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4人がけのテーブルには、食事が用意されていて、そのどれもがナーシャが口にした事のない料理だった。 骨がついた肉なんてナーシャは食べた事がなくて、食べ方に窮してしまって手が止まった。
一緒に食事をしているジェストや、ジェストの従者だと紹介されたサムは、剥き出た骨の部分を手で持ち美味しそうに頬張っていて、ナーシャはその姿に呆然としていた。それはセリナも同じだったようで、促されるまま一緒のテーブルについている彼女も固まった体が微動だにしない。
すると、食事の進まないナーシャを見て、それに気付いたジェストが、ナーシャの皿を自分の前に引き寄せると、ナイフとフォークを駆使して、肉から骨を上手に取り、肉だけを残して再びナーシャの前に皿を戻した。
「気付くのが遅れてごめん。この宿は主に平民がよく泊まる宿だから、食事も庶民的なんだ。こちらに来る時はこれが自然だったから。自分達が慣れてるからといってうっかりしていた。吃驚させたね、これで食べられると思うよ。美味しいから食べてごらん」
ジェストに言われるまま、ブラウンのソースが絡まっている肉を口に入れる。ソースの色から濃い味を想像していたのに、全く執拗さを感じなかった。初めて食べる骨付きのお肉は、味も初めて口にする物で、失礼なことだと思ったが、平民の人はこんなにも美味しいものを食しているのかと、ナーシャは自分が貴族である事を初めて残念に感じた瞬間だった。
「美味しいです。ねぇセリナ、とても美味しいわね」
ナーシャが言いながらセリナを見ると、セリナの皿の肉も、ジェストを真似たサムが、骨を切り離してくれていたようで、彼女も目を見開いてから口元を綻ばせていた。
オリジエル侯爵家の食事は、ナーシャの部屋だったから、セリナと二人で摂ることが多かった。本当は、駄目だったのかもしれないが、一人で食べる食事は楽しめるものではなかった。だからナーシャから頼んで、いつもではなく偶に一緒に食べていたのだ。
そんな事をジェストには一つも話していなかったのに、食事の用意が出来たとサムが呼びに来て、ジェストとサムの部屋に行くと、そこに用意されていたのは、始めから4人分を同じテーブルに並べてくれていた。
お肉以降も二人は、ナーシャとセリナを気遣って、食べやすいように薦めてくれた。それに食べながらではあったけれど、4人での会話がとても弾んで、ナーシャは楽しい食事を堪能できた。
だが食事を終えて、セリナの淹れてくれたお茶がテーブルに並べられると、急にジェストが真剣な顔で隣に座るナーシャに向き合った。
(あぁ、そういえば、説明をしてくださると言っていたわね)
そう思って、少し身構えて聞いたジェストの話は、話し始めからナーシャの思っても見なかった事だった。
「ナーシャ、今日は慌ただしくてごめんね。ナーシャは何も知らされていなかったから驚いだだろう?セリナにも変更の事は告げられなくて戸惑っただろうから、取り敢えず急遽急いだ訳だけ説明するね。原因はマーケリー伯爵が、トーラス伯爵家での事実を知ったという情報が、昨夜ルオン公爵に齎された事が理由なんだ」
マーケリー伯爵はローランの家で、トーラス伯爵はリリアの実父の事だ。
2つの伯爵家の事が、何故ナーシャに関係があるのか、不思議に思ってナーシャはジェストを見つめた。
「何故関係あるんだって顔だね」
ジェストにそう言われて、ナーシャはそのまま頷いた。ただ、セリナが理解できたという顔をしている事も不思議で、ナーシャはジェストに頷いたあとセリナを見つめると、彼女もこちらを見つめて、ナーシャを安心させるように微笑んでくれたが、その笑みは少し引き攣っていた。
「リリア嬢が何故、オリジエル侯爵家の養女になったのか、俺は理由は知らないし、ルオン公爵には何か予想できる物があるらしいけど、教えてはもらえなかった。ただ、トーラス伯爵家で起こった事は教えてもらえたんだ。それをマーケリー伯爵家が知れば、二人は婚約を結ぶ事はないと俺は思えたし、公爵も同意見だった。そうなればマーケリー伯爵は、ナーシャとの婚約解消をまた解消して元に戻すと俺達は考えた」
「そんな事⋯⋯」
ないと、言い掛けてナーシャは止まってしまった。途中で、無くはないと思えたのだ。
元々、ナーシャはマーケリー伯爵夫妻とは良好だった。良好でなかったのは婚約していた当の本人であるローランとだけだ。
それにいくら夫妻と良好だったとはいえ、ローランが望んだのがリリアだったから、ナーシャとの解消はスムーズに進んだのだろうと、リリアから昨日聞かされてそう思えた。
先程のジェストの口ぶりで、トーラス伯爵家で起こった何かに、リリアが関係しているのだろうと考えれば、それが何らかの瑕疵に繋がるのなら、夫妻がオリジエル侯爵家から離れようとするか、ナーシャに婚約を戻すかのどちらかを考えてもおかしくない。
父であったスティーブは、ナーシャが侯爵家から移籍して公爵家に養女になった事を知らない。知らないまま、マーケリー伯爵家の要請で、ナーシャとの婚約を戻すと約束してしまったら⋯。
そこまで考えて、ハリスがあの日言っていた仮定の話しが、現実になる所だったと分かり、体が震えてきた。
そんなナーシャをジェストが抱き寄せてくれる。ジェストに肩を抱かれ、頭を預けると震えがきていた体は、安心感が広がり治まる。
「話しを続けるね」
頭上から降る声に、ジェストの肩に頭を預けたままナーシャは頷いた。
コメント
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第20話読み終えたよ〜!骨付き肉に戸惑うナーシャ、めっちゃ可愛かった🥺 ジェストがナイフとフォーク使って食べやすくしてくれたシーン、優しすぎて胸がきゅんとしました…。でもその後、急に真剣な話になって、マーケリー伯爵の話が出てきてからのナーシャの震えと、ジェストの抱き寄せがもうね…。安心感と不安が混ざって、すごく引き込まれた🌙 続き、めっちゃ気になる…!