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「――ッ!?」


 俺の発言に、明らかに動揺が隠せていない第二王女のグリンダ。

 鋭い視線を俺に向け、驚愕の表情を露にしていたのだが、それはすぐに第四王女のリリーへと向いた。

 それは俺が第四王女の派閥に属しているからに外ならず、リリーの差し金だろうと推測するには十分な要素だからだ。


 リリーは、すべてを見抜いていた。

 姉であるグリンダが興味もない式典に、わざわざ足を運ぶはずがない。そこに別の狙いがあることなど、考えるまでもなかった。

 第二王女という立場を持ち出し、式典に顔を出してやった――その「貸し」を理由に、見返りを求める。

 表向きは微笑みと祝辞で場を飾りながら、その水面下ではすでに駆け引きが始まっている。

 リリー曰く、その狙いが俺への引き抜き。

 グリンダ自らが動く時は、必ず相応の利益を持ち帰る。今回も例外ではない――リリーはそう結論づけていた。


 恐らく間違ってはいないだろう。それはグリンダの表情を見れば明らか。まさか反抗するとは思っても見なかったとでも言いたげな視線だ。


「ううむ……九条、それは出来ぬ。一介の冒険者にはわからぬかもしれぬが、王宮では毎日何百という品を取引している。それを止めることは出来ぬのだ。それなりの理由が無ければ……」


 国王の言葉にホッと安堵の表情を見せるグリンダだったが、俺がその程度で引き下がるわけがない。


「恐れながら、理由ならございます。カーゴ商会は自分の従魔たちを殺そうと暗躍しておりました。そんな者たちがいる国には安心して住むことなぞ出来ません。自分は国を捨てる覚悟で進言致しております」


 会場内がどよめきに包まれる。プラチナプレート冒険者が国を捨てるというのだ。それがどれだけ重要なことか、わからぬ者はいないだろう。


「|獣使い《ビーストテイマー》に|魔獣使い《ビーストマスター》。適性は違えど思いは同じ。行動を共にする従魔は言わば家族。その安全が脅かされるのなら国を捨てるしか道はない。陛下、今一度ご再考を……」


「お父様! それは妄言です! カーゴ商会がそのようなことをしたなどと世迷言を……そうですわ。ここにカーゴ商会の者がおります。直接聞いてみればよいのです。モーガン!」


 俺の言葉を遮り、グリンダが声を荒げる。その後ろからすごすごと姿を見せたモーガンの顔には生気が感じられなかった。

 傍から見れば計画は完璧。マルコの口止めもして万全の体制が整っていた――にもかかわらず、まさか自分の行いが俺に気付かれているとは思いもよらなかった――と、いったところか。


 視線を落とし、ぶるぶると力なく震えるモーガン。

 普段であれば、たとえ窮地であったとしても、巧みな話術で見事に弁明して見せることが出来ただろう。

 だが、今は国王の御前だ。極度の緊張状態。それにカーゴ商会の命運が自分に懸かっていると思えば、足が竦んでしまっても不思議ではない。

 その挙動不審な動きは、誰がどう見てもコイツやったな?――とわかるほど。


「その方をカーゴ商会の代表として問おう。カーゴ商会が九条の従魔たちを殺めようとしていたのは事実か?」


「陛下の御前よ。嘘偽りなく答えなさい」


 モーガンにそれだけ信用を置いているのだろうが、グリンダの発言は、最早敵か味方なのかわからない。


「め、滅相もございましぇん。そ、そのような話、じ、じじじ事実無根でござ……ございましゅ……」


 認めるわけにはいかないという心境は理解できるが、その応答は酷いとしか言いようがない。


 その時だ。リリーが手を叩き、皆の注目を集めた。


「では、この方々に意見を窺うことにしましょう。……どうぞ入ってきて下さい」


 すると突然会場の扉がゆっくりと開かれ、そこに立っていたのはギルドの制服に身を包んだ二人の男。


「リリー。その者たちは?」


「お初お目にかかります陛下。わたくしはギルド支部長を務めておりますロバートと申します」


「同じく、職員のマルコです」


 ロバートとマルコが王の前で跪くと、突如会場に響き渡るモーガンの奇声。


「うにょわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 マルコの姿を見て悟ったのだろう。それは全てを見抜かれているのと同義である。

