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春の柔らかな風が吹く午後、校庭を出てすぐの図書館前の広場で、神谷迅はベンチに腰を降ろしていた。桜の花びらがひらひらと舞い落ち、静かな春休みの光景を彩っている──遅れてきた藤堂花が、足早に近づきながら「花、遅いよ」と冗談めかして声をかけた。迅もにっこりと笑いながら「ごめん、ごめん」と謝りつつ、借りていた本を返しに寄っていたことを打ち明ける。「あの頃、ずっとここで勉強してたよね」と花がつぶやくと、二人は卒業までずっと、図書館の片隅で教科書を開いては文句を言い合いながら勉強した日々を思い出し、少しだけ頬を緩めた。
卒業してからも、二人は自然と連絡を取り合っていた。花からLINEが来れば迅はすぐに返信し、休日には短い時間でも会っていた。そんな日々の中で、何気ない会話のなかにふいに不安を覗かせる花がいた。「でも…」突然声を落として花が言った。「卒業してから、本当に嬉しいし楽しいんだけど…時々すごく不安になるの」。めったに見せない弱い表情に迅はハッとする。「私たち、これからどうなるんだろうって考えると、急に怖くなるの」──優しい目で花を見下ろしながら、迅はそっと隣に腰を滑らせた。「急に怖いって…どういうこと?」
花は少し言葉に詰まりながら告げる。「まだ正式には付き合ってるわけじゃないじゃない? 卒業まで、ずっと友だちだったし…でも、私、迅くんのことを大切だなって思うし、好きだなって気持ちは日に日に強くなっていくばかりなの。でも、これからもずっと連絡を取っていけるかな…私の気持ちを迅くんが受け止めてくれるかなって考えると、どうしようもなく不安になってしまって…」。照れくさそうに頬を赤らめながら花は打ち明ける。
聴いていた迅の胸は熱くなる。「俺も…花のこと、ずっと考えてたよ」──言葉とともに、迅はそっと花の手を包んだ。「卒業してからも、花とつながっていたいと思ってたんだ。LINEで声を聞けるたびに嬉しかった。花が不安になるのは当然だと思う。だけど、俺にとって、花はただの友達以上の存在なんだ。大事な…もっと大切な存在なんだよ」。真剣な瞳で見つめられた花は目を潤ませ、「迅くんも、そう思ってくれてたんだ…」と小さく笑った。
沈黙のあと、迅は深く頷くとバッグから小さな花束を取り出した。川沿いに咲く野花と、花の好きな花言葉を書いたカードが添えられている。「卒業の日、伝えようと思ってたんだけど言えなくて…今日ここで伝えたいと思ったんだ」と言い、そっと花の手を握る。桜の花びらが舞う広場で、柔らかな日差しが二人を包み込む。「花は俺にとって一番大切なんだ。ずっと一緒にいたいって思ってる。もしよかったら…付き合ってください」と、ゆっくりと告白した。
花はこらえていた涙が頬を伝って落ちるのを感じた。「はい…私もずっと、迅くんのことが好きでした」と震える声で応えると、二人は自然に笑い合いながら手を取り合った。春風に桜吹雪が舞い落ちる中、藤堂花と神谷迅は照れくさいような安堵に包まれながら、新しい一歩を踏み出した。思い出の詰まった静かな場所で、二人は優しく微笑み合い、未来への希望と胸の高鳴りをかみしめながら穏やかに歩き出した。