テラーノベル
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「沈黙の楽団」と呼ばれていた獣人たちの叫びが、地響きとなって関所に叩きつけられる。
兵士たちの怒号も、放たれる矢の音も、今の三人の耳には届かない。
「涼ちゃん、敵の包囲網を右に逸らして! 若井、そのまま門の正門まで突っ切って!」
元貴が指揮を執る。スカーフを巻くのをやめた彼の黒い猫耳は、風の動きと精霊の声を完璧に捉えていた。
「了解! ……風よ、僕たちの道を空けて!」
涼ちゃんがフルートを高く掲げ、片耳で捉えた「風の隙間」を突いて巨大な竜巻を起こす。兵士たちが木の葉のように舞い上がる。
「おう! 元貴、俺の背中から離れるなよ!」
若井が隻腕で剣を閃かせ、リュートの爆音を衝撃波に変えて道を作る。
三人はついに、巨大な石の門の前に辿り着いた。
しかし、そこにはあの大男・仮面の男が再び立ち塞がっていた。
「……愚かな。獣人の塵共を集めたところで、この『天の門』は開かぬ。
これは人間が神から授かった、拒絶の壁なのだ」
男が再び銀の鈴を取り出そうとした、その時。
元貴の胸元で、バドから貰った『黒い羽』が、黒い太陽のように激しく燃え上がった。
「……う、あ……っ!」
元貴の琥珀色の瞳が、かつてないほど強い光を放つ。
同時に、彼の指先が、足先が、少しずつ淡い光の粒子となって透け始めていた。
「元貴!? 体が……!!」
若井が叫ぶ。元貴は苦しげに胸を押さえながらも、門を見据えて笑った。
「……大丈夫。……わかったんだ、この門の開け方が。
……これは、拒絶の壁じゃない。……三人の『心』が一つになった時だけ開く、鏡なんだよ」
元貴は、二人の手をそっと握った。
若井の不自由な右腕。涼ちゃんの聞こえない左耳。そして、記憶を失った元貴の心。
欠けているからこそ、お互いを補い合い、支え合ってきた三人の魂が、一つの旋律として重なる。
「——……♪」
元貴が歌い出す。それは言葉のない、宇宙の始まりのような根源的な音。
若井と涼ちゃんも、命を削るようにして音を重ねる。
三人の音が重なった瞬間、黒い羽から放たれた光が門を貫いた。
ゴォォォォン……!!
何百年も閉ざされていた「嘆きの関所」が、悲鳴のような音を立ててゆっくりと開き始めた。
その向こう側から溢れ出してきたのは、見たこともないような黄金の草原と、穢れのない澄んだ空気。
仮面の男は、その光に飲み込まれ、
「ありえない……」と呟きながら崩れ落ちた。
「開いた……! 若井、涼ちゃん、開いたよ!!」
元貴が歓喜の声を上げる。
その瞬間、ノートに十個目の音符が刻まれた。
『調和(ハーモニー)』。
これで、伝説の楽譜のちょうど半分が埋まった。
だが、門を突破した直後、元貴はその場に糸が切れたように倒れ込んでしまう。
「元貴!!」
若井が抱きかかえると、元貴の黒い猫耳は冷たくなり、先ほどよりも白く透けている部分が広がっていた。
「………。……ねえ、若井。……僕、ちゃんと歌えてた……?」
「最高だったよ。……世界中の誰よりも、お前が一番かっこよかった」
若井は元貴を強く抱きしめ、草原の先に見える「エデンの塔」を見つめた。
門を開けた代償として、元貴の命のカウントダウンは加速している。
残りの音符はあと十個。
三人の旅は、ここから「命を懸けた最終章」へと突入していく。
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