「え、ええ?そりゃないでしょ…」
「う、うぅ…」
腑抜けた声が頭上で聞こえるが、泣き真似をしている。
店長は、物凄くお人好しだと、聞いたことがある。大して店長と話したことがない私でも、見た目から感じるほどだ。
なら、女の涙に弱いはず。職場での地位と身体を重ねた相手。どちらを選ぶかなんて当然だった。
「……今すぐここから立ち去らないと、警察、呼びますよ。」
「ひっ…わ、わかったよ…くそっ…何で俺が…」
店長が、私を庇うように立ちはだかると、男は情けない声をあげてへっぴり腰で逃げていった。
正直、こんなに男らしいところがあるなんて意外だった。私は店長の横顔を眺めて思った。
しーん、と沈黙が二人を包み込む。
私は、はっとなり、慌て立ち上がる。まだ終わりじゃなかった。
この場をうまくおさめなければ。…まあ、あとは楽勝だけど。
私は涙を拭う振りをすると、店長に向かって天使のような笑顔を向けた。
「店長…ありがとうございました!!私、どうしていいか分からなくてすごく恐くて…庇ってくれた店長、かっこよかったです…」
今度は瞳を潤ませて、店長を上目使いで見つめる。
「あ、いや…なにもされなくてよかったよ…」
案の定、店長は顔を赤らめて頬を掻く。私は、バレないようににやり、と口の端を上げる。