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応安7年 近江国
「ややそこの、唐の国の芸を見たか」
「嗚呼それは見事なものだ…刃の上を歩く珍妙な芸であろう。」
その傍らを、飄々とした子供が走り抜ける
「俺だって出来るわ」
「ん、あの小僧は…万五郎か?相も変わらず狂言を吐きおる」
「やや、聞いたかよ、観阿弥・世阿弥父子が、足利に囲まれたんだと」
「ああ、立派なことじゃ。これからはあいつらが時代を築くに違いない。 」
ピタッと、少年の足が止まる。それは彼にとって軽蔑に他ならなかったのか、はたまた少年の焦りを広げたか。
「けっ、そいつらが、足利家がなんだってんだよ」
「あ、こら万五郎!そげな狂言を抜かしおって」
(そんなん、俺だってなれるんや!ああいう今が上がる機を逃し、噂話だけ立てて上がる気のないやつらは、上の食いぶちにさるる…俺はそんなん御免や、俺は何としても上に上がるんや。俺にしかできないことで、この淘汰の世に名を馳せたいんや!)
「痛っ!」
「ははは、何もないとこでつまずきおって」
「はは、無様なやつじゃ 」
「ははは、ドジなやつじゃ」
周囲は笑いに包まれる。転げた旅人は恥ずかしげに立ち上がり、もう1人にグチグチと、文句を垂れている。
(はは、なんやあいつ…)
ただこの小僧、ただ笑う人間ではなかった。万五郎の瞳の奥は、まるで溶けゆく蝋のように、バチバチと、あらあらとした炎に包まれた。
(いや、これは使えるんじゃないか? 観阿弥・世阿弥父子の能は見事じゃ。ただ、 ありゃ今の乱世にゃ美しすぎる。大衆はこの乱世、滑稽無様で大胆不敵な物が見とうて仕方ないはずじゃ…商人が言いよった唐の国から来た猿真似のような芸と、この滑稽な人間芝居これを使えば…!待っとれ観阿弥・世阿弥…悔し文句言わしめてやる… 奴らが神を魅せて来るなら、俺は人間を見せてやる!)
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