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「先生ーっ!」
遠くから明るい声が響いた。
幼い子どもと、その手を引く母親が近づいてくる。
「あ……!」
凪の目が見開かれた。
「この前の……脱水の……!」
「元気になったんだな」
将臣がすぐに目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「先生!」
子どもが嬉しそうに破顔する。
「水、ちゃんと飲んでるか?」
「うん!」
母親も深く頭を下げる。
「先生方のおかげです。本当にありがとうございました」
「それはよかった」
将臣が立ち上がると、母親が凪へ向けて微笑んだ。
「それから……今日は『結菓子』を買いに来たんです」
「結菓子を……ですか?」
「この子が噂を聞いて。人を元気にしてくれるお菓子だから、食べたいとうるさくてね」
母親が温かく笑う。
将臣の動きが止まり、噛み締めるように目を伏せた。
凪の目にも、熱いものが込み上げてくる。
「……はい! すぐにお包みしますね!」
凪は弾んだ声で、二人を店内へ案内した。
「ありがとうございました! お気をつけて!」
結菓子の包みを大切に抱えた親子が、晴れやかに帰っていく。
小さな背中が角の向こうへ消えるまで、凪と将臣は店先で並んで見送った。
将臣が、ぽつりと呟く。
「……本当に、人を結ぶ菓子だったな」
凪は、隣に立つ将臣を見上げた。
「ええ」
そして、溢れんばかりの笑顔で答える。
「兄様の願いは……叶いました」
凪の髪に挿した結いの意匠が、きらりと光る。
将臣の顔にも、穏やかな笑みが浮かぶ。
自然と重ね合わされる、二人の手。
今度はもう、どちらもその手を離そうとはしなかった。
澄み渡る秋空の下、山吹色の暖簾が二人の頭上で優しく揺れている。
その下で──ふたりは固く、手を結んだ。
(完)