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三
朝目が覚めると、隣に変な感触と息遣いがあった。
「――――!」
柔らかく弾力がある、あまり触ったことの無い心地に驚いて、一気に身体を起こした。その拍子に、髪のようなものがはらりと手に掛かり、僕の手の甲を擽る。
「――――んっ」
同時に隣から喘ぐ声が聞こえる。
「――――!」
僕はさらに驚く。
ぼやっとした視界で必死に原因を見ると、それは女性。
白銀の髪を持ち、絹のような滑らかな肌をした同い年くらいの少女だ。
「……………………………………………………………………」
僕は結構突発的な状況に強い方だ。だからこそ、奇声や叫声をあげず、ひたすらに固まる。
固まった理由はもう一つ、彼女の容姿に見覚えがあったからだ。髪色こそ変貌しているものの、その顔を見間違える筈が無い。幼馴染みで仲の良かった人。でも事故で亡くしてしまった、一生の宝物。
「…………さ、え………………?」
「うん。帰ってきたよ、凛九君」
目を擦る彼女を見て、直後がばっ!と。
葛藤も思考も感動も、リアクションさえ必要ないかもしれない。ただ僕は彼女を固く固く抱き締めた。
涙で濡れる視界も、もはや意味を成さない。僕には、九冴という人物がそこにいるだけで十分だった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「………………えっ、と。冴、だよね?」
散々泣きじゃくった後、大分呼吸も落ち着いてきて現実を見る余裕が出てきた。
念のための確認というかなんというか、一応冴かどうかの問いかけをする。すると彼女は顔を綻ばせ、「もちろん。貴方の彼女で、将来を誓い合った綺麗なお嫁さんだよ?」と言った。
もはや僕には何故生き返ったのとか、その髪はどうしたのとか、聞く気が起きなかった。今ここで、僕の目の前に彼女が存在していることが何よりの証拠だろう。
この眼が捉えていることが真実なのだ。
――――少し特徴的な言い回しをするところも変わっていなく、そういう一つ一つの事柄を認識するだけでまた涙が溢れそうになる。
「でも、さっき凛九君が私の胸を揉んだことは許してないからね?」
「あっっ、ご、ごめん。それは。隣に人がいるとは思わなかったし」
「まあそれもそっか。それに、あんなこと言ったけどそうしたかったら全然していいからね?」
そう言葉にして悪戯っぽく笑う冴。その実押しに弱かったりするのだが、今はいいだろう。
「そんなことしないよ。って言ったらヘタレって思われるかな…………」
「私はいつまで待ったらいいのかな~?とは思うけどね。大事にしてくれてるのがわかるからどこまでもいつまでも待つよ」
そう言ってニッと笑う冴は、前とまったく変わっておらずまた僕の涙腺を緩めるのだった――――。
――――――――――――――――――
「で、」
その一声で仕切り直す。僕は一旦親に顔を見せて洗面所ですっきりしてから戻ったところだった。
「気になってたけど聞かなかったんだ。つついちゃ駄目かなって思って。でもやっぱり気になるからさ、色々教えて欲しいな」
真剣な面持ちで――――自分で言うのもなんだけど――――問う。
「うん。わかった。じゃあさ、飲み物お願いできる?すごく、すごく長いから、ね」
冴は表情を翳らせそう言い話を切り出した――――――――――――――――――――――――――――――。
・
暗く澱んだ淵にて。
「…………運命が、動いた」
ぽつり、と。少女が呟く。
「本当かい?怜」
対して青年は聞き返した。
「……うん。終幕宣言者が生まれた」
白銀の髪を弄りながら、言葉少なにそう言う。
「使命を、果たしてくれる。彼は絶対に」
小さな体を奮わせ断言した。
「そっか。なら唾でもつけとかないとね。そろそろ、動く時かー」
ゆっくりと青年は口にする。
――――そして、光が指す方へと歩き出していった――――――――――――――――――――。