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犬に噛まれてからの若井への違和感が半端ない毎日身体を求めてきては
「俺の事愛してる?」
って執拗に愛情確認をしてくる
最初は負傷しての情緒不安定なんだろうと思っていたがどうやらそんなんじゃない気がする
毎日毎日濃いセックスするなんてまず俺の身体がもたない
「そういえばさ」
りょうちゃんが言う
「最近の若井って元貴に凄い甘えてるよね」
あー、そうなんだよな
それも情緒不安定なんだと思っていた
「なんだか犬っぽいよね」
犬…犬か
犬に噛まれてから…ってのもどうも気にかかるんだよな
「元貴…?」
「いや、犬かもしんない」
全く根拠はないけどそんな気がしてきた
だからあの犬があの後何処の施設に行ったのかを調べ会いに行こうと思った
けど…もう既に犬はこの世にはいなかった
*
こっちの元貴は小柄で色白で黒髪という見た目はよく似ているが 目に力がありそれでいて色気がある
そして肉付きがいい
抱いたら…さぞ気持ちいいんだろうな
そういえばこの前散歩に行った時に首すじを舐めたら思いのほか感じてくれた
凄く感度がいいんだろう
元貴の残像を重ねて直ぐに抱いてやったがやっぱり違和感しかなかった
毎回行為が終わった後直ぐにやるせない気持ちでいっぱいになった
それは俺の知っている元貴ではなかったからだ
本当は俺の知っている元貴を抱いてみたかった
無邪気で可愛くて…俺だけを見ていてくれた元貴を抱きたかった
俺がヒトだったら間違いなく抱いていた
今思えばあんな奴に取られるなんて悔しくてしょうがない
元々の宿主の記憶は残ってある
だから普段の生活も苦じゃない
そして何故か不思議な事に若井って名前も一緒だなんて偶然を通り越してこれは奇跡じゃないのか?
これはもう俺の体でいいんじゃないのか
そうは思ったが
数日この体で過ごしてみてこの宿主はみんなに愛されているんだとわかった
相当いい奴なんだろう
だからこの体は早く返さなければいけない
宿主が嫌な奴だったら遠慮なく体を乗っ取ってやったというのに
性格も良ければ背も高くなかなかのイケメンで
そしてここの若井は元貴と愛し合っている
羨ましい…
これは俺の望んでいた世界じゃないか
ああ、俺がこの世界にいたかった
✳︎
「なあ…」
俺は元貴に話かける
この体を借りて何もしないまま数日が経った
ただ時が過ぎていくのは実に勿体なさすぎる
そろそろ俺の正体を1番近しい相手に話し協力してもらうべきだと感じ元貴に声をかけた
ただ問題は内容が複雑過ぎて理解してくれるかどうかだ
「何?」
元貴はまっすぐに俺を見る
俺は突き刺さるそのまっすぐな視線に迷いつつ思い切って言う
「俺…犬なんだ」
「え?」
直球過ぎたかもしれない
そりゃそうだろう
急にそんな事を言われたって直ぐに飲みこめないはずだ
「あの時の犬って事?」
意外にあっさりとわかってもらえて俺は面食らった
「あ、うん…そう」
なんて察しがいいんだろう
賢いのもあるがこっちの元貴は勘が良すぎる
もしかしたら薄々気付いていたのかもしれないが
「詳しく聞いていい?」
元貴は真剣な眼差しで俺に問う
きちんと話を聞いてくれるという姿勢に俺は感心した
俺はゆっくり話し出す
もう1人の元貴に飼われていた事、その元貴を信じてあげられなかった事、離れ離れになった事
全てに後悔しているという事全部だ
「俺の体はこの宿主の手を噛んで直ぐに保健所に連れて行かれ処分された…俺にはもう肉体がない」
「そっか…」
俺は頷くと言葉を続ける
「会って言葉を使ってちゃんと謝りたいんだ」
俺は俺なりに説明をしたつもりだったが元貴は理解してくれただろうか
不安が募る
「一つ…聞いていい?」
「なに?」
「宿主である若井は今何処にいる?」
「この体の意識の深い所にいる」
元貴はふう、と息をひとつ吐くと
「わかった、俺も協力する」
なんて話が早いんだ
元貴が味方になるなんて心強い
「解決したら若井は…解放してくれる?」
元貴は俺に問う
「ああ、必ず約束する」
乗っ取ってやろうとかっていうズルい気持ちはもうない
俺がきっぱりそう言い切ると 元貴はやっと表情を緩めた
「なら…いいんだ」
目を伏せて優しい表情を作った
✳︎
俺は犬の若井に協力を求められたもののどう動くべきか悩んでいた
住んでいた場所もわからない(近くに河川敷があるくらい)
東京近郊?なのかもどうやら怪しい
もう1人の俺の年齢もわからなければ苗字すらわからない
職場も何処かわからない
ただ…俺とそっくりってだけじゃなあ
あまりにも情報が少なすぎじゃない?
さすがに情報先が飼い犬だとこうなるのか
まいったな…
さすがの俺も頭を抱えた
*
今日は撮影だったらしい
元貴と涼架と俺はメイクをし服もキラキラした物に身を纏う
「おつかれー」
それが無事に終わりそこから雑談をしつつ出て行こうとした 時にふいに前を歩いていた元貴が足を止め表情を固めた
「元貴?」
その視線の先には俺の知っている元貴を無理矢理抱いていた あの甘い香りをつけていた社長っていう奴がいた
よく見るとちょっと違う感じがあるがアイツだ
絶対に忘れるわけがない
まさかこんなところで会うなんて…
俺はない毛を逆立てた
「先…行ってて」
元貴は視線をそのままにしたままで俺らに言う
俺と涼架は言われるがままにその場を去る
俺は隣にいる涼架に聞く
「…アイツって誰?」
涼架はすぐに困った顔を作る
「若井が知らないんなら僕が知っている訳ないよ…」
なんだ、聞いて損した
「…でも」
「でも?」
「凄く親しい感じじゃない? 」
俺らは振り返り元貴を見る
二人は何か話している様だった
20250224