テラーノベル
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ランドセルの会計を終えると、私たちはレストランフロアへ移動した。
そこでご飯を食べていると、不意に母が口を開いた。
「ねえ、愛音。花斗くんが小学生になったら、机とかどうするの? お部屋はどうしているのかしら?」
言われて、気付く。
子供部屋、つくったほうがいいのかな、と。
今は、旧花斗と私の部屋に、壱月のベッドを運んで並べ、三人で川の字に寝ている。
隣は壱月の書斎になっているし、私の仕事はリビングで事足りている。
欧米では赤ちゃんの頃から、子ども部屋でひとりで寝かせるというけれど、私は姉の家に居候していたから、いつも花斗と一緒だ。
「壱月と相談してみるね」
そう言うと、母も父も頷いてくれる。
「またなにかあれば……ううん、なにもなくても、相談しなさいね」
父と母は、優しい顔をしていた。
*
その晩、帰宅した壱月に、ランドセル購入の報告とともにさっそく子ども部屋について相談した。
壱月はダイニングに座り、キッチンで食事の準備をする私の話を聞いてくれる。
花斗はピアノの練習中だ。時折、不協和音が部屋に響いている。
私が話を終えたところで、壱月が口を開いた。
「子供部屋、か。そうだよな」
疲れているはずなのに、真摯に向き合い相談にのってくれる壱月のことを、本当に愛しいと思う。
「もし壱月がいいなら、今の寝室を花斗の部屋にしちゃって、壱月の書斎で私も寝られたらって思ったんだけど」
ダイニングに夕飯を並べつつそう言うと、突然壱月が目をまたたかせた。
それから、こちらに微笑む。
「いいな、それ」
「え、いいの?」
思わず聞き返してしまった。
壱月の書斎には、壱月の仕事道具もたくさんある。マニュアル、航路図、その他にもいろいろなものがあると、知っている。
だが、壱月は渋るどころか、名案だと言わんばかりに続ける。
「愛音と部屋を一緒にしたら、今よりもっと愛音と触れ合う時間ができるだろう?」
「あのねえ……」
私は照れをごまかすために、呆れのため息をこぼした。
壱月とくっつけるなら、私も嬉しい。けれど、本題はそういうことじゃない。
呆れかえる私の顔を見て、壱月はケラケラ笑った。
「まあ、それは冗談として。でもいずれ必要になるよな、部屋。俺だって、高校生になった時にまで親と一緒の部屋で寝ろと言われたら、さすがに勘弁してほしいと思う」
壱月がそこまで言ったとき、突然「ド」「レ」「ミ」が弾けたように聞こえてくる。私たちは思わず、ふふっと笑い合った。
「まあ、将来的には引っ越すかもしれないけれど。今は、愛音の案でいいと思う」
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壱月は続けてさらりと言ったが、私の胸に疑問が残る。
「引っ越し?」
すると、壱月は「ああ」と答え、続けた。
「いつまでもここに住む、というわけにもいかないだろうと思うんだ。花斗も小学生になるし、もうだいぶ手もかからなくなってきただろう?」
でも私は、花斗が小学生になることが、なぜ引っ越しにつながるのかわからない。
首を傾げつつ、壱月に聞く。
「でも、ここって賃貸じゃないよね?」
「それは問題じゃない」
それでやっぱり、うーんと首をかしげた。
ムズカシイことは元貧乏な私にはよくわからない。
壱月を見ると、なぜか頬をほんのり赤く染めていた。だけど同時に、頭を抱えるようにおでこを支えている。
そこに、練習を終えた花斗が走ってきて、ぴょんっと壱月の膝に飛び乗った。
「なあ花斗、自分の部屋、欲しいか?」
「うん、ほしい!」
花斗はニコニコしながら、即答する。
「ぼく、ひとりでもねれるよ!」
どうやら、私たちの会話を聞いていたらしい。
それで、私は少し意地悪く、花斗の顔を覗き込んでみる。
「本当に~?」
「ほんとうだよ。ぜったい、ひとりでねられる。だって、しょうがくせいだもん!」
そんな花斗に、私は来年だけどね、と胸の中で呟く。
それと同時に、花斗の『できる』の芽は大切に育てたいと思った。
そしてどうやら、それは壱月も同じらしい。
「それじゃあ、次の休みにやっておく」
「え!?」
驚きの声を上げたが、壱月はぐーっと親指を立てて見せる。
花斗も真似をして、こちらに親指を立てた。
コメント
1件
めっちゃあったかいエピソードだった〜😭💕 花斗くんが「しょうがくせいだもん!」って胸張って言うとこ、尊すぎて倒れるかと思った…! 壱月さんとの子ども部屋トークも、照れ隠しで冗談言い合う感じがリアルで、家族の距離感がじんわり伝わってきたよ。花斗くんの成長と、それを見守る2人の優しさにこっちまで温かくなった⋆♡ 続きが気になる〜!