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#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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「私は一河と水咲が決めたことなら応援する。私はお見合いを止めるけど、二人は好きだから苦しいんだったら、苦しくても止められないのなら。私は何があっても二人の味方をする」
法律なんて関係ないよ。二人が進む道が茨の道だったら私が少しでもトゲを切りながら先に進む。
一河は私たちにはまだ多く語らないけど辛そうで、水咲は気づいてしまった今、どうするか迷っている。
私は、ーー私は進むしかない。
「授業をはじめるぞー、席に着け」
担任が珍しく予鈴前に教室に入ってきたので、私たちも慌てて席に戻った。
答えが出ていない私たちにはちょうどよかったのかもしれない。そして私は、先生のミミズみたいな字が連なる黒板から目を背け、青空広がる窓を見上げた。
一慶さんは私に学校の宿題や勉強を真面目にしなさいって言う。
私の鞄の中に教科書が毎回は言ってないことに驚いていたっけな。
あんなにテンションが高くてつかれるけど面白くて、多分根は悪い人ではないんだと思う。
学生時代の一慶さんはどんな人だったんだろう。
友達に囲まれて、でも案外真面目で人気者だったのかな。
孔一くんとは敵対してそう。
どんな人だったんだろう。
そしてあなたはどんな顔をしていて、どれぐらい見上げなきゃいけないぐらい大きな人で、どれぐらい優しく笑って私を見つめてくれるのかな。
「…・・・」
突然、私の座っている机の周りに風が吹いたような気がした。
急激に体温が上昇した。私は一慶さんをもっと知りたいのだ。
ハムスターの姿ではない、あの人を。
こうやって同じクラスにいたら私たちの位置はどこだったんだろう。
どんな風に初対面で会話してどんな風に仲良くなれたのかな。
それとも仲良くもなれず、関わりもないまま?
お見合いじゃなかったら出会えなかったの。
お見合いしなかったら普通に出会えたの。
矛盾した考えの中、お見合いっていう法律が私の恋愛を邪魔する悪意の塊に思えた。
思春期の私たちを邪魔する、悪意の塊なんだ。
授業の終わりを告げる予鈴がなるのに、先生はまだミミズみたいな字を黒板に書く。
次が移動の授業ではないのでよかったけど、私たちの休み時間を奪って良い理由にもならないのに。
授業は私には今、必要ではない。
でも私の気持ちを整理する時間としては大切で、そして答えが出なかった。
水咲も一河も同じ黒板の同じミミズが連なる字を見ながら違う選択を考えていく。
ここまで私たちを悩ませる法律なんて、本当になくなってほしい。
授業が終わっても私たちの顔は暗い。しょうがない。すぐに答えが出たら、こんなに苦しむ必要はないのだから。
「私、早退することにする」
鞄も持たずに出て行こうとしたのは、私ではなく水咲だった。
「どこに行くの?」
一河が水咲の鞄の中に宿題が出そうな教科を入れながら落ち着いた声で聞いた。
「彼のところ。で、おじいさまのところ。悩んでいたら時間がもったいないからね」
少し冷静を取り戻したのか、鞄を受け取ろうとしたら一河は鞄を自分の足の上に乗せた。
「じゃあ俺もついて行くよ。水咲ちゃんだけじゃ、不安だから」
「私なら大丈夫よ」
「水咲ちゃんは女の子でしょ。うちの車で行こう」
一河だったらよかったのに。
そのとき、私と水咲は同じことを思った。
全世界の男性が、一河みたいだったら女の子は幸せなのにと。
それでも私たちが選ぶ道は険しい。
『今日は実家に戻ります』
帰りの電車の中で一慶さんにメールをしたためると一分もしないうちに着信が鳴った。
『実家に帰らせていただきますってなんで!?』
「あはは。違います。私もちゃんと向き合おうって思って。今、ただ法律に反発してるだけでしょ」
ガタガタ揺れる電車の中、窓の外を見る。
私の目を待ってくれない、目まぐるしく流れていく窓の外。
私たちは変化に、まだ目が慣れていないだけなのか。
成長が追いつかないのか。それともこの法律が間違えているのか。
答えを探したくなった。そして一慶さんと向き合いたくなった。
『じゃあ吾妻家には帰らないんだね。笹目さんには俺から伝えておくけど』
沢山言葉を飲み込んで、一慶さんは絞り出すような声。
「うん。だから今日はうちにご飯食べにおいでよ。昨日カレーだったから、今日もうち流のカレーは流石にあれだよね。お鍋にしよう。季節外れのお鍋」
『行く!』
少年のような元気な声が、私の鼓膜を攻撃してきた。
自分の声量を理解して欲しい。けど、彼らしくて笑ってしまった。
「じゃあ、切るね。うちの家、わかる?」
『わかるよ。今日は今、試合のリハで会場入りしてるから、終わったら直接流伽の家に行くよ』
「うん、待ってるね」
まだお母さんにもお父さんにも、家に帰ることを言っていないのに。
ご飯だって勝手に決めちゃった。
『仕事頑張るからな』
嬉しそうに電話を切られ、私はただ彼の名前が映る携帯の液晶を眺めることしかできなかった。
ああ、なんてかわいらしい人なんだろうと。
胸が痛むのがわかった。