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店長の生き霊が現れた
生き霊とは、生きている人間の霊魂が体外に出て自由に動き回るといわれているもの。
怨みや憎しみなどの感情から生じるものもあれば、恋慕やその他強い感情によって出現するものもあると言われている。
「……なぜ、なんですか。店長。」
店長が街を出てはや1ヶ月と少し。
私の目の前には、店長がいる。
もちろん本物の店長ではない。おそらく。
この店長は言葉を発さないし、何より足元が透けている。
生き霊、と言われるものなのだろうか。
最初はデバイスのエラーが起きたのかと思ったが、メンテナンスを行っても異常はなく。
「あなたは店長の魂ということなんですか?」
店長は私を見つめたまま微動だにしない。
せめてコミュニケーションが取れれば楽なのに。
こっちにいた時より少し痩せている。
くまも酷い。
何より、5日前に現れてからずっと、物憂げな顔をしているのだ。
「向こうが、辛いんですか。」
彼は自らの目標を達成するため、警察に戻るために街に帰った。
元々警察官だったとはいえ、半年以上も行方をくらまし犯罪行為を行っていたのだ。
向こうでどんな処罰を受けているか分からない。
会長は心配することない、と言っていたが、流石に案じてしまう。
「どうして、私の元に?」
店長は動かない。
ただ静かに、ただそこに立っている。
このことはまだ誰にも話していない。
私の元に現れた事に、意味があるような気がしてならなかった。
無線が入る。
『リグ取れました!』
ジョアさんがリグを取ったらしい。
私も行かなければ。
「では店長、行ってきます。」
この5日間を通し、いくつか気づいたことがある。
まず、先程も言った通り、この店長は会話をしないこと。こちらの問いかけに反応してくれないので、なぜ、何のために現れたのか、自我があるのかすら分からないこと。
また、店長は私が移動するところに着いてくること。この場合、憑いてくる、と言った方が正しいか。
そして、大型の現場には来ないこと。私たちが大型をしている間、どこで何をしているのか、分からないことが多すぎる。
分かっていることをメモリ内で整理しながらリグの準備をする。
銃の耐久を見て、弾の残りを確認して。
豪邸を出て振り向けば、店長は玄関に佇んでいた。
「……店長。」
ほんの少しだけ、店長が微笑んだような気がした。
ヴォラタスには思い入れがある。
アイアンテール、なんて技を編み出し、実験台(練習台)として何度も煙を吹かされた。
ああ、やっぱりあなたにはまだまだ遠く及ばない。
「お待たせしました!」
「大丈夫ですよ、では行きましょうか。」
受注場所からジョアさんが帰ってきた。
集中しなければ。
たった2人の限界大型にも慣れてしまった。
2人それぞれヘリを出し、2人で金を取っていく。
「ヘリ2台来てますね。」
「もう少しで取り終わります。」
受注場所に居たトップギアが客船を取ったらしいので、上手く行けば警察の人数が割かれているはず。
そんなジョアさんの予想通り、ポリスマーベリック2台のみが頭上を飛び回っている。
ならば。
「分割したまま二手に別れましょう。」
「そうすね。オレ砂漠に逃げます。」
「では私は街の方に。」
応援を呼ばれる前にリグから離れる。
ジョアさんは店長から買ったらしいヴォリトー、私はヴォラタスで飛び立つ。
沈みかけの夕日が眩しく光り、カメラの焦点が少しズレる。
集音デバイスが上からノイズを拾う。
これは、避けきれない、
『ーーーーーー。』
結果、オイルリグは成功。
ジョアさんはコの字に逃げ込み、私はゲーセンへ入った。
ヘリの耐久は残り4割ほど。
危なかった、と思う。
それより、あの時聞こえた声は、一体。
「戻りました。」
「おかえりなさい!上手く行きましたね。」
「そうですね。私を追っていたのは皇帝でした。「止まれー!犯罪者ー!」と言った2秒後にビルにぶつかって煙吹いてました。」
「ギッw俺の方は多分さぶちゃんでしたね。結構危なかったっす。」
反省と対策を話し合い、1度解散する。
ジョアさんは軽強盗に向かっていった。
「店長。」
明かりの灯っていない、真っ暗な寝室のベッドに腰掛ける、半透明の店長。
「リグで、声をかけたのはあなたですよね?」
店長は動かない。
「ありがとうございました。おかげで逃げ切れましたよ。」
目を伏せたままの店長は、定まらない輪郭で確かにそこにいる。
「店長、私に何ができますか?私は、店長の役に立ちたいです。」
少し怯えたように、店長の輪郭が震える。
「店長。」
