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「いいかいヨンス、これは決定事項だ。君には本田殿と共同生活を送ってもらい、パートナーシップを組んでもらう。以上だ」
上層部の鶴の一声で決まった、まさかの政略結婚。
書類一枚で夫婦(?)にさせられたヨンスと菊は、その日のうちに指定されたマンションの一室へと引っ越す羽目になった。
昼間の引越し作業を終え、二人で食卓を囲み、風呂を済ませたところまでは順調だった。
二人は割り切りが得意な大人だ。「仕事なら仕方ない」と、表向きはドライかつ穏やかにやり過ごす術を知っている。
……だが、問題は「寝室」で起きた。
広々としたキングサイズのベッドを前に、先にパジャマに着替えていたヨンスが胸を張り、ドヤ顔でベッドの真ん中に腰掛けた。
「さあ菊! 上司の命令とはいえ、夫婦になったからには夜の営みも避けては通れない道なんだぜ! 俺がたっぷり可愛がってやるから、お前は素直に俺の下で甘えればいいんだぜ!」
髪を拭きながら寝室に入ってきた菊は、その言葉を聞いた瞬間、ピタリと手を止めた。
その黒い瞳が、すっと冷ややかに細められる。
「……ヨンスさん。いま何とおっしゃいましたか?」
「え? 『俺の下で甘えればいい』って言ったんだぜ? だって俺の方が年上だし、背も体格も俺の方が上なんだから、俺が攻めで菊が受けになるのが自然な摂理だろ!」
「…戯言を」
菊は低く静かな声で一蹴すると、ベッドへと歩み寄り、ヨンスを見下ろす位置に立った。
「政略結婚という命令には従いましたが、 夜の生活の主導権まで上司に指示された覚えはありませんね。私だって下に甘んじる気など毛頭無いんですけど?」
「はぁ!? 菊、お前まさか俺を抱……ごにょごにょ、俺の上になろうとしてるんだぜ!?」
「当たり前でしょう。長年培ってきた私の意地と技量を舐めないでいただきたい。あなたを翻弄して泣かせる準備なら、いつでもできています」
「な……! 泣かせるのは俺のセリフなんだぜ!!」
ガタッとベッドから立ち上がったヨンスと、静かな威圧感を放つ菊。
二人の間で、目えないスパークが散り始める。
「じゃあどうするんだぜ!? 上と下、二人とも譲らないなら話が進まないんだぜ!」
「簡単なことです。勝負で決めましょう」
「勝負……! いいぜ、腕相撲か!? それとも大食い対決か!?」
「いいえ。――『先に声を漏らした方が下』です」
菊がすっと口元に笑みを浮かべ、ヨンスの胸元に手を伸ばしてパジャマのボタンを一つ解いた。
「っ……!?」
ヨンスの背筋にゾクッと電気のようなものが走る。
いつもは物静かな菊が、夜の「上」を勝ち取るためだけに発揮している、容赦のない執念と色気。
(くっ……! 菊のやつ、本気なんだぜ……! でも、年上の意地にかけても、ここで『あぁん』なんて声を上げて下に回るわけにはいかないんだぜ!!)
「ふふ、いい度胸だぜ菊……! 後悔しても遅いんだぜ!」
ヨンスも負けじと菊の腰を引き寄せ、互いに相手の弱点を探るような、攻防という名の上着の脱がし合いが始まった。
「(くっ……そこは……っ!)」
「(ほーら菊、声が出そうになってるんだぜ……!)」
「(……舐めないでください、この程度……っ!)」
指先が肌を撫でるたび、唇が触れ合うたび、お互いに限界まで声を押し殺しながら、猛烈な「マウントの取り合い」が繰り広げられる。上になりたいヨンスの強引な攻めと、絶対に下に落ちたくない菊の巧みな返し技。
相手を悶絶させようと必死になればなるほど、自分も相手の罠にかかって息が荒くなっていく。
結局――
翌朝。
リビングのソファで、二人揃ってグッタリと座り込んでいた。
お互いに服は乱れ、首筋にはうっすらと赤い痕が残っているものの、決定的な一線は越えられないまま朝を迎えてしまったのだ。
「……はぁ……菊……お前、マジで声出さないな……」
「……あなたこそ……しぶとすぎます……」
コーヒーを淹れる気力すら湧かない二人は、天井を見上げたまま溜息をついた。
上司の命じた政略結婚は無事にスタートしたものの、二人の夜の「主導権争い」という名の戦いは、まだ始まったばかりだった。
【つづく】
コメント
1件
あらら、これは面白いすれ違いざまの攻防戦だね。上司の鶴の一声で突然パートナーシップを組まされた挙句、夜の主導権争いが「先に声を漏らした方が下」ってルールで決着をつけようとする二人……その設定がもうツボ。年上で体格も上ってドヤるヨンスさんの豪胆さと、涼しい顔で「私の意地と技量を舐めないで」と切り返す菊さんの冷静な執念、どっちも魅力的で、どっちを応援すればいいのか困っちゃうよ。結局一晩中決着つかずに朝を迎えたところ、めちゃくちゃ微笑ましくて笑った。次はどっちが「上」を勝ち取るのか、楽しみにしてるね!
NARI
47
ただの猫好き