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「……なんか光ってるんですけど」
「おぉぅ」(明るくなったなぁ)
ミューゼ達から見れば、遠くのノシュワールがいきなり淡く発光した状態。とても見やすくなったようだ。
「ロンデル? 何があったの?」
『遠見の魔法だけでは把握しきれなかったので、近くにいた者に確認します』
ロンデルはたまたま近くに飛んでいたハウドラント人のシーカーを呼び寄せ、ドルナ・ノシュワールが食べた場所の近くにいる者に何があったかを聞くように命じた。
その間、光っているドルナ・ノシュワールはというと、発光した自分自身の体に驚いて、硬直している。
同じく体の表面に立つシーカー達も驚いて止まっていたが、大地が止まっている今がチャンスと、1人が動き出したのをきっかけに、全員がヒゲに向かって行った。
しばらくすると、ロンデルの元に食べられた箇所の間近にいたシーカーが運ばれてきた。なぜか『雲塊』に埋め込まれて。
「なんか気持ち悪い事ブツブツ言ってたんで、一緒に乗せるのはちょっと……」
「はぁ、何でもいいですけどね。で、一体何を食べたのかご存知ですか?」
「はい。この憎きノシュワールは、あろうことか天使であらせられるアリエッタちゃんが作った神々しい光る物体を、地面ごと食べやがったんです。おのれ思い出すたびに腹立だしい! 今ここから掘り返してやろうかこの全然小さくない小動物めが! あれが手に入っていれば今頃は私がアリエッタちゃんに──」
「ネフテリア様。どうやらアリエッタさんが作った光る物が食べられたようです」
ロンデルは、なおも喋り続けるシーカーを無視し、子機に向かって報告をし始めた。
『ええ聞こえていたわ。だったら多分だけど、その件に関しては光るだけだと思う。もし他に何かおかしな事が起こったら、別件が原因でしょうね』
ネフテリアはアリエッタのペーパークラフトを近くで見ていたので、ただ光るだけの浮遊物だという事は分かっていた。
流石に食べて取り込むというのは想定外だったが、神の力に常識的な考えは通じないと結論付け、見たままの行動と見たままの結果を結び付けたに過ぎない。
「了解。では我々もヒゲを落としに向かいます」
『頑張ってー』
これ以上は何も無いだろうと思い、ロンデルも頭の方へと向かう事にした。
なお、ブツブツとノシュワールに恨み言を呟いているシーカーは、放置されたまま今もブツブツと呟いている。
「ほら行きますよ! 喋ってないで仕返しにヒゲを落としてください」
「あのプニプニほっぺが…おのれノシュワー…はっ! わっかりました! こうなったら全部落としてやるうううおおおああああ!!」
恨みは十分。ロンデルに声をかけられ、一直線にお腹から顔の方へと駆けだしていった。
少し茫然としていたロンデル達だったが、不気味な程のやる気に漲っているからまあ良いかと、残った全員で追いかけていくのだった。
「おらぁっ!」
一方で、空中部隊は既に顔の近くまでたどり着いており、ヒゲへの攻撃を開始していた。
ゴゥン!
「どうだ!?」
至近距離からの魔法攻撃が黒く大きな物に命中。しかし、表面をわずかに削っただけに終わった。
「なんだこりゃ…でけぇ上にかてぇ……」
「次は僕だ! いけっ」
カカカカカッ
魔法で削った場所に、ハウドラント人シーカーによる雲の針攻撃が連続で突き刺さる。
「硬いっ!」
針は表面に浅く刺さっただけで、いまいち手ごたえが無い。
その様子を見た空中のシーカー達は、一瞬考え……
『うおおおおお!!』
全員で突撃した。
そして地上の表面からも、叫びながら急接近する者もいる。
「うああああああ!!」
アリエッタのペーパークラフトを手にする事が出来ず、復讐の念を燃やしているアイゼレイル人の女シーカーである。その名はミケミケ!
丸い尻尾を揺らす間も無く全力疾走しながら、腕の周りに糸を浮かせている。離れて見ている者からは、巨大な腕かと錯覚する程の量で。
「あいつ何かする気だ! 気をつけろ!」
その気迫に危険を感じたシーカーが警告。空中の全員がその場から一斉に離れた。
そしてミケミケが1本の太い糸を伸ばし、離れたハウドラント人の雲に巻き付け、飛び上がった。
「ってちょっと待てええええ!! 僕を巻き込むなああああ!!」
いきなり巻き付かれたシーカーは大慌てである。細身のアイゼレイル人が1人ぶら下がっただけなので、雲が揺れる事は無いが、妙な気迫のままで巻き付かれてしまっては、何をされるか分かったものではない。
しかしそんな心配を他所に、ミケミケは走っていた勢いに加え、糸で勢いよく自分自身を引いて飛んでいった。そしてそのまま巨大なヒゲへと接近する。
「父の仇ぃ! 覚悟おおおおお!!」
ちなみにミケミケの父は、アイゼレイルで平和に暮らしている一般人である。生きているし不幸な目にも合っていない。
ノリと勢いだけで叫んだミケミケは、鉄並みに硬化した糸を捻じれた槍状にまとめ上げ、回転させながら自分ごと突っ込んだ。
「おおおおおおっ!」
ギュリイイイイイ!!
