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授与式が終わるとテーブルの上には次々と料理が運ばれてくる。
立食でのバイキング。それはもう見たこともないような晴れやかな料理ばかりだ。
先程までガチガチに固まっていたミアもご満悦の様子。口いっぱいに頬張るその姿はハムスターのようで微笑ましい。
「九条。すまなかった……」
ミアの隣で一緒になって食事を楽しんでいた俺の前で、マルコは頭を下げた。
「モーガンの悪事も暴けたことだし許してやりたいところではあるが、罰はちゃんと考えておいたぞ?」
緊張の面持ちで俺の言葉を待つマルコ。唾を飲み込み冷や汗が滲む。
「ミアに優しくしろ――とは言わない。せめて対等の立場を維持することくらいできるだろ? それをお前への罰としようじゃないか」
「そ、そんなのでいいのか?」
「ああ。難しくはないだろ?」
ミアが食事の手を止めマルコに微笑みかけると、マルコは柔らかな表情を浮かべミアにもしっかりと謝罪し頭を下げた。
マルコがロバートと共に去って行くと、俺の周りに集まる貴族たち。ネストかバイスに助けを求めようにも、他の貴族の相手をしていて忙しそう。
ようやくミアと一緒に食事を楽しめるのかと思えばコレである。そもそも俺なんかと仲良くしたところでメリットなど何もない。
だから、話しかけて来るな! そう思いながら愛想笑いを振りまいていると、一人の女性が会場へと現れた。
それが第二王女のグリンダであると知るや否や、場の空気が一変する。
忘れ物でも探しているかの如くキョロキョロと視線を泳がせたグリンダは、俺と目が合うと胸を張りつつ近づいて来る。
その圧に耐えきれなかったのか、俺を取り巻く貴族たちが離れてくれたのは僥倖だ。
貴族たちの相手をするより、グリンダを相手にしていた方が気を遣わずに済む。
「九条。知っているでしょうけど私は第二王女のグリンダ。この私が直々に来てあげたわ。私の派閥に入りなさい」
「ふぁ? なんれれすか?」
テーブルに並べられている大皿の上からシュウマイのような物を口に運び、それを目一杯頬張った。
「リリーのところより待遇はいいはずよ。お金も女も用意してあげる」
それにピクリと反応してしまったのは悲しい男の|性《さが》である。
お金はどうでもいいが、女に興味がないわけじゃない。
だが、そんなことで首を縦に振るわけがないのだ。
「ふいまへん。お金はいらないれふ。ミアがいるんで女も間に合ってまふ」
俺がそう言うのにも訳がある。モーガンが連行された後、会場はうやむやになっていたミアに対する褒美の話になった。
国王がミアに望みを聞くと、ミアは俺と一緒にいられるのなら何もいらないと答えたのだ。
それには皆が驚いた。それは子供らしくもあり、子供らしくない答えだったからだ。
年頃の娘。その場にいた貴族たちは、艶やかな衣装や高価なアクセサリーの類など現実的な物を欲しがるのだろうと思っていたはず。
ギルド職員として働いているとは言えまだ子供。俺とミアが一緒に住んでいるという話は知られているだろう。
それは当然親子のような関係だと誰もが思っていた。親と子が一緒に住むのは至極当然。ならばそれ以外を望むのが普通。
しかし、ミアはその当然の権利を望んだのだ。
国王はそれを聞いて高らかに笑った。そしてミアに約束したのだ。
「そなたと九条を引き離すような事態になれば何時でも私にいいなさい」と。
国王がそれをどう解釈したのかはわからない。言葉通りの意味なのか、子供なりに気を使い遠慮したと思われたのか……。
どちらにせよ、ミアがそこまで言ったのだ。俺がそれに応えずどうするというのか。
「あなた! 私が来てあげたのよ? これは名誉なことなの! わかってるの!?」
「頼んでないれふ」
「まずは食べるのを止めなさい!」
「嫌れふ」
グリンダは怒り心頭といった様子で顔を真っ赤にしていた。この国にグリンダに逆らう愚か者はいないだろう。いるとすればそれは権力をしらない無知か、ただのバカだ。
俺は一介の冒険者であり、どんなに功績を上げようとも王族より偉くはなれない。
それでもグリンダの言うことを聞かなくとも許されるのは、俺が貴族でも一般人でもないからだ。
プラチナプレートの冒険者はギルドの最重要保護対象であり、不敬だからと簡単に罰することが出来ないのである。
グリンダの気持ちもわかる。非常識な俺なんかを派閥に入れたくはないだろう。しかし、権力誇示のためには必要な存在であり、第一王子のいない今がチャンスなのだ。
しかし、それを黙って見ているリリーではなかった。俺の隣にスッと並び立ち、グリンダに向かって精一杯の視線を向ける。
「お姉様。わ、た、く、しの九条に、何か御用ですか?」
「――ッ!?」
それは確実にグリンダの神経を逆なでした。だが、それはもっともな意見だ。
組織間の引き抜き行為は違法ではないが、あまりいい顔をされないのも事実。それをグリンダはリリーの見ている前でやっている。どれだけグリンダが焦っているのかは想像に難くない。