数分、数十分。どのくらいの時間そうしていたか。
ゆらゆらと揺れる店長は、薄く口を開く。
『………後悔、している。』
「……!それは、何に。」
続く言葉を声にするのを躊躇っているのか、視線を彷徨わせる。
『……お前を、手放したこと、置いていったことを。俺は、後悔してるのかも、しれない。』
初めて目が合った。
親の機嫌をうかがう子供のようだ。
「それで、私のもとに来たんですか。わざわざ?」
『……そう、なんだと、思う。』
こんな人だっただろうか。
最後の記憶との食い違いに、CPUがひとつエラーを吐いた。
しかし、それもすぐ治まる。
店長は優しい人なのだ。
それこそ、自らの野望のために街を飛び出しはいいものの、置いてきた仲間が気になって生霊になってしまうくらい。
優しい、人のために生きる人。
……それがなんだか、すとん、と腑に落ちて。
まだ忙しなく視線をうろつかせる店長の、その実体のない頬に手を添える。
「店長。」
触れられない、触れていないはずなのに、変わらぬ温度を持っている。
「今此処で話していることは、隣町で過ごす貴方には伝わっているのでしょうか。」
『……わからない。多分、覚えてないんじゃないかなあ。』
くまの濃く染み付いた目元を穏やかに緩めて、寂しげに笑う。
『今は眠ってるよ。きっとね。』
店長は静かに胸元に手を当て、撫で下ろす。
『「俺」は、ロスサントスに俺が置いていった、未練だ。』
…ああ、そんなふうに、笑わないで。
半透明にぼけた貴方に、触れることが出来ないのが、苦しかった。何故、コアが痛む。私には感情など、無いはずなのに。
『ケイン。黙らないでよ…。』
「……私は、確かに、店長が此処を去ると聞いた時、とても、寂しい、寂しかった。」
『…うん。』
「私、本当は、引き止めたい、って、思って、違う、店長の意思を、尊重しようとして。」
CPUのエラーが止まらない。
ズクズクとコアが痛む。
スピーカーは音を吐き出すのをやめてくれなかった。
『……ふふ、感情、あるやん。』
『俺はさ、…まあ、寝食忘れて無茶するとかはたまにあるけど、』
店長の両手が、私の頭部を包み込む。
『お前らの行く末を見届けられないのが、1番気がかり。』
「……店長、どこまでお人好しなんです?」
『ええ?めちゃくちゃ頑張って声出したのに…、そんなん言う?』
くすくすと笑う。
どうやら5日間だんまりを決め込んでいた訳ではなかったらしい。
『あー……、話したら、なんか安心しちゃった。』
今までのしおらしさは一気に霧散し、にぱっと音でも出そうなくらいに笑う店長。
「……行かないでください。」
『えぇ?』
自身の、紛れもない願望であるこの言葉。
もちろん、叶わないと知っての、言葉。
ヒトを模倣した機械の、あるはずの無い、
……感情。
『……ごめんね。』
『また、向こうの俺が思い出したら来るかもだし、サ!』
「フォローになってないです。」
『…そうかw』
少しだけファンが回った。
窓からキラリと光が差し込む。
『もー朝か。』
「ですね。」
窓の外を見てから、少し寂しそうに私を見る。
『……ケインは大丈夫だよ。ってか868は大丈夫。』
少しづつ、店長の輪郭が空に溶けていく。
「また、会えますか。」
『生きてりゃいつか会えるよ。』
輪郭はもう曖昧になった。
これだけは、伝えておかなければならない。
拳を握りしめ、少しの圧を意識して。
「……手紙、書いてくださいね。忘れたとは言わせません。」
『あ……ふふ、分かったよ。皆の分ね?』
「もちろん。」
1週間後、豪邸のポストに差出人不明の小包が届いた。
構成員とボスそれぞれに当てた手紙と、どこのものか分からない鍵がひとつ。
手紙は少し癖のある字で、丁寧に書かれていた。
仕事が落ち着いて、ようやく手紙が出せる、
こっちでは上手くやっている、みんな元気だろうか…など。
こちらを労う言葉も添えた、店長らしい素朴な手紙。
トピオさんもジョアさんも会長も、みんな嬉しそうで寂しそうだった。
問題は、この鍵。
会長に聞けば、
「あー…これ、署員寮の部屋の鍵っぽいな。アイツの部屋の合鍵とかなんちゃう?」
とのこと。
会いに来い、ということか。
…………面白い。
なら、新たな構成員も交えて押しかけてやろうじゃないか。
「待っていてください。もう、我慢しませんから。」
オチつけんの大変すぎーーー!
ケインとレダーの関係に脳を焼かれまくったオタクです。
なんとなく駄作な匂いするけどまあ出しちゃう。
VCRで無事に生活リズム終わりました。幸せです。
ヘッダー変えなきゃ……。嬉しい……。
また不定期遅筆になると思いますので、まあ気長に待っていて頂ければ。それじゃ。