その頃、ナオトは……。
「ここは……『暗黒楽園《ダークネスパラダイス》』……か……?」
そう、ここには闇しか存在しない。しかも、ここに来るには眠る以外で気を失わないといけない。
だから、来るのは容易ではない。そして、ここには主がいる。ここの主……それは……。
「久しぶりね、ナオト」
「おう、久しぶりだな。サナエ」
全身が真っ黒であるため、彼女がどんな顔なのかは分からないが、ここにずっと住んでいることは知っている。
なぜなら、ナオトは何度か彼女に会っているからだ。(本当だよ! 嘘じゃないよ!)
「なあ、サナエ」
「なあに? ナオト」
「そろそろ聞かせてくれないか?」
「私があなたに聞かせる話なんて、何もな……」
「サナエ……」
「……はぁ……。どうしても言わなきゃいけないの?」
「もうはぐらかすのは、やめてくれ。お前は俺の何なんだ?」
「そうね……それには、まずあなたと、あなたの周りにいる人たちのことを説明しなければならないけど、いい?」
「お前がそうしたいなら、それでいいさ。だけど、俺に嘘《うそ》を言っても後で後悔するだけだから、気をつけろよ?」
「そんなの分かってるわよ。まあ、忠告はありがたく受け取っておくわ」
サナエは咳払いをすると。
「いい? これから話すことは誰にも言わないこと。いいわね?」
ナオト(第二形態になった副作用でショタ化してしまった身長『百三十センチ』の主人公)にそう言った。
「ああ、もちろんだ。これからお前が言うことは全て墓場まで持っていくよ。だから、話してくれ」
「……ええ、分かったわ……と言いたいところだけど、どうやら、あなたは厄介な人を呼んでしまったようね」
「え? それってどういう……」
その時、二等辺三角形の頂点に立つように『アイ』の意識が降臨した。
「私もその話を聞きたいのだけれど、構わないわよね? |大罪の頂点《トリニティゼロ》」
「はぁ……あなたがここに来ることは予想していましたが、私の予想より早くたどり着いてしまいましたね」
「遅れるよりかは……マシでしょ?」
「そうですね。あなたは昔からそういう人でしたよ、アイ先生。では、とりあえずナオトには眠っていてもらいましょうか」
「それもそうね」
「お、おい、勝手に話を進め……」
「『完全睡眠《スリープ》』……」
ナオトは『アイ』の魔法にかかると、すぐに仰向けに倒れ、すぐに寝息を立て始めた。
「それじゃあ、話してもらえるかしら? あなたの目的を」
サナエは溜め息を吐《つ》いた。
「やはり、あなたには敵いませんね。分かりました、全てお話しましょう。ですが、ここは私の領域です。いくらあなたが、あらゆる神々から恐れられている存在であったとしても、ここから生きて帰れると思わな」
「さっさとしなさい……私も暇じゃないのよ?」
「くっ! どこまでも上から目線ですね。いいでしょう、ではお聴きください。私の計画の全てを……!」
それからサナエがアイに伝えた内容はアイにとっては、どうでもいいことであった……。
*
その頃……ミノリ(吸血鬼)たちは、ナオトのことが心配で結構広い待合室で一言も喋らずに床に座っていた。(ミノリ以外は)
「あー! もう! いつになったら、ナオトに会えるのよー!」
ミノリ(吸血鬼)は結構広い待合室の壁を一人で殴っていたが、ビクともしなかった。
「この壁、硬いわね……。ほら、みんなも手伝ってよ。みんなー?」
その時、ミノリは気づいた。全員の目のハイライトが消えていることに……。
「……さてと、じゃあ始めましょうか」
ミノリ(吸血鬼)の前に突如として現れた『アイ』(?)は彼女にそう言った。
「あ、あなたは今、ナオトのところにいるはずですよね? どうしてこんなところに……って、あなたは、まさか……!」
「そう、私は本体ではなく、分身のアイ。けれど、強さや性格は彼女とまったく同じよ。この意味……あなたなら、わかるわよね?」
「ここにいるあたしたちが束になってかかっても、あなたは倒せないってことですね」
「さすがは『吸血鬼型モンスターチルドレン』ね。戦闘においては、どのタイプのモンスターチルドレンにも負けない最高傑作。だけど、あなたはあの頃とは違って弱くなっているようね」
「それは……どういう意味ですか?」
「私は九百十七番目の分身だけれど、本体と同じ記憶がちゃんとあるのよ? 覚えていないわけないじゃない……『モンスターチルドレン脱走事件』の全貌を」
「あたしが暴走しちゃったせいで、ここの育成所で働いていた人を百六十人もあたしは殺してしまった。それは、今でも覚えています。でもあの時は意識が朦朧《もうろう》としていて……」
「そう……あなたには、そこまでの記憶しかない。あなたの存在そのものが世界を揺るがすほどのものだということを知らない……」
「そ、それは、どういうことですか! あなたはいったい何を知って……」
「話は終わりよ。さあ、戦いなさい。そして、あの頃のように己《おのれ》の欲望を全てさらけ出しなさい!!」
九百十七番目の分身であるアイはそう言うと、ふっと消えてしまったが、その直後に目のハイライトが消えたみんながミノリ(吸血鬼)に襲いかかってきた。
「たしかに、今のあたしにはもう、あの頃のような力は出せない……だけど……!」
ミノリ(吸血鬼)は自分の親指の先端を噛むと、自らの血液を【日本刀】に変形させて、みんなの攻撃をうまく受け流した。
「今のあたしには、ナオトがくれた居場所と大切な家族がある! だから、あたしは……こんなところで死ぬわけにはいかないのよおおおおおおおおおお!!」
ミノリ(吸血鬼)は一人ずつ確実に急所ではなく、気絶させられる箇所を狙って、攻撃し始めた。
*
あ……れ? 俺、どう……なったんだ? たしか、『暗黒楽園《ダークネスパラダイス》』で久しぶりにサナエに会って……それから。
「……な……さい……」
誰かが……俺を……呼んでいる? でも、いったい誰が……?
