数日間、6人は互いに支え合いながら生活を続けた。
休み時間になると、みこと・いるま・こさめの3人は必ず一緒に移動した。
教室から廊下へ出る時、さりげなく兄組が後ろを歩いて視線を払う。教師とすれ違うたびに、みことといるまの肩はぴくりと震え、呼吸が浅くなる。そのたびにすちとひまなつが横に立ち、わざとらしく笑いながら肩を抱き寄せることで、周囲には「ただのじゃれ合い」に見えるようカモフラージュしていた。
昼休みは6人で固まって食事をするのが日課になった。
「今日も美味しそう!!」
こさめが声を張り上げ、強引に笑顔を作って雰囲気を明るくしようとする。
「お前な、声でけぇって」
らんが頭を軽く小突くが、その目は弟を守ろうとする鋭さを帯びていた。
放課後になると、すち・らん・ひまなつの兄組が必ず迎えに来た。帰り道は常に6人で並んで歩き、誰も一人にさせない。
人通りが少ない道では、自然と兄組が外側に立ち、弟たちを真ん中に囲む形になっていた。
ある日、昇降口で例の教師の姿を遠くに見つけた瞬間、みことの息が乱れ、手が震えた。
「みこと、大丈夫」
すちが耳元で囁き、その手をそっと握る。すぐさまらんも視線を鋭くし、教師と弟たちの間に立つようにして出口へと導いた。
ひまなつは何気ない顔で「早く帰んねぇと夕飯遅れるぞー」と言い、空気を和らげる。
緊張感のある日々の中でも、平常心を持ちつつ過ごす。
こさめは「兄ちゃんたちと一緒なら絶対大丈夫だ!」と無邪気に笑い、みことはその笑顔に救われるように口元をほころばせた。
6人の日常は、いつもよりぎこちなく、けれど確かな絆で結ばれていた。
その朝――。
両親が今日帰ってくるという知らせに、6人は小さな安心感を抱いていた。
「なんだかんだ、何も起こらなくてよかったな」
らんが伸びをしながら笑う。
すちも頷き、「このまま何事もなく帰ってきてくれれば、それでいいね」と穏やかに答えた。
6人の朝食は、いつもよりも少しだけ明るい空気に包まれていた。
だが、それは同時に“油断”でもあったのかもしれない。
体育の時間。
その日は合同授業で、他クラスと一緒に行うことになっていた。
「うわ、めんどくせぇなー。みこと行くぞ」
いるまがぼやきながらも着替えを済ませ、
みこともその横でジャージのポケットに何かを入れる。
――キーホルダー型の防犯ブザー。
ポケットの中で小さく鳴る金属音に、彼は指先で触れながら小さく息をついた。
(持っていったほうがいい…よね)
いるまが軽く頭を撫でる。
その何気ない仕草に、みことは少しだけ安心した表情を見せた。
体育教師の指示で、2人は旧体育倉庫へ向かうことになった。
「コーン取ってきてくれ。外の準備しておく」
軽い口調で言われたその一言が、後にすべての引き金になるとは誰も思っていなかった。
旧体育倉庫は、使われなくなって久しい古びた建物だった。
照明は暗く、埃っぽい匂いが漂う。
「早くこの辺のもの新倉庫に持ってけっての」
いるまが眉を顰めながらコーンを探していたその時――
背後から、乾いた足音が近づいた。
「……っ?」
振り返る間もなく、 いるまの口元に、濡れた布が押し当てられる。
「っ、は――!」
反射的に相手を突き飛ばそうとするが、腕が急速に力を失っていく。
隣でみことが振り向いた瞬間、同じように布を押し当てられ、
息を吸い込んでしまった。
「……い、るま…く…」
掠れた声を残し、 みことの身体が崩れ落ちる。
埃の舞う暗い倉庫の中で、 2人の倒れた身体のそばに立つ影が、静かに微笑んだ。
グラウンドでは、準備運動が始まっていた。
笛の音と、生徒たちの笑い声が風に混じる。
「……あいつら、遅ぇな」
体育教師が時計に目をやる。
旧体育倉庫へ向かってから、すでに十五分が経過していた。
コーンを取ってくるだけのはずだったのに。
少し眉をひそめたそのとき――
「先生」
背後から穏やかな声がした。
振り返ると、新任教師がコーンを両腕に抱えて立っていた。
「ああ、頼まれていた物、これですよね。
あの二人……途中で気分が悪くなったみたいで。 代わりに持ってきました」
体育教師は一瞬だけ驚いた顔をしたが、
すぐに「そうか、それは助かった」と微笑んだ。
「ありがとう。後で確認しておく」
軽く頭を下げ、授業の指揮に戻る。
新任教師はその姿をしばらく見送っていた。
頬に浮かぶ笑みは、表面上の穏やかさとは違う、 どこか歪んだ愉悦の色を帯びている。
生徒たちの声が遠のいていく中、 彼はコーンをグラウンドの端にそっと置き、 ゆっくりと背を向けた。
その唇が、かすかに歪む。
「……やっと、また会えた」
吐き出されたその言葉は、誰にも届かない。
朝の光の中で、その笑みだけが異様に冷たく輝いていた。
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