 55歳。
訳あって長いあいだ『自宅警備員』を続けていた。
その訳というのも10年ほど前のことだ。
初めは歩き難い、階段が昇り辛くなったといった感じだった。
しかし、日を追うごとに足は動かなくなっていった。
これはオカシイだろうと思い近くの病院に行ってはみたが……。
そこでの診断結果は『腰痛からきているだろう』ということだった。
それまで持病で腰痛を抱えていた俺は、その診断を鵜呑みにし、馴染みの整体院などに通いながら日々を過ごしていた。
しかし、病状が好転することはなかった……。
それから1ヵ月が過ぎ、ただ座っていることですら保てなくなってきた俺は家から少し離れた大きな総合病院を|訪ねてみることにした。
「おそらく首から来ていますね。MRIにかけて詳しく検査してみましょう」
結局そのあと手術を受けることになったのだが、残念なことに足に麻痺が残ってしまった。
その為、車椅子での生活を強いらる結果となってしまったのだ。
まあ、何が言いたいのかというと『セカンドオピニオン』これはすごく大事なのだ。
早く他の病院に掛かっていれば、ここまで不自由になる事はなかったのだ。
大事なことなのでもう一度言っておく、
『セカンドオピニオン』 おかしいと思ったら迷わず他の医療機関へ。
その日も買い物にでた俺は、徒歩だと10分程の距離にある ショッピングセンター・イヲン をめざし車椅子を走らせていた。
もうすぐイヲン。西口の階段が見えている。
道路を渡るため信号待ちをして、青に変わったので横断歩道を渡りはじめた。
しかし、そこからの記憶が無いのだ……。
ふと目を覚ますと、そこにはただ真っ白な空間が広がっていた。
ところどころに雲のような霞のようなものが漂っている。
身体の感覚もどこかおかしい。
なにかフワフワした感じだろうか、なんとも形容しがたい不思議な感覚なのだ。
『俺は買い物に出ていたはずなのだが、ここはいったい何処なんだ?』
さらに考えを巡らせていると突然目の前に白木のテーブルが音もなく現れた。椅子も向こうとこちらで2脚現れている。
さらにテーブルの上には紅茶? の入ったカップが2つ。淹れたてのようで湯気が立ちのぼっている。
しかし誰も居ない。
俺はその光景を眺めながら呆然と佇んでいた。
すると突然、辺りが眩しい光に覆われてしまう。
そして一瞬にして、俺の前に美しい女性が姿を現したのだ。
その女性は俺に向かって優しく微笑むと、
「高月 玄 (たかつき げん) 様ですね。今から事情を説明させて頂きますので、どうぞ そちらの椅子にお掛けください」
と、丁寧に促してきたのである。
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