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第16話「レクイエム:潜入」
影部隊「オルド」。
それは存在しない兵士たちで構成される、“国家の影”。
暗殺、処分、拷問、情報抹消。
この国の“汚れ”を引き受ける組織として、歴代の幹部ですら詳しい構造を知らされていなかった。
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黒瀬セツナの新たな任務は、
この“オルド”に潜入し、その核心を暴き、記録として残すこと。
「俺が名前を持てたのは、誰かが闇を引き受けてくれたからだ。
今度は、僕が——引き受ける番だ」
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監査局からの正式な承認のもと、
セツナは「監査名義の特殊要員」として部隊に合流する。
部隊は黒い服をまとい、顔を隠し、階級すら持たなかった。
そこに“名前”はない。ただ任務だけがあった。
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初日の作戦は“消去対象の処理”だった。
対象は、元軍の研究員。かつての人体実験計画の証人。
セツナは現地で、目の前の人物に銃を向けながら、自分の中で葛藤する。
「この人も……記録を持ってる。
殺せば、それがまた消える」
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だがその時、もう1人の影が背後から迫った。
セツナの代わりに引き金を引こうとしたその手を、彼は反射的に殴り飛ばす。
ざわめく部隊の空気の中、彼は静かに言った。
「ここに“記録を守る者”がいる。
この任務は、記録の破壊じゃなく、記録の改訂だ」
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この一件で、オルド内部に揺らぎが走った。
“名前を持つ兵士”が、“名前を持たない任務”に歯向かった。
指揮層に届いた報告には、こう記されていた。
【特別監査官・黒瀬セツナ。
潜入後、非戦闘行動を通じて任務妨害を試みる】
【処分対象・審査中】
⸻
一方その頃、
本部の幹部室にいたグルッペンは、その報告書を静かに破いた。
「“処分”じゃない。“問いかけ”だ。
国家に何が正しいか、名前を持った子供が問い直してる。
それを、守るのが大人の役目だろう」
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影の奥で、誰も気づかぬ場所で。
少年は、ひとつずつ“記録される存在”になろうとしていた。