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## 第38話:『ジャンク屋街の邂逅』
巨大なクレーターの底にへばりつくようにして形成された街、フォート・セバーン。四方を錆びついた鉄屑の山に囲まれたこの場所は、あらゆる戦場から流れてきた「鉄の死体」が安息を得る墓場であり、同時に不屈のジャンク屋たちが新たな命を紡ぎ出す揺り籠でもあった。
ゼストが港の一角に錨を下ろして間もなく、ゼロ・ドラートは単身、熱気に満ちた雑踏へと飛び出していた。背後には誰もいない。ミラは艦内でノアの様子を見守っており、カイルたちも機体の最終調整のために居残っていた。
「……へっ、埃っぽい街だな。だが、悪かねえ」
ゼロは口元を歪め、いつもの不敵で生意気な笑みを浮かべた。
このオイルと錆の混ざり合った独特の臭い。それは、ゼロがゼストの乗組員になる前、荒野でヴァルチャー(拾い屋)として這いつくばっていた頃の記憶を呼び覚ます。どこか冷ややかで居心地の悪かった軍の施設や戦艦のブリッジに比べれば、この雑多で、金と腕前だけが物を言うジャンク屋街の空気は、ゼロにとって驚くほど肌に馴染んだ。
現在の最優先事項は、戦闘で根元から吹き飛んだプロト・ウイングエックスの「右腕」だ。
艦長が提案した『ディバイダー』への大規模改修は、かつて天才技術者ガドルフが拠点にしていた工房で行う予定になっている。この街の設備では、旧大戦の遺産をベースにした複雑なハモニカ型の特殊装備をゼロから組み上げるのは不可能だからだ。
だが、そこへ行くためにも、まずは機体を自立させ、最低限の五体満足な状態に戻さなければならない。右腕の内部フレームと、それを駆動させるための高出力モーター、そして強固な装甲。それをこのフォート・セバーンで掻き集めるのが、元ヴァルチャーであるゼロに課せられた最初の任務だった。
「さてと……どこから手をつけるかね。普通のジャンク屋じゃ、ガンダムの骨格に耐えられるような大物は置いてねえ。狙い目は、旧地球連邦軍の規格品が眠ってる場所だ」
ゼロはポケットから、リンに手渡されたウイングエックスの右肩関節の駆動データが記されたメモを取り出した。
ガンダムタイプのモビルスーツは、一般的な量産機に比べて関節一つに課せられるトルクの要求値が桁違いに高い。普通の作業用重機や、そこらの型落ち量産機の腕をそのままくっつけたところで、ゼロ・システムが叩き出す超高速戦闘の負荷に耐えきれず、一瞬で捻じ切れてしまうのは火を見るより明らかだった。
ゼロは街の目抜き通りを外れ、さらに深く、ジャンクの山がそびえ立つ廃棄区画へと足を進めた。
「おい、そこのガキ! 用がないなら立ち入り禁止だ、怪我したくなきゃ失せな!」
巨大なクレーン車の上から、葉巻を咥えたガタイの良いジャンク屋の男が怒鳴りつけてくる。ゼロは歩みを止めず、懐からいくつかの金貨が入った袋を軽く放り投げて見せた。
「へっ、ケチくさいこと言うなよ、オヤジ。俺はちょっとした掘り出し物を探しに来ただけだ。旧連邦軍の、それも宇宙世紀か第7次宇宙戦争頃のヘビー・クラスの残骸が転がってる場所を教えてくれりゃ、その中身には手を付けねえよ」
男は空中で袋を受け取り、中身を確認すると、驚いたように目を見開いた。そして、ゼロの擦り切れたジャケットの袖口や、手に馴染んだ工具袋を見て、ニヤリと笑った。
「ほう……口の利き方は生意気だが、いい目をしてやがる。ただの観光客じゃなさそうだな。旧連邦のジャンクなら、この先の『第3廃棄谷』だ。先週、大戦時の防空拠点の跡地から掘り起こされた重装甲タイプのパーツがいくつか運び込まれたが……どれも錆びついてて誰も手をつけてねえよ」
「ありがとよ。錆び落としは俺の得意分野だ」
ゼロは短く応えると、指示された谷へと向かって駆け出した。
第3廃棄谷は、まるで巨大な鉄の迷路だった。
