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2人で電車に乗り込む。時間のせいもあってか割と混んでいた。
シートは満席で扉の左右にも人がいたため
2人でシートの前に吊り革に掴まり立って終点まで向かう。
道中も基本的にはゲームの話をした。
電車内なので声を抑えて話していたが
意外なことや驚いたことが話に出るとついボリュームが大きくなってしまい
前に座っていた人や背中からも視線を感じ、頭だけを軽く下げ
少し縮こまり2人顔を見合わせ「やっちゃったな」といった表情をした。
中学生のとき友達と授業中にゲームで通信していたのがバレて怒られた
あの陽が落ちかけて窓の外がオレンジ色に染まっていた放課後の職員室を少し思い出した。
終点のアナウンスが流れ周りの人も降りる準備をする人や
まだ準備はせずスマホをいじっている人、本を読んでる人もいる。
へぇ〜若い子が本読んでるなんて珍し。
本を読んでる人を見つけたとき失礼ながらそう思った。
電車内での若い子はブルーライトで顔を照らされている人だけかと思っていたが
少し陽に焼けたような紙の色、クリーム色のような色の紙を捲り
活字を目で追いながらも同時に
文字で書かれたストーリーを頭の中のスクリーンで映し出している人もいると思うと
きっと小説家さんたちも喜ぶだろうな。
なんて思ったりもした。
僕たちは立って2人で話しをしていただけなので
これといって降りる準備はする必要はない。
アナウンスが告げる。もうそろそろ終点に着くらしい。
乗客の人々が降りるドアのほうを向く。
次第に電車がスピードを落とし、ホームに入り、止まる。
ホームの転落防止用のドアがまず開き、次に電車のドアが開く。
ホームで待つこれからこの電車に乗るであろう人々が
降りてくる人々のために道を空ける。
水門から流れ出た水のように電車の中にいる人々が降りていく。
僕たち2人もその水の一部になったように
その流れに身を任せ、ホームへ降り、改札へ向かう。
「なんて店なん?これから行くとこ」
人々の喋り声、足音、改札の電子音などが
僕たちの声をかき消してしまうほど大きなBGMの中、話をする。
「「居酒屋行灯の道」ってとこ」
「へぇ〜。知らないな」
「嘘ぉ〜1年のとき来たじゃん。ちなみに毎年ここでやってるらしいよ?」
「あぁ。あぁ?そうだっけ?鹿島は去年も行ってるよな?」
「去年も行ったねぇ〜。怜ちゃん風邪引いてて来れなかったんだよね?」
「そうそう。あ、思い出したわ!
あのとき別に行けなかったほど辛かったわけじゃないんだけど
行ってもあれかと思って家でゲームしてたかな?それか寝てたか?」
「去年は先輩たちが大騒ぎしてオレら2年と新入生は全然楽しめなかったんよ」
改札が近づき2人それぞれの媒体の交通系電子マネーを用意し、改札を隣同士で通過する。
「だから今年は去年の分も楽しむんだぁ〜」
両手を天井に突き上げて少しニヤつき顔をした鹿島がそう言う。
「まぁ3年だからある程度どっしり構えられるしね」
「横柄は先輩はモテないぞぉ〜」
「別に横柄にするつもりはありません〜」
そんな会話を交わしていると人の流れが2手に別れる。
今まで通り真っ直ぐ進む人の流れと左手に折れてエスカレーターで下に降りる人の流れ。
鹿島が左に流されるのを見て僕もその背中について行く。
鹿島を前にエスカレーターに乗る。鹿島が左側の手すりに軽くもたれて僕と目を合わせる。
「何人くらい来んだろうね」
「どうなんだろうね」
「てかお店大丈夫なの?人数わからないで」
「貸し切りだから平気でしょ」
「えっ、貸し切りなの!?」
「毎年そうらしいよ?その店の店長さんがうちの大学出身なんだって。
で毎年1週間前に予約して貸し切りにしてサークルの飲みやってるらしいよ」
エスカレーターの終わりが近づき、動く階段から動かない地面に降り立つ。
車の音、バイクの音、人の歩く音、喋る声
そのどれもが先程乗っていたエスカレーターのときより
ボリュームを一気に上げたように大音量のBGMになって耳に入る。
「へぇ〜。すげぇな」
鹿島の背中について歩く。
「来年はオレらの誰かがやらないといけないんだよねぇ〜」
「めんどくさっ。今年でサークル辞めようかな」
「そう考える人多そう」
そう言いながら歩道の端に寄り立ち止まる。
鹿島は鞄を自分の前に持ってきて中からスマホを取り出し電源を入れる。
「7時6分かぁ〜どうする?」
「どうなんだろうね。ここから歩いてどれくらい?」
「10分〜…掛かるか掛からないかくらい」
「んん〜難しい時間だね」
2人で腕を組み悩む。側から見たらほぼ同じポーズをした2人が壁にもたれている。
僕ならきっとジッっと見てしまうであろう光景だ。
「まぁ、ゆっくり行こうか」
僕が口火を切った。
「そうだね。なんか気になる店あったら入ってもいいし」
そう言い、鹿島が歩き始め、その背中を追うように僕も歩き始めた。