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「ママはね、小さい頃に1人でファナリアに行った事があるの」
パフィの母、サンディはのほほんと語っていった。
13歳の頃にちょっとイタズラで親の荷物に潜り込んで寝ていた時、いつの間にかファナリアにいたと言う。
その時の荷物の受取先である酒場の店主が、取引を終えて帰って行った両親を呼んでくれる事になり、連絡や移動で数日かかるということで店の手伝いをしながら待つことにした。
当時から家や祝い事の食事を任されるほど料理が得意だったサンディは、たった1晩手伝っただけで、たちまち人気者となり、偶然その場にお忍びで来ていた国王に、強引に連れていかれてしまった。
当時はよく分からなかったが、なんとなく言われるままに城で料理していたら、何故か大人達がひれ伏してしまい、何故かそこにいたラスィーテ出身の大人達に教える事になる。
数日後に両親がやってきて国王から直々に説明があった。その時母親は褒めてくれたが、父親は気絶した。ちなみに当時のサンディは、料理を作って教えた事以外は、ほとんど状況を理解していなかった。
迷惑料や謝礼を含めたバイト代(大きな屋敷をいくつか建てられる程度)を謁見の間でもらい、親子仲良く城を出たのだった。
「その時に王都で語られる事となった『食天使サンディちゃん』というのが、パフィさんの母親であるサンディさんというわけです」
サンディの思い出話を、ロンデルが締めくくった。なぜかその目の前で、小さな悪魔がウンウンと頷いているように見える。
「なんかもう、すごいん……恥ずかしいを通り越して凄いん」
「ママって昔からこうだったのよ?」
話が終わると、娘2人が母親を別の生き物を見るような目で見ている。余りの過去に食事も止まっている。
「そういえばそんなコトもあったな。ロンデルはよくしってたなー」
「小さい頃に父が危ない目で話してくれたんですよ。家では完全に狂信者でした」
「そ、そうか……」
ロンデルの小さい頃や、祖父とも一緒にいた事のあるピアーニャ。当然ロンデルの父とも一緒にいた事がある為、新たな一面を知って何とも言えない顔になってしまった。
「なんだか恥ずかしいの。今度はパフィの冒険のお話を聞かせてほしいの」
「あ~…うん。私の方はそんなに濃くないのよ……」
サンディが恥ずかしそうにパフィに話を振るが、さすがに自分には王様の下でアルバイトなどという非常識な経歴は無いと、尻込みする……が、
「とかいって、アリエッタ絡みの話はかなり濃いし」
「う……」
「じゅうぶんヒジョウシキだな」
「まったくですね」
クリムの言葉に、ピアーニャとロンデルが同意した。パフィも思い当たる節が多すぎて、反論できないでいる。
その光景を見て、笑いながらアリエッタに話しかける者がいた。
「あははは、パフィ非常識って言われてるね~」
「いや、ミューゼもセットだし」
「ゑ゛っ!?」
食事も終わり、全員リビングでのんびり過ごしている。ロンデルが山であった事を、サンディとシャービットに伝えていた。
「……はぁ、うちの人がお世話になりましたの」
「パパ生きててよかったん」
「しばらくはファナリアでダイエットになりますが、もし来れるようでしたら会いに行ってあげてください」
「そうしますの。ありがとうございますの」
サンディは頭を下げ、感謝した。
そして顔を上げた時、隣でソワソワしていたシャービットがもう1つの気になる話を始めた。
「えっと、それで……山でいろんな事してたって言うその子は何なん? ずっと喋ってないん」
それはもちろんアリエッタの事。食事の時から気になっていたが、後で話すと言われて我慢していた。父親の無事も知って、ようやく話を切り出す事が出来たのだ。
しかしピアーニャ達は、あえてアリエッタが言葉を知らない事を話していない。その話はパフィ達に譲った……訳ではなく、単純に話が長くなって面倒なだけである。だからマルクの事を話したら、すぐに宿へと向かうつもりなのだ。
「そうなの~。すっごく可愛いの。あ、でも総長も可愛いの」
「……わちのコトはいいから。アリエッタのことは、パフィにきけばよかろう。フツカカンずっとイッショにいるからな」
「そうなん! うん!」
目論見通り、ピアーニャとロンデルはみんなに見送られ、明日の朝にクリムを迎えに来ると言って、宿へと向かっていった。
2人を見送った一同は、家の中に入り……リビングの扉を閉めた瞬間、サンディとシャービットの目がギラリと輝く。
「ようやく話が出来るん! お姉ちゃん、わたしにもその子紹介してほしいん!」
「あなたアリエッタちゃんて言うの!? 甘いジュース持ってくるの! 何味がいいの!?」
(わっ、なんだなんだ!?)