カーゴ商会からグリンダへの賄賂は途絶え、グリンダがアドウェールを説得したところで、正式な認可が下りた以上それが覆ることはない。
自慢の取り巻き貴族たちはこの場には誰もおらず。圧倒的アウェー。
グリンダは歯を食いしばり、勝ち誇った表情を浮かべるリリーを見下ろしていた。
俺の隣ではミアが心配そうに顔を見上げていて、その反対側ではリリーが俺の手をわざとらしく握る。
それに酷く憤慨したグリンダは、捨て台詞を吐くと踵を返し去って行く。
「このロリコン野郎ッ!!」
それに伴い、氷のように冷たかった場の空気が解れたのはいいのだが、その去り際の一言が俺の心を深く抉ったのは言うまでもない。
ネストとバイスはゲラゲラと笑っていた。
別に笑うなとは言わない。確かに面白かったのかもしれないが、王の御前だ。涙を流すほど笑うことはないじゃないか。泣きたいのはこっちである……。
そのせいか、俺を見上げていたミアとリリーも委縮してしまっている。
恐らく、自分たちが俺の傍にいたからだろうと自責の念に駆られているのだ。
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
「すいません……九条……」
「……いや……二人が悪いわけじゃ……」
ミアは俺の担当だ。近くにいて当然。リリーは俺を第二王女に盗られてはなるまいとプレッシャーをかけに来ただけ。
リリーが可愛いというのは認めよう。誰もが羨む権力と容姿。それに引かれる者も多いだろう。だが俺はそんな不純な理由で派閥に入ったわけじゃない。
王家や貴族にどれだけの派閥が存在しているのかは知らないが、その中でも一番知り合いが多く、ネストとバイスは信用に値する。そして、何よりリリーは俺とギルドが揉めていた時に助けてくれたのだ。
それだけの理由があるにも関わらず、第二王女は俺がロリコンだからと一方的に決めつけたのだ。
少しでも調査すればわかるはずだが、それをしなかった。そこまでしなくとも引き抜ける自信があったのだろう。
権力でもカネでも女でも動かない俺を動かすもの。それは性癖なのだと解釈されたのである。勘弁してくれ……。
恐ろしくて国王の顔を見ることが出来ない……。俺が不純な理由で派閥にとどまっていると思われていたら、殺されるのではなかろうか……。
そう思うと、先程まで舌鼓を打っていた料理の味もわからなくなる。
「お兄ちゃん。顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ……なんとか……」
それからというもの、俺に声を掛けようとする者はいなかった。哀愁漂う俺の背中が、不憫に見えてしまったのだろう……。
――――――――――
パーティーが終わると俺たちは使用人に連れられて、貴賓室へと招かれた。
「お疲れさまでした、九条」
そこに居たのはヒルバークとリリー。直接ここへ来たのだろう。その恰好はドレスのまま。
リリーは俺の心情を察してか、申し訳なさそうに縮こまっていた。
「ええ、ホントに疲れました。しばらく休暇を頂きたいくらいですよ」
俺がわざとらしく肩をすくめると、遠慮がちにクスクスと笑うリリー。
「王女様の方はどうでしたか? 第二王女を見返すことは出来ましたか?」
「ええ、これ以上ないくらいスカッとしました。……でもあまり気分の良いものではありませんね……」
両手を胸のあたりで握り締め、晴れやかな笑顔で答えるリリーだったが、その笑顔も最後にはなくなっていた。
それには俺も同意する。たとえリリーが国の実権を握っていたとしても、理不尽に人を傷つけるようなことはしないだろう。
リリーは優しき王女だ。常に周りのことを考え、手を差し伸べようとしてくれている。
ネストが重傷を負ったと聞いた時も、リリーは城を出てまで迎えに来たのだ。仮に第二王女の派閥の貴族が同じような状況に陥ったとしても、恐らくグリンダはそこまではしない。
「九条のおかげで全て上手くいきました。ありがとうございます。これでお姉様が、少しでも大人しくなってくだされば良いのですが……」
「どーでしょうねぇ。無理な気がしますけどねぇ」
後ろから聞こえたのはネストの声。バイスとウォルコットを連れ、いつの間にか扉の前に立っていた。
「まあ、後はやり返されないようちゃんと見張っておかないとな。ヒルバーク、頑張れよ?」
「もちろんです!」
バイスに発破をかけられたヒルバークは胸を張り、自信ありげに大きく頷いて見せる。
その後は今後の予定など話し合っていた。といっても俺とミア、それと従魔たちは村へと帰るだけ。後のことは貴族組に一任した。
そのまま王宮の貴賓室にて一夜を明かす。
さすが王宮の貴賓室。ネストの家よりも豪華なのはいいのだが、なんというか豪華すぎて気を使ってしまう。どこを見てもキラキラと輝いていて落ち着かない。
ミアは喜んでいたが、綺麗すぎて汚せないと思うと気が気ではない。
やはり俺には、庶民の暮らしの方が似合っているのだろう。