その時、俺は誰かに頬を二回、叩かれた。その痛みで俺はゆっくりと意識を取り戻した。
「二度もぶった……親父にもぶたれたことないのに!」
懐かしいセリフを言いながら、跳ね起きた俺が最初に見たのは真っ白な部屋……いや、手術室だった。
「ここは……いったい」
「あら、目を覚ましたのね、ナオト。調子はどう?」
アイがナオトの目の前に突如として現れたため、ナオトは少し驚きながら。(アイは浮かんでいる)
「うわぁ! びっくりした! ……って、俺、お前とどこかで会ってたりしないか?」
「……さあ? 他人の空似でしょ? それより、体の調子はどう?」
「え? あー、まあ、異常は……ないけど」
「どこか痛まない?」
「いや、別に」
「……そう」
「えーっと、その……助かったよ。ありがとう」
「べ、別に大したことはしていないわ」
「いや、でも……」
「黙りなさい。それ以上、私に……」
ナオトはアイが何かを言い終わる前に頭を撫でながら、こう言った。
「小さいのにすごいんだな、お前。将来が楽しみだ」
アイは自分がナオトの記憶を操作して、自分の存在をなかったことにしてよかったと思った。
でなければ、今ごろ、キュン死していただろう。高校時代、アイはナオトの担任であったが、その時から彼に対する気持ちは変わらない。
しかし、宇宙ができる前から存在している彼女は『恋』というものがどんなものなのかを知らずに生きてきたため、好きな人に体を触《ふ》れられるだけで興奮してしまう……。
「は、離しなさい! 汚い手で私に触らないで!」
アイはナオトの手を払いのけた。だが、本当は嬉しくてたまらない。
だって、ナオトはアイの手を直接、触っても白く染まらない唯一の存在なのだから……。
「おっと、すまなかったな。なんか昔、お前とそっくりなやつがいたような気がしたから、つい」
その無邪気な笑顔を見ていると、アイの心の中はいつのまにか、ふわふわしたものでいっぱいになっていた。
「……ふ、ふん。それで? あなたは、これからどうするの?」
「ん? あー、そうだなー。お前みたいな見た目だけど、戦闘力がモンスター並みのモンスターチルドレンっていうやつらを元の人間に戻すことができる薬の材料を集めるまでは、この世界にいるつもりだ」
彼女はナオトに真実を伝えようとしたが、教え子にそんなことが言えるはずがなかった。ましてや、最愛の存在にそんなことなど言えない……。
言ってはいけない。もし、言ってしまったら、一生消えることのない傷を彼の心につけてしまうことになるから……。
だけど……この世界で彼といつまた会えるか分からない。だから、アイはついに決断してしまった。
「あなたの意思なんて……関係ない。あなたは、これから私とずっと……ここで暮らすの」
「……悪いな、いくら命の恩人でも、それはできない」
「あなたを縛り付けているものは、全部私が消してあげる。だから、私の言うことを……」
その時、ナオトはいつになく真剣な口調でアイに向かって、こう言った。
「それはダメだ。お前にそんな力があるとしても、俺がそれを許さないし、やろうとしたら、全力で止める。俺はな、家族のおかげで今までこの世界で頑張ってこられたんだ。俺は家族を裏切るようなことは絶対にしたくないし、しない。それが俺の答えだ! 分かったか!!」
アイはナオトが高校時代のままだということを改めて知った。
そのおかげで彼女の決断はより強固なものへと変貌した。
いつも真顔なせいで何を考えているのか分からない彼女はその時、微笑みを浮かべた……。
それは、一番の教え子であり、最愛の存在でもあるナオトと戦うしかない……だけど、久しぶりに楽しめそうだとでも言わんばかりのものであった。
「いいわ。あなたがその気なら、私はあなたを絶対に私のものにするわ」
「そうか。なら、やってみろよ。まあ、俺がこの世界で手に入れた力の前では手も足も出せないかもしれないけどな」
「それは知っているわ。あなたを解剖して、一度それらを取り出してから、あなたへの負担が最小限に抑えられるように調整したのは、この私なのだから!」
「それはありがてえな。なら、俺も本気を出してもいいってことだよな?」
「ええ、もちろんよ。そうでなくては面白くないわ」
「そうかよ……じゃあ、場所を変えようぜ。ここだと狭すぎる」
「その必要はないわ」
アイがパチン! と指を鳴らすと、その部屋が白い立方体の部屋へと変わった。(それと同時に前の部屋にあったものは、パッとどこかに消滅してしまった)
「さあ、始めましょうか。お互いのこれからを決める戦いを!!」
「それはいいな。見た目が幼女でも、容赦なくやり合える」
「まあ、あなたの今の見た目は少年だけどね?」
「それがどうした。ハンデだよ、ハンデ。体格差がありすぎたら、お前が不利だろ?」
「ずいぶんと威勢がいいわね。けど、いつまでそれが続くかしら?」
両者はニシッ! と笑うと、床を思い切り蹴って、攻撃を開始した……。
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