崩れ落ちた量産機の脚部や、歪んだ戦艦のハッチが山のように積み重なり、太陽の光を遮っている。普通の人間なら圧倒されるか、あるいは迷うだけの不気味な空間。だが、ゼロにとっては、こここそが宝の山だった。
「……あるじゃねえか」
ゼロは山を登り、這いつくばるようにして鉄屑の隙間を覗き込んだ。
目に入ったのは、赤茶けた錆に覆われた、骨太なモビルスーツの腕部フレームだった。装甲の大部分は剥ぎ取られているが、その剥き出しになったシリンダーの太さと、関節部の強固なトリプル・ナット構造。それは間違いなく、かつて旧地球連邦軍が拠点防衛用に開発していた重モビルスーツの遺物だった。
「これだ……! 内部の超伝導流体ケーブルは死んでるが、フレーム自体の強度はウイングエックスのトルクに耐えられる。あとは、これに適合する高出力のアクチュエーターと、表面を覆う装甲か……」
ゼロは工具袋からレンチを取り出すと、慣れた手つきで錆びついたボルトを叩き、固定を外し始めた。全身から汗が噴き出し、衣服がオイルで汚れていくのも構わず、ただ一心不乱に作業を続ける。
ガンダムを失い、戦場から遠ざけられたもどかしさは、確かにゼロの胸の内にあった。カイルやセレスたちが修理を終え、いつでも出撃できる状態で待機しているというのに、自分は動かすことすらできない「デクの坊」を見つめることしかできない。
だが、こうして自らの手でパーツを選び、機体を蘇らせるための道筋を立てていると、不思議と焦りは消えていった。
(見てろよ、ルカス……。ノアをあんな風にしやがって。ミラを泣かせようとしやがって……。俺が、あの白い機体をもう一度最高の姿に戻して、てめぇらの思い通りにはさせねえってことを証明してやる)
作業を開始してから数時間。
ゼロは、驚異的な執念とジャンク屋としての勘によって、必要な「右腕の骨格」を丸ごと掘り出すことに成功した。さらに別の山からは、規格が合いそうな旧連邦製中型量産機の、まだ歪んでいない頑丈なショルダー・アーマーの装甲板もいくつか見つけ出した。
これらをゼストに持ち帰り、リンの技術でウイングエックスの肩関節に適合させれば、完璧ではなくとも、ガドルフの工房まで移動するための臨時の右腕としては十分機能するはずだった。
「ふぅ……よし、腕のパーツはこれでなんとかなるな」
ゼロは大きな鉄屑の塊をワイヤーで縛り、簡易的なキャリアーに載せて一息ついた。額の汗を拭い、ふと、さらに奥の廃棄エリアへと視線を向けた。
その時、ゼロの鋭い勘が、何かの「気配」を捉えた。
それは、今集めたようなありふれた量産機の残骸とは明らかに違う、特異な形状をした金属の塊だった。崩れた鉄板の影から、僅かにのぞく歪んだパーツ。それは、何かの「ジェネレーター」の一部だろうか、あるいは……。
「……おいおい、嘘だろ。あそこにあるのって……」
ゼロはキャリアーをその場に置き、引き寄せられるようにその金属の塊へと近づいていった。
フォート・セバーン。ただのゴミ溜めだと思っていたこの街には、ゼロの想像を超える「何か」が、まだ奥深くに眠っているようだった。機体を単に元に戻すだけではない。ウイングエックスが、本当の意味で生まれ変わるための「鍵」が、この埃っぽい街に隠されているかもしれない。
ゼロの瞳に、不敵な、そして希望に満ちた強い輝きが戻りつつあった。
**次回予告**
ジャンクの山の奥底で、ゼロが目にした奇妙な残骸。
それは、旧大戦の歴史から抹消されたはずの、未知の駆動系のプロトタイプだった。
「これを使えば……リンの言ってた出力をクリアできるんじゃねえか?」
しかし、再誕への兆しを掴んだゼロの前に、静かに忍び寄る不穏な影。
ゼスト内でも、ノアを巡る小さな変化が始まりを告げる。
次回、『希望に潜む変化』
**「へっ、面白くなってきたじゃねえか。ゴミの中からダイヤを掘り出すのが、ヴァルチャーの仕事だろ!」**
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