 最早言い逃れは不可能。そう悟ったのだろうモーガンは、脱兎のごとく逃げ出したのだ。


 それに皆が唖然としていた。咄嗟のことで、護衛の兵たちもどうしていいのかわからない様子。

 モーガンはそのまま王の間を飛び出すと、廊下を曲がり姿を消した。


「追いなさい!」


 リリーが声を上げ、皆がハッとなった。兵たちがわちゃわちゃと慌てて動き出すと、俺はそれを遮った。


「任せてください」


 四匹の魔獣たちが風のように駆け出すと、すぐにモーガンを咥えて戻ってきた。

 咥えていたのはコクセイで、宙吊りのモーガンは観念したかのように大人しかった。


 ――――――――――


 モーガンは国王の前で正座していた。誰がやれと言った訳ではない。自分から進んでしているのだ。


「申し訳ございませんでした! わたくしめが独断でやったことです。商会は関係ありません。なにとぞ、なにとぞぉぉぉ」


 そんな謝罪が通用するほど甘くはない。モーガンは王に沙汰を言い渡されると、その罪により投獄となり連行された。

 両脇を兵に抱えられ、連行されて行くモーガンの必死の謝罪も無駄に終わり、その声も聞こえなくなった頃、会場では微妙な空気が流れる。


 ロバートとマルコは、お互い顔を見合わせ困った様子。

 それもそのはず。モーガンの悪事を証言するためリリーに呼び出された二人だが、モーガンはマルコの姿を見てあっさりと自白し、結局二人は一言も言葉を発していない。

 この二人は一体何をしに来たんだろう……? と、誰もが不思議に思う中、その空気を元に戻したのは国王アドウェールであった。


「すまなかった九条。カーゴ商会の悪事を見抜けなかったのは王である私にも責任がある」


「陛下、お止め下さい。陛下には何の落ち度もございません」


 頭を下げるアドウェールを必死に止める。

 プラチナプレート冒険者を失った時の損失を鑑みれば、それも妥当なのかもしれないが、そんなことは求めていない。

 報復……とまでは言わないが、モーガンが裁かれ、従魔達に安全な森が戻ってくるのであれば、俺の目的は達成されたも同然。満足のいく結果である。


「しかし、カーゴ商会との契約を打ち切るとなれば、我が王宮も立ち行かなくなる……」


 それは公然たる事実だ。俺の願いを叶えるには、カーゴ商会と同量の取引を任せられる組織を探し出さねばならない。


「お父様。それなら心配いりません」


 そんな国王の元に歩み寄ったのは、リリーと一人のスーツの男性。


「陛下。そのお取引、是非わたくし共にお任せください」


「そなたは?」


「お初お目にかかります。マイルズ商会会長のウォルコットと申します」


 笑顔で頷いて見せるリリー。アドウェールにはそれだけで十分だった。


「ふむ……よかろう。カーゴ商会との契約を打ち切り、代わりをマイルズ商会に任せるとしよう」


「ありがたき幸せにございます」


 ウォルコットは深々と頭を下げ、第四王女派閥の貴族たちは歓声を上げる。


 それに対し、不快感を露にするグリンダ。

 リリーからの反撃に、煮えくり返りそうなはらわたを必死に抑えている――。そんな近寄りがたい雰囲気を纏っている。


「フン。行きますわよ」


 グリンダはそう声を掛けると王の御前にもかかわらず、派閥の貴族たちを引き連れ会場を出て行ってしまった。

死霊術師の生臭坊主は異世界でもスローライフを送りたい。

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