ヒゲと糸の接触部分から火花を散らし、ほんの少しずつだが、ヒゲの中にめり込んでいるように見える。
それを見た周囲のシーカー達が頷きあい、同じようにヒゲの上に立ち、雲や槍などの各々の武器を使い、ヒゲを削りはじめた。
「ちくしょう! このヒゲ何で出来てやがんだ!」
火花を発生させる程の硬さ。多人数が近くに立てる程の太さ。そして、
ガキンッ
「っつあぁ~……」
武器を叩きつけると鳴り響く、明らかな金属音。
「なんだこれ、鉄か何かか?」
ヒゲは黒く大きく、そして硬い。
あれやこれやとシーカー達が切断方法を考えていると、突然ヒゲが大きく震え、シーカー達を弾き飛ばした。
『うおおおおっ!?』
『ぎゃあああ!! 動くなあああああ!!』
ヒゲから投げ出され、空中で体勢を整えるシーカー達。
再度ヒゲに接近しようとする他のシーカー達だったが、これまで大人しかったドルナ・ノシュワールが毛づくろいを始めていた。先程振り落とされたのも、前足で顔を擦ったが為に起こった事である。
顔を擦り、前足を舐め、胴体を撫で、丸まって尻尾を整える。ドルナ・ノシュワールの表面では、ロンデル達地上部隊が悲鳴を上げながら逃げ回っていた。動きが激しいので、もちろん空中部隊も近づけない。
その中で唯一、ミケミケだけがヒゲに張り付いたまま、回転する糸でガリガリと削り続けている。
「こっのぉっ……」
攻撃を行いながらも、糸を紐状にしてヒゲにくくりつけ、体をその場に固定していたのだ。
その様子を、ロンデルは逃げながら見守っていた。
「見て見て! 光ったまま毛づくろいしてるー!」
(か、かわいい……やっぱりリスっぽい)
表面ではシーカー達が必死に動き回っているというのに、遠くからドルナ・ノシュワールの動きを見ているアリエッタ達は、とても呑気に過ごしている。
一応ロンデルの実況を聞いているネフテリアとピアーニャは、困った顔で内心焦ってはいるが。
「ヒゲを削るのに火花が散るって……」
「それホントウにヒゲか?」
シーカー達の為に出来る事といえば、コールフォンから流れてくる情報と、これまでのドルナの情報を元に、対策を練る事だけ。
しかし今までシーカー達が見た中でも、『同化』したドルナはスラッタルのみ。ひたすら巨大なドルナの対策を練るには、前例が無さすぎる。
それでも何か方法が無いか、体を動かさない以上は頭を動かさないと、実際戦闘中のロンデルと通信しているので、気持ち的にサボっている様で落ち着かないのだ。
「スラッタルの時は、スラッタルの全身が木だったから」
「うむ、ホンライのニクタイではなかったな」
「じゃあノシュワールは星と同化したから、全身が星……」
「アリエッタのひかるカミとも、ドウカしたとかんがえたほうがイイな」
「つまり、光る星」
だからどうしたと、ネフテリアは内心自分にツッコんだ。しかし、その直後にハッと顔を上げる。そしてコールフォンの向こう側にいるロンデルに向かって質問を投げた。
「ノシュワールの体は土で出来てる?」
『はい。毛は草木ですね。腹部分と前足しか見ていないので、それ以外の部分は分かりませんが』
「近くに石とかはある?」
『そういえば爪とおぼしき箇所が岩でした。あとは所々に小石が落ちてます』
「うん、分かった。ありがと」
ロンデルから聞きたい事を聞けたネフテリアは、情報を整理し始めた。
なお、尻尾には長い毛の代わりに長い草木が生え、背中には川も流れている。星としての機能はそのままである。
「なにかわかったのか?」
「うん。多分だけど、ほとんどの毛は草木だけど、ヒゲみたいに普段から太くて目立つのは、別の成分で出来ちゃってるんじゃないかなーと思ってね」
「なるほどな、ノシュワールがドウカしようが、ホシはホシということか……まさか」
そこまで考え、ピアーニャもネフテリアと同じ考えに至っていた。
「うん、そこだけ鉱石で出来ちゃったんじゃないかなぁ……」
『……よりによって、ですか』
星を形成する鉱物。鉄をはじめ、様々な硬い物質が、星の中には含まれている。
エテナ=ネプトの事は、あまりに世界が広すぎる為、まだまだ分からない事が多い。
それでもある程度リージョンシーカーによって解明されている。星がどういう物で出来ているかなど、表面的な部分については調べられているのだ。
「クリエルテス人のシーカーは?」
『丁度いませんね。応援でも呼びますか』
「ええ、誰か使って連れてくるといいわ。アリエッタちゃんは楽しんでて…じゃなくて、ロンデルとこうやって話す為に必要だから、このままここで護るけど」
クリエルテス人は、鉱物を食料とする人種。今は特に欲しい人材である。
アリエッタとコールフォンを理由に留まる事を選んだネフテリアは、実は高みの見物を楽しんでいた。その様子を、ピアーニャはジト目で見つめていた。
ロンデルが応援の指示を出すのを聞きながら、まったりとドルナ・ノシュワールを眺め、しばらく経ったその時、
『どうした!?』
「ん?」
急に慌ただしくなったロンデル達。少し待つと、ネフテリアにも状況が説明された。
『ヒゲが1本、切り離されました!』
「おっ、やったじゃーん」