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山もオチもない🏺が日光浴してる話
真っ昼間のことであった。近頃は暑さも和らぎ、ずいぶん過ごしやすくなった。
「遊ぶなら今が一番いい時期だぜ」
つぼ浦がニコニコご機嫌な声で言った。鞄にスケートボードとタオルをしまい、空いた隙間にお菓子を詰めこんでいる。
「なんだ、どこか行くのか」
「はい。午後休です。キャップも来ます?」
「ふむ。しかしな、この間サボり過ぎを叱られたばかりだ」
「パトロールのついでなら良いんじゃないですか」
「うーむ。確かに」
特殊刑事課は好きに働くのである。そういうことになった。
遠くから見るビーチは金色に光ってみえた。砂の一粒一粒がキラキラ輝いているのだ。これは紫外線のせいだった。
ロスサントスの冬は底冷えしない。緯度が低いからだ。地中海性気候の過ごしやすい気温に落ち着いて、海風ばかりが体を程よく冷やしてくれる。
天気の良い今日は絶好の日光浴チャンスであった。
つぼ浦は程よく暖まったビーチにタオルを敷いた。それから、上着とTシャツを一度にガバッと脱ぎ去る。よく食べ、よく動く若い体が露わになった。小麦色の肌は内側に貯めたエネルギーを示すようにピンと張り詰めている。
「おぉ、思い切りがいいな」
「キャップは脱がないんすか?」
「面倒なんだ。今回はやめておこう」
キャップはフリルスカートをつまんで揺らした。色々な事情の末のメイドファッションである。いつ見ても不似合いな水色に、つぼ浦が息だけで笑った。
「ふ。そのがいいっすね」
「だろう。私はこのまま座るだけでいい」
「うす」
キャップは丁寧にスカートを畳んで、タオルの半分に腰を下ろした。隣につぼ浦がゴロンと寝転ぶ。猫に似たしなやかな背筋と、イカついタトゥーが日光に白く照らされた。
「お前、タトゥー入れすぎじゃないか?」
「キレバナナだぜ。イケてるっすよね」
「うん、いいね」
「百点だぜ」
「お前が言うんかい」
「キャップもなんか入れないんすか」
「あー……」
ポカポカした日差しにアホっぽい声が出た。ビーチバレーで遊ぶ市民を、何も考えないまま眺める。
キャップはゆるく瞬きをしてから、「入れるなら特殊刑事課だな」と言った。
「オデコとかっすか」
「なんでだよ馬鹿野郎。俺はどこにも描いてないから選び放題じゃい。背中とかにするわ」
「背中はダメです」
「なんでだ」
「俺がそこに入れるんで。お揃いになっちまう」
「お前もうバナナ背負ってるだろ」
「上から描きます」
「オシャレだな」
「でしょ」
つぼ浦の足が嬉しそうにパタパタ動いた。キラキラ砂が舞い上がっては、太陽に照らされ光の粒を反射した。足と一緒に肩も動いて、背中の影を微妙に変化させる。
この褐色の背中に、新しく五文字を追加したなら。キャップは目を細めて想像した。
キレバナナの少し下に、イカついはっきりした字体で特殊刑事課と刻んだら……。キレバナナが特殊刑事課のロゴマークに見えるな。悪魔のような赤い目で、ニヤリ意地悪く笑う黄色い奴。
目の前にいるな?
「やっぱりやめなさい」
「なんでっすか」
「特殊刑事課の印象が悪くなる。これ以上の悪名は不要だ」
「無名よりいいじゃないっすか」
「そろそろギャングに懸賞金かけられるぞ」
「すげえ。メッチャいいなそれ」
つぼ浦がキラキラ目で起き上がった。頬からパラパラ砂粒が落ちる。キャップは指の甲で輪郭をぬぐってやった。硬く尖った大人の感触がした。
そういえば、この可愛い部下はもう二十半ばなのか、と思う。ロスサントスに来た時点ではまだ幼さがあった気がする。いや、キャップの贔屓目かもしれない。つぼ浦に振り回される日常はカラフルで、青春のように愛おしいから。
頭から肩まで、キャップは丁寧に砂を払った。面倒見の良いお母さんのような手つきだった。つぼ浦はちょっと嫌そうに顔をしかめていたが、大人しく受け入れていた。
「じゃあどこ入れろって言うんですか。入れ墨」
「ふむ。胸でいいんじゃないか」
とす、と人差し指で真ん中をつついた。
「心臓の上に特殊刑事課って?」
「自己紹介の名札みたいだな」
「タトゥーだぜ。もっとすごい意味っすよ」
「ほう。それは」
「……キャップは絶対背中に入れてくださいね。嫌だぜ、マジで、本気で」
「なんだ。何を気にしているのかサッパリ分からない」
「……」
つぼ浦がぎゅう、と眉を寄せる。唇を尖らせて、キョロキョロ当たりを見渡してから、キャップの耳元に囁いた。
「心臓にタトゥーって、ロマンチックなやつだろ」
それだけ言ってつぼ浦はまたビーチに寝転がった。キャップに背を向けて、腕を枕に顔を隠す。ただ、耳の先がほんのりオレンジ色に染まっていた。
「ロマンチックか。そうか」
男二人、職務に心臓を捧げる。揃いのタトゥーを身にまとい、一生消えぬまま。
確かにロマンチックだなぁと思った。向こう見ずで、十年先も考えていない青春のような、一瞬の喜びが人生を照らすような。
「分かるぞつぼつぼ。ロマンチックだな」
「繰り返すモンじゃねえぜオッサン」
「誰がオッサンだ」
「ぎゃー!」
ワシャワシャつぼ浦の頭を撫でる。可愛い後輩の髪は若者らしくワックスでトゲトゲしていた。
ロマンチックで良いな、と同じくらい、コイツとお揃いはヤダな、と思った。
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