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朝――
旅館の広いテラスで、ネグはゆっくりと目を細めた。
ミイとレオンも隣で太陽の光を浴びている。
「……んー、やっぱ朝の空気、好き。」
ミイが軽く腕を伸ばして背伸びをし、レオンはネグの頭をくしゃっと撫でた。
「もうすぐ帰るんだな。」
「そうだね……でも、最後まで楽しむよ。」
ネグはそう言って微笑むと、3人はそのまま朝風呂へ向かった。
温泉の湯気の中で、ぽつりぽつりと他愛のない話が続く。
「結局さ、あの時さー……」
「それ、もう10回くらい聞いたよ?」
ミイとレオンが笑い合いながら話しているのを、ネグはぼんやり聞きながら、湯に浸かっていた。
どこか懐かしい気持ち。心がふわりと軽くなる。
朝食を食べ終わって、そろそろ出発かな――という頃。
「……あれ?」
ネグがスマホを見て、眉をひそめた。
「なに?どうした?」
ミイが覗き込むと、そこには夢魔とすかーからのLINE。
開いてみると、撮った覚えのない、自分の寝顔やタオル姿の写真。
その横には「可愛かったから送っとく」みたいな短文が並んでいる。
「え!?ちょっと、これ……!」
顔を真っ赤にしてネグが振り返ると、
レオンとミイが顔をそらして笑っていた。
「……2人の仕業?」
「うん。」
「やめてよ……!」
恥ずかしさで耳まで真っ赤にしながら、ネグはすぐにその写真を削除した。
レオンとミイは笑いながら、そんなネグをからかい続ける。
「まぁ、いい思い出ってことで?」
「はぁ……」
ネグはため息を吐きながらも、どこか楽しそうだった。
昼――
旅館を出たあとの街中で、
またミイがこっそり写真を撮って、2人に送りつけた。
今度はナンパされているような構図。
ネグは少し困った顔をして手を振っている。
「またか……」
夢魔とすかーはそれを受け取って、即座に返信。
【おい、ほんまに大丈夫か?】
【調子乗んなよ……可愛いけど。】
その返信にネグは苦笑しながらスマホをポケットにしまった。
その後、3人はプールへ。
水着に着替える時、またもやレオンとミイが隠し撮りをして、
それを夢魔とすかーに送信。
「やめてよ、もう……!」
ネグが顔を真っ赤にしながら少し強めに言った。
「大丈夫、大丈夫!見た感じ、なんか……うん!」
レオンとミイは軽く流すように笑っていた。
そして――その後すぐ、夢魔とすかーから500文字近い長文が届いた。
【ネグ。
ほんまにさ……いくらなんでも油断しすぎやろ。
こっちは心配してんのに、あんな水着着て……
お前がどんな顔してても可愛いのはわかってるけど、
だからって見せびらかすようなことすんな。
俺らの隣に居る時だけでいいから、
そうやって無防備でいてくれたら、それで良いんや。
……帰ってきたら、ちゃんと話そう。
お前の声、ちゃんと聞きたいから。】
ネグはそれを途中まで読んで、
スマホを閉じた。
「……知らない。」
少し照れ隠しのように呟いて、
プールから上がり、服屋へ向かった。
服屋では、ふわりとした可愛い服をいくつか選び、
それを鏡の前で合わせる。
レオンとミイもそれぞれ選んで、
また笑い合った。
夜――
帰り道、3人は居酒屋に寄った。
「飲めよ!飲めよ!」
レオンとミイにそう言われ、ネグはしぶしぶグラスを手に取った。
「……あんまり、飲めないけど。」
「たまにはいいだろ。」
最初はほんの少しずつだった。
けれど、だんだんと酔いが回って――
「ふふ、ふふふ……」
ネグは目をとろんとさせて、カウンターに顔を伏せた。
「だ、大丈夫か?」
レオンはそんなネグの写真をまた夢魔とすかーに送りつけた。
すぐさま、また500文字くらいの長文が返ってきた。
【お前さ……
もう、好き放題やな。
誰のものかわかってんのか?
