恋をしている時は、全てが鮮やかで、色んな絵の具をぺたぺたと塗っていったみたいな気分だった。
電車で物静かに本を広げて、その紙に広がった文字を少しずつなぞる横顔が、言葉では、紡げない程綺麗で、素敵で。
(あぁ、これが、恋なんだな。)
そう思った。気づけば彼を目で追って。制服がうちの学校のものではないから、きっと他校の男の子。いつも私が乗る前にいて、私の一駅前で降りる。本はだいたい2週間と少しで読み終わる。彼が持っている表紙のタイトルを探しては、苦手な活字に目を向けた。彼といつか話せた時に、
「ここが良かった」「あそこも好きだな」
なんて、話せるように。
帰りは私が部活だから、彼を見かけない。
でも、今日は部活が久々に無くて、彼と同じ電車に乗れた___
「ん…、?」
外はもう傾いた日がお別れを告げそうな時間。
最近大会前で疲れていたからか寝過ごしてしまったらしい。慌てて母親に遅くなる旨をチャットで伝え、今はどこかと辺りを見回す。
「!」
彼も、乗っていた。相変わらず本に集中して、文字を追う彼が。電車はあと二駅で、終点だ。
彼は終点の一つ前で降りるんだ、
なんて新しいことを知れて浮かれていた時、ゆっくり電車のスピードが落ちていって、駅名を言いながら停車する。
プシュー、と音を立てて空いた扉の向こうには、自分より何倍もかわいい女の子。それを見た彼は滅多に見せない笑顔を彼女に向ける。扉が閉まる直前に、恋人繋ぎをしているふたりが見えた。
心の中で、どこか納得している自分と、泣き叫んでしまいたい自分がいた。勝手に好きになって、勝手に失恋して。
いろんな色の絵の具を絞って、混ぜていけば、やがて黒くなっていく。
多分、私は一生これを抱えて生きていく。この気持ちを、忘れられないまま、生きていく。
貴方を、嫌いになんてなれないまま。
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