rdside
昼下がりの病院は、どこか特有の静けさをまとっている。
廊下を照らす蛍光灯はやわらかく白く、窓の向こうには小さな水滴の数々がただ静かに降り注いでいた。
雨音に混ざって遠くからカートを押す音やナースコールのチャイムがかすかに響いてくる。
そのすべてが、日常のざわめきよりもずっと小さく感じられる。
俺は車椅子に座ったぺいんとくんの後ろに立ち、震える手を抑えてそっとハンドルを握る。
今日は初めて病室を離れて院内を歩く日だ。
彼は少し緊張したように膝の上で手を重ねている。
まだ骨折した手は包帯に覆われ、自分で動かすには心許ない。
だから俺が押す。
それが当たり前みたいに感じていたけれどいざその場に居あわせるとなんだか俺まで緊張してしまう。
rd「準備はいい?」
pn「… うん」
と声をかけると、彼は一瞬迷ったあと、小さくうなずいた。
背中に伝わるその仕草に、俺の胸も不思議と温かくなる。
pnside
病室の外に出るなんて、何日ぶりだろう。
ましてやこの病院は初めて来たから病室の外の景色が分からない。
緊張を胸にしながら静かに車椅子が動き始めた。
扉が開いた瞬間、冷たい廊下の空気が頬を撫でた。
先生が押す車椅子は安定していて、思っていたよりも怖くなかった。
背中に彼の存在を感じるだけで、不思議と安心できた。
曲がり角をいくつも越えると、ロビーの大きな窓の前に出る。
外の景色が一気に目の前に広がった。
高いビル、揺れる木々、遠くを歩く人々
どれも何気ないもの。
ただそれだけなのに、胸がじんと熱くなる。
pn「…雨」
rd「久しぶりだよね」
思わずこぼした声は、自分でも驚くくらい柔らかかった。
上向くと先生が微笑んでいた。
その笑顔に、胸が少し跳ねる。
こんな気持ちは初めてで、戸惑う。
でも、嫌じゃない。
むしろその温度に包まれていたいと心の奥で願ってしまった。
rdside
窓辺で立ち止まり、ぺいんとくんと並んで外を見た。
久しぶりに降った雨も気づけば止んでいて雲の上から光が差し込む。
頬に映る陽射しが明るく、彼の横顔を際立たせていた。
昨日まで病室のベッドで見ていた顔とは違う
生き生きとした光が宿っている。
pn「良かった …」
rd「ん?」
pn「俺、もう寝たきりだと思ってた」
そう言ってぺいんとくんはくしゃっと微笑んだ。 その姿を見ていると、どうしようもなく惹かれてしまう。
ただの患者じゃない。
守りたいと思う存在。
いや、違う。
もうとっくに「好き」という言葉でしか説明できない感情になっている。
けれど、それを言葉にしてしまえば何かが壊れる気がして。
俺はただ、穏やかな表情を装ったまま窓の外を眺めた。
pnside
窓ガラスに映る自分と先生を並べて見る。
先生は相変わらず穏やかな目で外を見ていて、その横顔が心に焼きついた。
自分は、この人といるから平気なんだ。
怖くても不安でも、先生がそばにいると前に進める、そんな気がしていた。
胸の奥であたたかい何かが芽を出していた。
それはもう「安心」なんかじゃない。
もっと強くて、もっと切実な想い。
pn「…?」
_ 好きなんだ
そう気づいた瞬間、心臓が強く鳴った。
言葉にはできない。
でも確かにここで、はじめて自覚した。
rd「ぺいんとくん」
pn「ぺいんとでいいよ」
rd「そう?笑ヾ」
rd「呼び捨てかぁ … ちょっと緊張しちゃうなぁ 笑ヾ」
そんなことを言って先生は少しぎこちない笑みを浮かべた。
でもそれは不安や不快感を与えるようなものではなくって、むしろ安心感を与えるばかりだった。
rd「…ぺいんと」
初めて先生に呼び捨てで呼ばれた。
暖かかった。優しかった。
先生が好き。
好き
好き
好き
pn「好き」
rd「…え ッ?」
pn「あぁ … 呼び捨てね」
rd「呼び捨ての方が好きだったの?」
pn「うん..」
不意に出た言葉に少し鼓動が高鳴った。
先生の背中越しに見える景色は、どこまでも安心できるものだった。
あの人と一緒なら大丈夫だ。
その思いが心を満たしていく。
「先生」って呼んだら、彼は振り返って微笑んでくれる。
それが嬉しくて、胸の奥でまた「好き」が鳴る。
今はただ、この時間が続いてほしい。
それだけを願っていた。
rdside
窓から差し込む光に、彼の横顔が照らされていた。
あんなに柔らかく笑う顔を、俺は今まで見たことがない。
心の奥に「好き」が溢れて、抑えきれなくなる。
呼び捨てで名前を呼んだ瞬間、胸の内に込み上げた熱は、まだ消えない。
それでも俺は、必死に言い聞かせる。
_ 越えてはいけない線がある
踏み出したら、二人とも傷つくことになる。
rd「そろそろ戻ろうか」
そう口にした声は、いつもより少し硬かった気がする。
ぺいんとくんは気づかずに「うん」と頷き、また笑ってくれた。
その笑顔が嬉しいのに、同時に苦しい。
このままじゃいけない。
そう分かっているのに、足は前に出ない。
俺は彼の車椅子を押しながら、ただ静かに廊下を歩いた。
胸の奥に芽生えたものを、見ないふりをしながら。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ⇝ ♡1000 💬1
コメント
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(墓に入ろうとしてる↓) ( ´ཫ` )っ†┏┛墓┗┓†