そうやって気を抜いた顔、俺らだけに見せとけ。
っていうか、そろそろ本気で怒るぞ?
帰ってきたらちゃんと隣に居てもらうからな。
わかった?】
ネグはその通知を見ても読まず、
適当にスタンプを返してまたグラスを持った。
その後、気持ち悪くなって吐いてしまい――
「大丈夫か?」
「……うん。」
少しすっきりした顔で戻ってきたネグに、
またレオンとミイが酒を勧めた。
そして――
家に着いた頃には、ネグはもう眠気でふらふら。
「じゃ、帰……わっ、え!?」
レオンとミイは驚いた。
ネグに手を引かれ、そのまま寝室に連れて行かれたからだ。
鍵をかける音がして、
ネグはそのままベッドに倒れ込んだ。
レオンとミイは強く当たらず、
そのままソファで並んで座った。
「……あいつ。」
「ほんま、自由すぎ。」
静かに笑い合いながら、
やがて3人とも、静かな眠りへと落ちていった。
一方――
夢魔とすかー。
「……もう、心配しすぎてアホらしなってきたわ。」
「……けど、ほんと……あいつ、今楽しそうだったな。」
2人ともスマホを見つめたまま、
今夜はそっと、静かにネグの名前を呼んだ。
そして――
やがて2人も眠りに落ちた。
昼過ぎ、微かな光がカーテンの隙間から差し込む中、佐藤はゆっくりと目を覚ました。ふわりと欠伸をしながら、耳を澄ます。すると、廊下の向こうから、夢魔とすかーの話し声がかすかに聞こえてきた。
「……なあ、最近どうや?あいつ、思ってたより強いんやな。心配しすぎて、正直疲れたわ。」
すかーの少し関西弁混じりの声に、夢魔は静かに答える。
「俺もだ。けど、守りたいと思う気持ちは強まった。あいつがまた笑う日まで、俺らがいるしかないんだ。」
「そやな……何かあったらすぐに飛んで行けるように、ずっと傍におるわ。」
そんな会話をぼんやりと聞きながら、佐藤は寝ている二人のところへゆっくり歩み寄る。
「起きて。そろそろ昼だし、朝ごはんの支度しよう。」
二人はまだ目をこすりながら、ふわりと起き上がった。
佐藤は静かに台所に立ち、三人分の朝食を準備する。だが、もちろん自分の分は作らなかった。水だけをそっと手に取って飲む。
食卓にはトーストとスープ、フルーツが並び、夢魔とすかーは感謝の目を向ける。
食事の後、二人を駅まで送ることになった。
「送ってくよ。」
佐藤の声は柔らかく、二人はほっとした表情で頷く。
車の中、穏やかな時間が流れ、佐藤は運転席で静かに微笑む。
送迎を終え、家に帰ると、疲れがどっと押し寄せた。
ふわぁ……と大きな欠伸をし、寝室に戻る。ドアに鍵をかけ、家具を前に置いて完全に遮光した。
スマホを手に取り、レオンとミイに短くメッセージを送る。
「1年2ヶ月後に遊ぼう。」
その後、二人には「おやすみ!」のスタンプを送り、ゆっくりと深い眠りへと入った。
⸻
その1年2ヶ月の間、夢魔とすかーは彼女の生活を細やかに支え続けた。毎日の食事を用意し、睡眠の管理も怠らない。寝室の前に座り、静かに時間を共に過ごした。
会話は続く。
「そろそろ、外の空気に触れさせたいな。」
「焦らず、彼女のペースで。けど、俺も早くまたあの声が聞きたい。」
その期間は前の4ヶ月よりも長く、より濃密な時間だった。傷ついた心をそっと癒しながら、二人は彼女の回復を待ち望んでいた。