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俺がレドリック王国を出て早数日、ドーン島にある村。多くの風車が建っている、フーシャ村。主人公の故郷だ……いやぁ、来ちゃったな。こんな序盤で……。
上がる口角を手で押さえつつ、俺は錨を降ろして船を停泊させる。しばらくはここにいることにしよう。もう俺がいなくなったことは新聞になっちゃってるし。
鏡を見ながら前髪を下ろし、帽子を被る。これで変装完了だ。簡単なものだが、そもそも俺はあんまり公に顔が出てないしな。あの国で目立ってるのは両親とライアネルだし、俺は病弱で表には出られないってことになってるからな。まあその病弱な俺が失踪ってどういうことやねんて民衆は思うだろう。俺も民衆側だったら思う。
「さーてフーシャ村に来たはいいものの……何すっかな」
いくら精神年齢が成人済みとはいえ、今の俺は10歳。やれることは限られている。数日間ここでのんびり過ごしながらこの先をどうするか考えるとしよう。
船を降りて辺りを見渡す。とりあえずどこかでご飯が食べたいな。村の中を歩いていると何やら視線を感じる。ちらとそちらに目を向ければ、子供がこちらを見ていた。
「…………」
おいおいおい待ってくれ……。見間違いじゃないよな? 黒い髪に、ぱっちりした目……いやあ……待って? 早速主人公じゃん。
俺が見ていることに気づいたのか、少年はこっちに近づいてくる。え、え、え、ちょっまっ……心の準備がまだ……。
目の前まで来た黒髪の少年が驚いている俺を気にも留めずに、にっこりと笑いながらこう言った。
「おれ、ルフィ! おまえ、名前なんだ?」
もしかしたら人違いかなあとか思ったけどさ、そんなことないよね! 知ってたよ! 俺は!! だって漫画やアニメのまんまだもん! これで違った方が怖いわ!!!
「あーっと、俺の名前は………ジェイデンだ」
偽名か何かを使おうとも思ったのだが、別に姓を言わなければ大丈夫だろ。それに、どうせならちゃんと名前呼ばれたいしな。
ルフィはキラキラと目を輝かせながら「どこから来たんだ?」とか「なにしに来たんだ?」と聞いてくる。俺は生まれが生まれなので馬鹿正直に答えるわけにもいかず、あいまいに答えた。それでもルフィは嬉しそうにうんうん頷きながら聞いていた。
「ジェイデンは旅人なのか~! すげえな~!」
「あはは…ありがとう…? でもまだ海に出たばかりだから、残念ながら面白い話はないんだ」
「そうなのか……」
ちょっとばかりしょんもりとするルフィを見て、少しだけ罪悪感を覚える。ごめんな、マジで俺数日前に国出たばっかなのよ。昔話もおもんないしな……。心の中で謝っていると、ルフィが俺の手を掴んだ。
「る、ルフィ? どうした?」
「遊ぼうぜ! なっ! いいだろ? 案内してやるからさ!!」
「うぇあ……あ、ああ。そうだね、じゃあお願いしようかな」
「よし! 行くぞー!」
ぐいっと手を引かれて、俺は思わず笑ってしまった。
ルフィに連れられて村の中を歩き回る。崖を登って村全体を眺めたり、使われていない風車の中に入ってみたり。野原を追いかけっこしてみたり。ただ駆け回っているだけだが、トレーニングとは違ってとても楽しかった。
「は~……意外と楽しいな……」
「いがいとってなんだよ!」
「ははっ、ごめんごめん。言葉のあやってやつだ。ちゃんと楽しいよ」
俺はルフィの頭を撫でる。ルフィは気持ち良さそうな顔をしてからハッとした顔をして、子ども扱いすんな! と叫んでいた。
とはいえ精神年齢的にも、肉体年齢的にもルフィは年下なんでなあ……。子ども扱いしてしまうのもしゃあないというか……。
なんて心の中で言い訳のようなものを言っていると、ルフィの腹が派手にぐううぅぅ、と鳴った。
「あはは、随分大きく鳴ったな」
「腹減った……飯食べに行こう!」
「いいぞ」