テラーノベル
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左の胸の鼓動も
右の脳も愛してるも
全部、全部貴女の為に動いてた。
貴女に死ねと言われたら確実に私は死ぬ。
死ねるという絶対的な自信がある。
それくらい愛してた。
私と貴女のトーク画面を開くと私が一方的に送った愛してるが積まれている。
そのほとんどに既読はついていて、
未読となっているのは私が最後に送った愛してるだけ。
そのトーク画面を眺める度、私はよかったと安堵する
貴女が此の世に存在していなくて良かった。
そうじゃないと私は________
貴女の笑顔は多分、国として守らなくてはいけないくらいただ只管に美しかった。
ぱっちり二重がゆるりと細まり、長い睫毛は伏せ、ぷっくりと膨らむ涙袋に、ほんのりと染まる頬、そして薄く血色感のある唇は弧を描く。
1ミリでもズレたら貴女じゃない。
私はいつもそう唱えていた。
貴女が素敵だったのは顔だけじゃない。スタイルも髪の毛も優しい性格も。
海を静かに儚く舞うそんなイメージがこびりつくようなヒトだった。
それは全部貴女で、全部私のモノ
だから苦しかった
貴女が私以外の人と話すのが、笑い合うのが私はしんどかった。
貴女と彼奴がにこにこしながら話すことが私にはどうしても憎かった。
彼奴は知らない私にしか気付けない癖があるだとか、
私だけが知ってる貴女の耳にホクロがあるだとか、
貴女と彼奴が話しているときはそんな事を考えて心を鎮める。
嫉妬で渦巻くのは仕方がない。
こんなことを言ったら貴女はいつもごめんと言いながら微笑む。
美しい。
でも私にとっては重大なことだというのに、微笑むのはそれも貴女の優しさだと私は知ってる。
「私は誰よりも貴女のことを愛してるからね」
「知ってるよ」
私が愛を伝える度に貴女は知ってると返答する。
ねえ、貴女はどうなの?私のこと好き?私と一緒にいれて嬉しい?
そう訊ねようとする私はあまりにも醜い。愛されるから愛してるわけじゃないのに、隣にいれてるだけでこんなにも欲が出る。
貴女に気色悪いと言われそうで恐い。
だから聞けない。だからわからない。
夏の暑さが厳しくなって、照りつける陽が鬱陶しくなってきた頃貴女は私に「海へ行こう」と誘った。
2人きりのデート
最近は彼奴と距離が近いと思っていたからやっと私を必要としてくれたことが嬉しかった。
久しぶりに心が躍る。スキップしたいほどにうきうきとわくわくが止まらなかった。
でも目的地の海に着くと彼奴はいた。
なんで。どうして。やめて。
否定の言葉が幾つも浮かんだけれど貴女の要らない優しさが出てしまうから、舌で転がした後ぐっと飲み込んだ。
それは粉薬を飲むより後味がべたべたと張り付いた。
それから貴女は私に嬉しそうな笑顔を向けて、私に恋人だと紹介した。
私は一瞬にして
目の前が黒くなって、脳の中身は白くなった。
おめでとう
そう伝えるべきなのに言葉よりも涙が溢れてしまう。
苦しい。どうして私に言ってくれなかったのか。私の方が愛してるのに愛も無さそうな奴を好きになったのか。
沢山考えた。
考えを遮るように
「私、この事を一番に報告したかったんだあ」
ともっと嬉しそうに貴女は私に笑った。
いつぶりだろうか。私に満面の笑みを向けてくれたのは。
頭がすかすかになった。
幸せそうな貴女。苦しい私。
「だからね、もう私の事が一番じゃなくていいよ。
自分の好きな道を選んでよ。自分最優先でいいよ。」
違う
貴女を愛してたから、貴女しか要らなかったから。
呼吸が浅く、短くなっていく
憎しみと哀しみが祝福の思いを越えてゆく。
私は護身用にポケットに入れていたナイフを思い出す。
そして初めは彼奴の首を、次に貴女の腹を目掛けて突いた。
2人はだばだばを血を流しながら苦しんだ。
私は何も考えることができなかった。
そして私達の日常のように「大好きだよ、奈月」と呟いてほぼ動かなくなったであろう2つのソレを海に投げた。
これでいい
貴女は「自分を最優先に」と言ったはずだ。
私は自分の為に貴女を遠ざけた。賢明な判断だったと思う。
ただ涙が止まらないのは想定外だったけれど。
腹を押さえて何処かをふらふらと歩いた。
このまま遠くへ行ってしまおう。名も知らない海を歩こう。
「いつもありがとう」この言葉と声が耳から取れなくて邪魔をするけど足を止めずに進みたい。
私の為に。
私は翌日から夢を見た。長くて永い夢だった。
私の夢の中の貴女は、私に向かってずっと笑っていた。
2人で手を繋いで、いつものように私が愛を伝えると
「私も海愛のこと愛してるよ」
そう笑顔で私に行った。
嗚呼、私今幸せだ。誰よりも幸福を感じている。
私の想う美しい貴女でいてくれてよかった
そうじゃないと私は絶対嫌いになってたから。
コメント
11件
何回見ても無駄な言葉が1文字もなく表現の言葉を選ぶのが上手すぎ。 最初と最後の文をリンクさせたのは納得させられた!!海愛ちゃんから一方的に積まれた愛してるを否定することもなく、受け入れることもなく既読で終えたのは結構きた!!! それと海愛ちゃんが彼奴っていうと嫉妬以外にも憎悪とかそういう感情もありそうで少しゾッとした…!!
久しぶりにぐみちゃんの読んだ気がする!! ぐみちゃんの書く笑顔の描写がほんと好き︎💞 読んでたとき、貴方じゃなくて「貴女」だったから2度見して、そういうこと?!って1人にやけた(は 自分優先でいいって言われた時の海愛ちゃん辛かっただろうなぁ🥲 伝わらない愛が切なすぎる、!! もしかして最初の「そうじゃないと私は」の後の文が最後の文なのかな?!大好きです🤦🏻♀️
久しぶりに人の作品読んだけどそれがぐみのこの作品で良かったです満たされた。 「舌で転がした後〜」とか「粉薬を飲むより〜」のところ表現すごく好きだなーって思いながら読んでました。最初の未読の愛してるは奈月が海愛を殺.した後に送って最後に自分も飛び込んだのかなとか思った! 解説含めとっても好きな作品になった🪼 ぐみの作品全部好きですもし作品残してくれるなら読み続けます🍒ᡣ𐭩