「芳乃って。あの『寺趙芳乃』(ジチョウ.ヨシノ)??」
「なんだ。知ってたの?」
・・ちッ、わざとらしい声出しやがって。
知っているもナニも。僕が“ボク”に憑いた時から知ってる。“寺趙芳乃”といえば、師匠の奥方、つまり。このメスガキの母親にあたる人間だ。師匠の苗字が“寺趙”だと知ったのも、寺趙芳乃の存在を知ったからだ。それに、もう『寺趙芳乃』という人間は、この世にはいないハズだ。師匠が、葬儀で献花する様子もみていた。それを殺す??
「ーーでも。寺趙芳乃って、お母さんだろ?」
「そう。あたしには、お母さんが“いた”の」
いた??分かってるのか?・・つまりーー。
「うん。もう、死んでるんだよね」
「ーーーッ⁉︎」
そうか。やっと、納得がいった。
間違いない。師匠の使役霊(シキガミ)のなかに、『寺趙芳乃』(ジチョウ.ヨシノ)の片割れがいて、そいつに師匠が操られている。だから、先に使役霊(シキガミ)化した『寺趙芳乃』を殺し。芳乃の呪縛を解くことで“陰陽師としての”師匠を殺す、という事だ。陰陽師というモノは、使役霊(シキガミ)との契約によって力を得ている場合が多い。故に、使役霊(シキガミ)との契約を強制的に切り離せば“呪縛”が解ける場合がある。たぶん、そのケースだ。
「・・そうか。でも、時趙芳乃(ジチョウ.ヨシノ)は封印できないと思うよ?」
「どうして??」
ーーいや。なんでわからねーんだよ。メスガキ。
「ずっと前から。時趙芳乃が取り憑いてたってことは、『柩』(ヒツギ)と『柩』(コフィン)を”ボクら”に教えた時にも師匠に取り憑いてたってことだろ??だから、有効な対策を練られてるかもしれない」
「ふうん。そーなんだ」
あまり興味の無さそうな口ぶりだが、なぜか、自信だけは持っていそうな顔が、ますます腹立たしい。僕が憑いていながら。メスガキ相手にこんな態度を取らせていることが、たまらなく腹立たしい。ボクさえヨシといえば、リョナってでもわからせてやるのにーー
「いいわけないだろ?なんだよ、“リョナる“って」
ーーダメか?ラクだぜ??その方が。
「“絶対”だめ」
ちぇ。つれねーな、ジョークなのによ。
「・・ブラックすぎ」