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3 - 朝の研究室(🐟×🦊)

♥

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2025年11月06日

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夜が明けきる少し前、研究室はまだ静まり返っていた。

試薬の匂いに混じって、冷めたコーヒーの香りが漂っている。

机のランプが淡く灯り、くられは書きかけのデータをぼんやりと見つめていた。


そばには昨夜のマグカップ。

ツナっちが淹れてくれたコーヒーだ。

もうすっかり冷めているのに、なぜかまだ温もりが残っている気がする。


時計の針が静かに朝を刻む。

白んでいく窓の向こう、街が少しずつ輪郭を取り戻していく。

徹夜明けのぼんやりとした意識の中で、くられはようやく肩を回した。


――そのとき、控えめなノックの音。

「おはようございます、くられ先生」

ドアの向こうからツナっちの声がした。


「おはよう。早いね」

「先生、もしかして帰ってないんですか」

くられは苦笑して肩をすくめた。

「気づいたら朝でね。もう少しまとめたくて」


ツナっちは少し呆れたようにため息をつき、手に持っていた紙袋を差し出す。

「コンビニのパンです。食べないと倒れますよ」

「心配性だなぁ。大丈夫だよ」

「昨日もそれ言ってましたけど」


朝の光がカーテンの隙間から差し込み、机の上の資料をやわらかく照らした。

夜の静けさを洗い流すように、部屋の空気が少しずつ温まっていく。


ツナっちは先生のマグカップを手に取り、新しくコーヒーを注ぐ。

香りがふわりと広がる。

「少し休んでください。マジで無理したら意味ないっすよ」

「うん……そうだね」

くられは頷いて、マグカップを両手で包んだ。


その指先を見て、ツナっちはほんの一瞬、昨夜の感触を思い出す。

触れたのは一瞬だけ。けれど、不思議と忘れられなかった。


「……あったかい…」

「淹れたてですから」

ツナっちは微笑んだ。

ほんの短い会話。だけど、心の奥に何かが静かに波打つ。


外では鳥の声がし始めていた。

研究室の壁が薄く朝に染まり、夜の名残がゆっくりと消えていく。


くられは目を細め、柔らかく笑う。

「こうして迎える朝も悪くないね」

「先生がちゃんと寝てれば、もっと良かったですけどね」

「手厳しいなぁ」


ツナっちは苦笑しながら、机の端に置かれた資料を整えた。

ちらりと先生を見やる。

疲れているはずなのに、穏やかな笑みを浮かべるその横顔を見て、胸の奥が少しだけざわついた。


――やっぱり、気づいてないんですね。


心の中でそう呟きながら、ツナっちは先生のそばにマグカップを戻す。

「じゃ、俺は向こうを確認してきます。ちゃんと休んでくださいね」

「うん。ありがとう」


扉の前でツナっちは振り返り、ふっと笑う。

朝の光がその輪郭を縁取り、静かな研究室を柔らかく染めた。


扉が閉まると、再び静けさが訪れる。

くられはマグカップを見つめながら、窓の向こうの空を見上げた。

夜と朝の境目に残る静かな余韻が、まだ部屋に漂っている。


ふと、指先に微かな熱を感じた気がした。

心臓がわずかに跳ねる。

何に反応しているのか、自分でもわからないまま、くられは小さく笑みをこぼした。


「……こんな朝も悪くないなぁ…」


窓辺に差す光が少し強くなる。

その中で、白い湯気がゆるやかに立ちのぼり、夜の名残を静かに包み込んでいった。

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