この瞬間、パフィとクリムは悟った。
(総長と副総長……)
(逃げやがったし!!)
ピアーニャとロンデルがいなくなったところで、アリエッタのことを話す事には変わりない。2人へのささやかな仕返しは後で考える事にして、まずはアリエッタに紙を渡してクリムに任せ、パフィとミューゼでアリエッタの境遇を話していった。
「うぅ……アリエッタちゃん……そんな……言葉も知らないなんて……」
出会った時の話をした時点で、サンディが涙を流し、
「いいなぁ~! わたしもいろんな服を着せてあげたいん!」
買い物の話をすると、シャービットが羨ましがり、
『ええええええええええ!?』
話の間にアリエッタが描き上げた絵を見て、絶叫していた。
ちなみに描いた絵はシャービットの似顔絵。紙を渡した時に、クリムが指を差してリクエストしていたのだ。可愛く描かれ、もちろん頭の周りに浮かぶ球体もしっかり描かれている。
しばらく自分の絵を凝視していたシャービットだったが、わなわなと震えながらパフィを見て、一言。
「アリエッタちゃんをお嫁さんに欲しいん」
「駄目に決まってるのよ」
(……姉妹揃って同じこと言ってるし)
アリエッタをめぐる姉妹のやり取りを呆れながら眺めていると、クリムは少しずつアリエッタの力が抜けていくのを感じていた。
「そろそろ寝る時間だし? アリエッタが限界みたいだし」
「あら、ごめんなの。お部屋を用意してなかったの」
「パフィと一緒でいいですよ。アリエッタの面倒も見ますから」
サンディは納得すると、パフィをつれて部屋にソファを追加した。ベッドは元々大きく、大人2人なら一緒に寝られる物だった。そこに小さなアリエッタが追加されたところで、特に問題は無い。そしてそのセッティングは、後に争いを生み出す事となる。
部屋の準備が終わると、サンディは風呂を勧めてきた。ミューゼ達の家と比べてかなり大きい風呂という事で、パフィはミューゼ、クリム、アリエッタと一緒に入る事にした。シャービットが一緒に入りたそうにしていたが、今日のところは我慢と、サンディに宥められていた。
アリエッタは眠気が限界の為、大人しく洗われていく。それでもやっぱり少し恥ずかしいのか、ずっと俯いたままである。
「眠そうね~。いつもなら慌てて恥ずかしがるのにね」
「話が長くなって悪い事したのよ。この後ゆっくり寝かせてあげるのよ」
(お風呂で…寝ちゃ…だめ……)「……すぅ……すぅ……」
クリムに抱かれながら浴槽に浸かっているうちに、眠ってしまったアリエッタ。そのまま3人にそっと服を着せられていった。そして最後にフードを被せられ……
「かっ……」
「可愛すぎるっ」
その姿を見て、顔を真っ赤にして喜ぶ3人。うっかり叫ばないように必死である。
アリエッタに着せたのは、もこもこの水色半袖パーカーにもこもこの水色短パン。フードには長い耳がついており、横に垂れている。その姿はアリエッタの前世にいたウサギに似ていた。
6歳の頃のシャービットが使っていた服だったが、シャービットが成長して着れなくなったお下がりである。
「あの時のシャービットも可愛いと思ってたけど、これはレベルが違いすぎるのよ」
「サンディさんにお礼言わなきゃ」
眠ったままのアリエッタをミューゼが抱えてリビングに入った瞬間、アリエッタ耐性の無い2人が叫びそうになったが、パフィとクリムが慌てて口を塞いだお陰でアリエッタを起こさずに済んだ。
「反則なん、可愛すぎるん。これが本当の天使なん……」
眩しい物を見てしまったかのように、顔を抑えてうずくまるシャービット。その気持ちがよ~く分かるパフィは、ウンウンと首を縦に振っている。
ミューゼとクリムはというと、涎を流しながらアリエッタを拝むサンディに風呂と服のお礼を言い、アリエッタを寝かせる為にパフィの部屋に向かった。そこで3人は、ついに本日最大の問題に気づいたのだった。